高速螺旋CTの発展

三上準一


はじめに

 新技術の発展応用を考えて見る時に,それは常に発明発見波の一部として,経済波に連動するものでありCTも又例外ではない.約30年程以前に誕生した螺旋走査の考え方は,暫くの間置き去られていたが社会情勢のバイオリズムに乗って,今まさに高速螺旋CTとして開花し急激な成長を続けている.
 この螺旋CTの成長を見る時に,先ずはハード面より連続回転機構が,そしてソフト面よりは高速演算処理が完成を見た事が必要不可欠なものとして大きく作用し,熟成に至らしめたものが(Incremental dynamic study)である(Table1).装置の普及と云う点について見た時,諸国に於いては医療風土や経済事情が,又,日本に於いては診療報酬制度が大きな影響力を持っており,総ての装置が直ちに連続回転型に置き換わるとは考えにくい(Table2).螺旋走査を提供する医療当事者として,人々の健康を願う真摯な態度に合意が得られるならば,ここに企業努力を促すものである.
 

造影の実際

 造影は実質臓器,循環器等を何らかの機序をもって強調描出するものであるが,その中でも螺旋走査が得手とするものが血管系の描出である.IVR手技や透視時に於ける所作については別儀としても,この血管造影の持つ意味にもやはり変遷を視て取らなくてはならない(Fig. 1).即ち,増強効果が出力として積分値によって定められる原理原則の下で,直接動脈造影を中心に表現される「濃く,少なく」の意味は,イオン性造影剤を用いての生理学的な拡散に左右されない最高濃度の(濃く)より,非イオン性造影剤を用いての物理学的な拡散に至らない最適濃度の(濃さ)へと,そして間接的な医源疾病が出来るだけ起きない様にとの(少なく)より,起こさないまでの(多さ)へと変遷し,静注法下に於ける造影剤の体循環時間(Fig. 2)のより臨床に即した解析をも発生せしめる事となっている.この面に於ける応用がTrial shot(Fig. 3)であり,展開の一つが装置ソフトを用いてのPrep.Scanである.
 又,造影剤それ自身の研究としては,血液プール型造影剤の内,弗素系のものが主力となって開発中であり,中でもパーフルオロ化合物が万能型造影剤として期待されている.この化合物は,臭素原子の一つが弗素原子に置換した弗素化合物で,X線,超音波,MRI検査等に有用となっている(Table3).
 

画像情報の処理及保管

 ここにまた数々の難問が発生してきている.それは画像収集を行う際のメモリーに於ける生データ配分より始まっている.一般的に生データ配分はHRCT等に代表される再構成量を優先して考慮されており,螺旋収集時の管球耐負荷に合わせ若干の修正が行われてはいるが,この配分にて螺旋収集を行うと,バックグラウンド作業の有無に拘わらず,例えば頭部では1〜2件,腹部では2〜3件の処理をもって,後処理は制限を受けることになり,勢いメモリーの増設と云う事になるが,装置自身は重くなり,デスクトップワークとしてのある面では作業能率,効率の低下を引き起こす事となる.装置耐用年数,依頼検査項目の傾向,就労時間,画像情報分散処理,医療情報通信,操作担当人員数(例えば定員制の下での放射線部門独自による業務委託),等を因子とした装置構成及等級の熟慮再考が必要となってくるが,業務に於ける「新展開の機会(機械)」と期待するものである.

 次に画像処理である.手技手法については次の明敏な報告の通りであるが,現在の所,特に三次元立体像構築の際に多用されている値処理にての関心領域抽出と云う方法には,作為的な「ダウンコンバート」を内包する事により厳密な上で定量性や再現性を持つ事は困難であり,時に検者の技術域を越えて技能域に頼る結果となり,情報の収集や提供する場に不本意な形での信頼性や品位の低下を生む事になる.立体像の構築は,先ずコンピュータの眼をもってのDigital処理から始まり次にコンピュータの手をもってのCAD処理へと進み,三点透視図法を用い線遠近法表現を行う訳であるが,その際,より現実味を帯びる様に彩影強調を施し,定量性の低い色彩遠近法も付益する事になる.この時点でコンピュータの頭脳としての作用は人間の大脳の作動へと変化する.そしてこの様な形での大脳の作動能は,極めて物理工学的実体経験の多い放射線技師の情報の読影より,解剖生理学的実・態・経・験・の多い医師の情報の診断へと提供され,往々に技師,医師にそれぞれFalse positive,False negativeを増加させる事になる.又,MRA作画では早くから用いられているが,三次元的描写の一つであるMIP法ステレオ表示のなかで,アキシャルコラップス像HF軸ステレオの場合,撮影対象幅等によって奥行視覚上,凹凸の逆転(Pseudoscopy)がみられる事があり観察眼が足方に有るにも拘わらず血管像のみ頭方より観察している状態が生じ,映像上左右反転の矛盾が発生するので例えばFilmへの露出を行う際,事前にCRT上で反転の有無の確認を行っておく事が必要である.この様に色々な形勢で,バーチャルリアリティ(Virtual Reality)(Table4).をより有機的に医療に用いる時,知覚的経験や学習と思考(注釈1)に於けるゲシュタルト心理学(Table5),要因,理論の技術域での解析応用そして技能域に於ける自己完結を行う事が重要であり,情報の高品位への移行が即ち有病正診率及び無病正診率(Sensitivity & Specificity)の向上へと繋がるものである.

『(注釈1) 知覚体制の原理 一緒に動く,「よい」形または閉じた形をつくる等の性質を刺激要因が持つとき,それによって知覚的な一つの単位が形成される.
 同様に,互いに類似し且つ近接している部分も単位を形成しがちである.その様な刺激要因が曖昧なときには,見る人の心構え,動機,習慣,注意力等が単位形成に影響する事もある.
 この様に対象として知覚された単位は,背景(地)よりは一層「ものらしさ」を持ち,「地」の上の「図」として,知覚的にも記憶的にも浮かび上がってくる.
 

学習と思考

 記憶される項目間の結合は,項目の性質と強い関係を持っており,その連合の仕方に大きな影響を及ぼす.そして又あらゆる相互作用は,その相互作用をするものの性質によって左右される.再生や再認に際しては,現在の経験が,類似性を基本原理として極めて選択的に過去の経験を蘇らせる.
 即ち学習の基本的過程は,自動的,意的なつなぎ合わせの系列としてではなく,構造化され体制化された環境の特性の発見として捉えられる.』
 通信,保管面に於いては,効率的で且つ知的な画像処理の運用を考える時に,先ずクライアントとして既にワークステーション(Fig. 4)の存在は必須のものとなっており,手術支援の場面では,ニューロナビゲータとしてネットワークエレメントの役割を果たし,診断支援の場面では,特に各種画像情報を利用しての創発的性質(例えば水の性質は酸素と水素と云う成分からは予言できない)の解析に利用され新展開がなされている.次にサーバーやメインフレームとしては,人々の医療公益の一部として広域な場で利用されるであろう各種情報の保管装置として重要な機能をもつ事になり,将来に亙り構成上除外出来ないものである(Fig. 5).又発生する大量の情報の出力表現については経済的影響を考慮にいれた上で,動画描写の添付や,CRT診断の構築に取り組まなくてはならない状況が発生している.二次元収集は,それらの要素全てが個々に且つ全体として体制化されており選別編集の入り込む余地は極めて少ないが,三次元収集のそれは,現在の方式上先ず素データの用不用分別が行われ,次に横断データの必要充分分割を選定しその中より立体データとの構成分離を行う(Table6).この行程を踏む事により,初めて画像情報として三次元が二次元に対し,体制上で分化が行われる事となり,仮想現実計測に於いての一つの文化をも創造し,ハイパーホスピタル構想にとって,周辺要素へ与える影響は大きく重要な位置を占める事になる.その現実としては,早くより多くの施設にてCT肺検診が実施されており,またCT鏡(Fig. 6)として気管支及び大腸の領域での展開が始まっている.
 

素子展開の進捗

 今日装置の発展をみる時に,それは全ての面で「時間分解能への挑戦」を考える事に他ならない.第一にコンピュータの処理能力の向上である.国際分業が積極的に行われる事も要因として,ファームウェアであるMPUの高性能化が計られ,と同時にライトサイジングの時流に併せ分散処理の強化や高ビットRISC型の採用がなされて来ている(注釈2).更に,より多様な要望に応えるべくコンソールにWSの採用も計られているが,当然の如く従前に比較してターンキーシステムの色合いは薄い物となり使用に際しては約束事に留意する必要がある(注釈3).又このWS(UNIX機)は,今後更により高速性を求められてスパコンへと,より操作性を求められてパソコンへと融合して行くと考えられ,ここにもSuper Userとしての,放射線技師の関わりの姿を観る事が出来る.1)

『(注釈2) RISC 縮小命令セットコンピュータ:Reduced Instruction Set Computer
(注釈3) ターンキーシステム 用意されたapplicationしか実行できないシステム.特に今までは,OSの経験の浅い者の為に出来るだけUNIX臭さの少ない設計が施されている.』

 第二に管球である.今後サブセコンドスキャンが一つのKeyとなって行くが,最大の効果を引き出す為には,安定した高速連続回転が必要で有り,その高速回転が引き起こす強大な遠心力(G)に対し様々な対策を講じなくてはならない.管球装置回転機構に付いては撮像に支障のない限りで回転半径を小さくするのが懸命であるが,検出器数の増加を始め投影領域の拡大が必要となり,多重焦点管の登用や演算装置をも含めた対応が為されている.陽極回転機構に於いてはその上更に,長時間の反復連続負荷にも対処すべく冷却方式も改良され,より高放熱型で液体金属ベアリング等を用いた非接触型のものが開発されている.第三には検出器である.従来より透過X線量の有効活用の為,一部の高級機には高密度分解能を第一理由として半導体検出器が採用されているが,螺旋収集に於いては高感度出力が第一の理由となって採用されている.しかしこの半導体型を従来設計のままで使用する場合,サブセコンド下では検出器廻りが相対的な応答時間の遅延を引き起こしデータ収集に影響を及ぼす為,更に過渡特性の優れたものに設計がし直されている.そして,これら投影領域での技術展開が,まさしく時間分解能の追及であり,ひとつ面検出器方式へと進むものである.現在はリング型SPECT装置の検出器構造に採用されている素子多重配列が実時間下で現実となっているが,薄膜トランジスタ(TFT)を対応させたセレン板の平面素子としての採用も試みられている.尚,面検出器方式としてI.Iを用いたコーンビームCTが存在するが,その時間分解能は注目に値するものであり画像構築での実時間処理が完成すると,螺旋走査型CT装置にとっても新展開が生まれるものと想像される.
 おわりに 今現在,課題として螺旋CTに残された点が存在するとしても,示している現実はそれを非難するものではなく水平思考としての啓蒙であると云える.押し並べるならば,それは即ち,あ,い,じ,よ,う,である.
 

 あ-案出の尊重

 有り余る管球容量や半導体検出器等が採用出来ない場合には,最小枚数での極めて的確な撮像計画を立て再構成処理はSN優先とし,更に不足する場合にはレーザーイメージャーでの補間処理の工夫を行う.
 い-異質の認知
 色々な三次元画像構築を行う際CT鏡検診の範疇に含まれるものは除き,五感の不足した情報である事に留意し,各種形成術のシミュレーションを行う場合には少なくともオペレータフィードバックのソフトウェアを登用する.
 じ-実践の有為
 情報の積極的な融合は創発的性質を内包するものであり,マルチメディアデータベースとして捉え,米国の英語圏拡大戦略とも云われるインターネットではあるがハイパーホスピタル構想には水差すものではなく,一つの文化構築としてインフラの積極的な整備を行う.
 よ-要略の考証
 良い造影効果を得る為には被検者の体循環の状態把握が必要であり,例えるならば高年令者の場合には撮像開始時間の遅延を,肥満体格者の場合には低粘性造影剤の多量使用を,そして動態計測に適した多段注入法を,と最適な方法の選択を行い且つ常に不測の事態に備え然るべき措置を講ずる.
 う-迂曲の真理
 ウエルトハイマーの「仮視運動」に於ける論文を始まりとするゲシュタルト心理学は,客観的な物理学的次元の事実のみが真実ではなく,心理学的な真実も独自に存在する事を述べている.例えば直線が曲がって見える事も誤りではなく一つの真実であると云える.認識活動に於いて,客観的外界と心理的知覚とは互いに独立したものではなく統合的に捉えられるものであり,知覚は経験の,ある一面を外在化するものである.これは又繰り返される同種の日常経験によって強化されて出来上がるものである.この事は情報を提供する場に於き,是非曲直の決着の下で,高資質な経験を繰り返しておく事が客観性を保持する事の証であり,反復,反芻と云うサブリミナル効果をもって当事者である放射線技師の一義性を揺るぎないものとする.
 けだし螺旋走査型CT装置の発展は,ある意味での文化伝承をも担うものである.
 

文献

1) 粂井高雄:手にとるようにパソコンのことがわかる本 かんき出版 東京(1995)


     
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(社)日本放射線技術学会 北海道部会