肝腫瘍切除に対するHelical CTによる三次元画像の有用性

Usefulness of Three-Dimensional Reconstructed Images by Helical CT for Resecting Hepatic Tumors

鎌形政樹, 坂田元道, 沢石政勝,  佐藤順一*


 Summary

In differential diagnosis of hepatic tumors, CTA (CT Arteriography) and CTAP (CT during Arterial Portography) are essential for characterizing the tumor. In this study, we generated 3D (three-dimensional reconstructed) images using volume date with CTAP on Work Station. 3D images allowed clear observation of hepatic parenchyma, vessels, and the hepatic tumor from various angles. We evaluated the usefulness of three 3D images for resection of a hepatic tumor.
1. 3D images clearly showed hepatic parencyma, main vessels, and the location of the tumor.
2. 3D images demonstrated the exact inversion and extent of the hepatic tumor to the portal vein and hepatic vein.
3. 3D images were helpful for preoperative planning and image training.

Key words:CTA (CT Arteriography), CTAP (CT during Arterial Portography) Volume date, Work Station, Three-dimensional reconstructed

北放技術誌 57:7‐11,1997


はじめに

肝臓の腫瘤性病変の鑑別診断において腫瘤の形態や血行動態を把握することが重要であり,術前の精査としてヘリカルスキャンを用いたCTA(CT Arteriography)やCTAP(CT during Arterial Portography)が必要となる1)5)11) 今回我々はCTAPで撮影されたボリュウムデータをワークステーション上にて三次元画像処理を行い,肝実質表面,脈管系,腫瘍を色分けして組合せ,それぞれの位置関係を明確にした上で肝腫瘍核出術に対し三次元画像の臨床的有用性について検討を行った.又三次元処理画像を作成するにあたっての留意点についても言及する.
 

使用機器及び方法


(使用機器)
GE Hispeed Advantage RP
Advantage Windows
(撮影条件)
Slice thickness 5〜7mm
Reconstruction spacing 3〜5mm
Helical pitch 1:1
140Kvp 170mA
Algorithm soft
(造影注入方法)
CTAP:上腸間膜動脈より注入
非イオン性造影剤:150mgI/ml 90ml
Flow rate:3ml/sec
Scan delay time:30〜40sec
CTA:腹腔動脈又は固有肝動脈より注入
非イオン性造影剤:150mgI/ml 40ml
Flow rate:1ml/sec
Scan delay time 5sec
(画像処理法)
Helical scanで得られたボリュウムデータをワークステーション(Advavtage Windows)に転送し肝実質,脈管,腫瘍等をそれぞれSSD(Shaded Surface Display)処理し三次元再構成画像を作成する.
CTAP:上腸間膜動脈に留置したカテーテルより造影剤を急速注入し門脈が良好に造影されるタイミングで撮影を行う.門脈血流を受けていない肝細胞癌や転移性肝癌等が低濃度腫瘤として高コントラストとして描出でき,術前の精査に重要である.(非イオン性造影剤150mgI/ml 90ml インジェクター使用 3ml/sec 30〜40sec後より撮影開始 尾側から頭側で撮影)
CTA:腹腔動脈又は固有肝動脈に留置したカテーテルより造影を行い全肝の動脈相を撮影する.腫瘤性病変の動脈性血流の検出に有用で,微少の腫瘍の濃染が鋭敏にとらえられる.(非イオン性造影剤150mgI/ml 40ml インジェクター使用 1ml/sec 5sec後より撮影開始)

 

臨床例

症例1:54歳男性 尾状葉HCC 尾状葉下部にCTAで濃染しCTAPで周囲の肝実質より低濃度となるHCC(Hepatocellular Carcinoma)で,S8にも同様の1cm以下の小さな病変(矢印)が認められた(Fig. 1).Helical scanで得られたCTAPのボリュウムデータにおいて肝実質,脈管系をそれぞれのしきい値によりSSD処理を行い,肝腫瘍部はCTA画像を参考にし関心領域により腫瘍と思われる部分を取り出し同じくSSD処理を行う(Fig. 2上段).個々に処理を行ったのち,脈管+腫瘍(Fig. 2下段右)肝実質+脈管+腫瘍(Fig. 2下段左)等に組合せ観察を行う.これらの三次元画像は手術上重要な脈管系(門脈,肝静脈)に対する腫瘍の広がりや立体的な位置関係がよくわかり,多方向から観察することで腫瘍の奥行きがさらに理解できる.この症例の場合,腫瘍が尾状葉下部に限極していること又S8の小さな病変の位置関係が把握できたことは術者にとって有用であった(S8の病変は病理の結果,再生結節ということで術中エコー下でレーザーメスにより処理を行った).
 
症例2:56歳男性 左外側区HCC 左外側区域にCTAで被膜を伴い腫瘍内部が造影され,CTAPで周囲より低濃度となる典型的なHCCである.Axial像より腫瘍が左外側区域にのみに限極し左内側区域に浸潤していないためシェマの通り肝円索裂,静脈索裂より外側部を切除していくこととなる(Fig. 3).先の方法によりそれぞれを組み合わせたSSD画像及びシュミレーションによってカットしたSSD画像である(Fig. 4上段).実際の肝切除標本とシュミレーションによってカットしたSSD画像とほぼ一致しており(Fig. 4下段),術者にとって術前のシュミレーションやイメージトレーニングに有用であったと考える.
 
症例3:33歳女性 右葉前下亜区域S5 Metastasis 症例は乳癌によるS5区域への転移性肝腫瘍である.CTAP像より肝静脈を巻き込み肝実質より低濃度となる領域が見られる(Fig. 5上段左).CTAP像より腫瘍と思われる部位を関心領域によりカットし腫瘍部だけのSSD像を作成し肝実質のSSD像と組み合わせた(Fig. 5下段).これらを多方向から観察することにより切除ラインを決定して行くことになる(シェマ参照).(Fig. 6上段左)は肝実質,脈管,腫瘍を組み合わせたSSD画像でS5区域の腫瘍が肝静脈を巻き込んでいるのが一目で確認でき脈管を含んだままのシュミレーションが可能となる.シュミレーションによってカットした画像と切除標本とがほぼ一致しており(切除標本は横方向に二分割されている)術者の術前シュミレーションとして有用な1例であった.さらに今回末梢血管と腫瘍の関係をさらに把握するためMIP(Mixmum Intensity Projection)と腫瘍部SSDを組合せた画像(Fig. 6下段左)も作成し手術シュミレションの参考にした.
 

考  察

三次元画像の臨床的有用性:三次元画像は各臓器の立体的な把握に非常に有用である.症例1の三次元画像(Fig. 2)より尾状葉下部での門脈に対する腫瘍の位置関係や広がりが瞬時に把握できた.通常尾状葉の手術8)9) は肝門処理や動静脈が複雑に走行するため腫瘍の位置や大きさによって大変複雑で難しい手術となるが腫瘍が尾状葉下部に限局しているのが確認できたため肝臓の下側から腫瘍を切除する比較的簡単な手術ですみ術前の情報として三次元画像は有用であった.又S8区域の1cm以下の再生結節は術中エコー下で病変の精検を行い,さらにレーザーメスにより処理を行なった.これらの処理を行うにあたり術前に病変の位置を把握することが重要で,作成された三次元画像より脈管を含めた病変の立体的な位置関係が理解でき尾状葉同様有用な情報となった.
 
症例2の患者(Fig. 4)に於いては腫瘍が左外側区域S2,S3に限局しているのが三次元画像により一目で確認でき切除ラインの決定が比較的簡単となる.もし左内側区域S4に腫瘍が浸潤していたら肝静脈や尾状葉の処理等で術式や手術の難しさも違ってくる8)9) さらに手術シュミレーションでカットしたSSD画像と実際の切除標本とがほぼ一致しており三次元画像は術者の術前シュミレーションやイメージトレーニングに大変有用であった.また学生の教育や術前のインフォムドコンセント等にも役立つと考える.
 
症例3は乳癌によるS5区域に転移した肝腫瘍である.作成した三次元画像(Fig. 6上段)より腫瘍が末梢の肝静脈を巻き込んでいるのが理解でる.また重要な血管(血管の起始部等)が腫瘍に関与していないのが確認できたため腫瘍部はS5領域の端の部分をシュミレーションの通り切除していくこととなる.ショミレーションによって作成されたSSD画像と切除標本がほぼ一致しており術者にとってこれら三次元画像は有用であった.今回MIP画像と腫瘍SSDを組み合わせた画像も作成した(Fig. 6下段左).MIP画像は脈管系の重なりの情報が少ないと言われているが多方向からの観察によって末梢血管と腫瘍の関係が理解できSSD画像同様有用な情報が得られ,シュミレーションの際に参考にした.
 以上のようにいずれの三次元画像も術者にとって臨床的に有用であった.
 
三次元画像を作成するにあったての留意点:三次元画像を作成するにあったて重要なことは適切なHeical CTによるボリュームデータを得ることである.まず最初に考えなければならないのはスライス厚である.これはテーブル移動方向の分解能を決定する因子でできるだけスライス厚を薄くすることで,パーシャルボリュームの影響が少なく連続性の良い画像が得られ,(5mmスライス厚が適当と考える)高精度の三次元画像の作成が可能となる.しかし1回の呼吸停止下で肝全体の撮影を行なわなければならない為,スライス厚が薄くなると患者の呼吸停止時間が長くなり負担となるため,両者の兼ね合を十分考えて条件を決定していかなければならない.もし患者が息止めをあまり出来ない場合は十分に酸素を吸入してから撮影を行うと良い.(我々の撮影条件 スライス厚5mm ヘリカルピッチ 1:1 画像再構成間隔3mm 肝臓約18cmとして 息止め時間36sec)
 
次に重要なのは造影剤の注入タイミングである.三次元画像処理する際に目的とする血管の濃度(CT値)が高く,脈管と肝実質のコントラストが良好でないと良い三次元画像は作成できない.
 従ってCTAPにおいて門脈,肝静脈が十分造影された状態でre-circulationの影響を受ける前に全肝の撮影を行うことが重要である.(造影剤注入後30-40Ssec後撮影開始)CTAPでは直接動脈より造影剤を注入するため経静脈的造影に比べて脈管の造影タイミングはさほどばらつきはないが肝硬変を伴った患者においては血流の流れが悪くなり造影や撮影のタイミングを気を付けなければならない.実際外科医が手術の際に重要としていることは門脈,肝静脈と腫瘍の位置関係,又門脈,肝静脈のバリエーションを把握することでこれらの情報が少しでも多く得られるような良好な造影タイミングが望ましい.
 
最後に留意しなければならないことは三次元画像処理等に関する問題である.今回我々が三次元画像処理に使用したのが物体表面を表示するSSD処理画像で,ある範囲内でのCT値(しきい値)のエリアを自動選択しモデリングする方法で,深さ,重なりに関する情報が得られ,立体的構造を把握するのが容易であるなどの利点はあるが,しきい値や造影効果等の因子によって三次元画像が変化してしまうといった部分を含んでおり三次元画像作成する側はこのことを十分理解しておかなければならない.MIPはSSDとは異なりCT値をより反映するため,しきい値に関する変化はなく末梢血管,石灰化等が描出できる.脈管の重なりに関する情報が少ないが多方向からの観察によりある程度の情報が得られる.今回MIP画像と腫瘍SSDを組み合わせた三次元画像も作成し手術シュミレーションに役立てた.
 以上のことを十分ふまえ,立体的な解剖を理解したうえで三次元画像を作成し,実際の臨床の場に役立てることが大切である.
 

ま と め

  1. 三次元画像を作成することにより肝実質,脈管系,腫瘍の位置関係を容易に理解することができた.
  2. 手術上重要となる門脈,肝静脈対する腫瘍の浸潤,広がりの程度が立体的に把握でき,門脈,肝静脈のバリエーション等も描出可能であった.
  3. 術者にとって三次元画像は,術前のイメージトレーニング,手術シュミレーションにおいて有用であった.
 

文  献

  1.  Anthony R Lupetin et al, Spilal CT during Artetial-Portgrahy Radio Graphic 16, 723‐743, (1996)
  2.  Elliot K. Fishaman et al: SPILAL CT Principals, Techniques and Clinical A pplication Lippincott Raven Press (1995)
  3.  Elliot K. Fishaman et al: Oncologic Applications of Spiral CT. Lippincott Raven Press 209‐221, (1995)
  4.  Robert K Zeman: HELICAL/SPIRAL CT Abdomen and Pelvis McGraw-Hill, Inc. (1995)
  5.  市川珠紀 他:ヘリカルCTにおける至適撮像法と臨床応用 肝臓 INNERVISION 10,67‐70,(1955)
  6.  平松慶博:腹部ヘリカルCT.中外医学社(1995)
  7.  内田政史 他:肝癌のCT画像診断.新医療10,66‐70,(1996)
  8.  高山忠利:肝の高位背法切除手術手術 49,333‐340,(1995)
  9.  田絋:肝左葉切除術 外科治療 No.5 608‐615,(1994)
  10.  高安腎一 他:CT&MRIによる肝,胆,膵,脾の画像診断.メディカルトリビューン(1993)
  11.  松枝清:Spilal CTを用いた肝の撮像法.日本医放誌付録 学会雑誌付録 56,7‐11,(1996)
  12.  関達夫:転移性腫瘍 INNERVISION 10,66‐71,(1995)
 

要  旨

肝腫瘍の鑑別診断において,CTA,CTAPは腫瘍の特性を理解するのに欠くことができないものである。今回我々はCTAPで撮影されたボリュームデータをワークステーション上で三次元再構築画像を作成した。この三次元画像は肝実質,脈管及び肝腫瘍を明確に示し,多方向からの観察が可能であった。我々は肝腫瘍切除に対しこれら三次元画像の有用性について検討した。
  1. 三次元画像は肝実質,脈管の主分枝,腫瘍の位置が明確に示した。
  2. 三次元画像は門脈,肝静脈の浸潤や広がりを示した。
  3. 三次元画像は術前計画やイメージトレーニングに役立った。

抜刷請求先
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        札幌医大病院 放射線部
          鎌形 政樹


     
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