病棟ポータブル撮影用IP(Imaging Plate)パックの試作

Trial manufacture of an Imaging Plate Pack for use in Portable Radiography

横山英辰 成田重信 後藤啓司

北大医学部附属病院放射線部


 

Summary

FCR (Fuji Computed Radiography) has been used for radiography in our hospital, including portable radiography used in sickrooms. The portable radiography , however, has not been efficient as the mobile X‐ray generator can only carry less than 10 cassettes, which is not sufficient for daily work load and the sickrooms are far from our working station.
After measuring the weight and thickness of a cassette, in order to make the system more efficient, a pack was made from vinyl resin, and an imaging plate (IP) was inserted into the packd (IP pack). The IP was processed by the magazine mechanism of the FCR system.
The efficiency of the IP pack and cassettes were compared in terms of working time and work load. An evaluation questionnare was also answered by 20 radiological technologists in our hospital.
The results showed that the IP pack effectively reduced working time and work load, thus making portable radiography more efficient. The IP pack was also highly evaluated by radiological technologists in our hospital.

Key words: Fuji Computed Radiograpy, Portable Radiography, a vinyl resin pack, efficiency

緒 言

当院ではX線撮影部門のほとんどにComputed Radiographyが導入され, 様々な省力化・効率化を図ってきたが,
の要因で, 病棟ポータブル撮影は省力化・効率化が進んではいなかった.
今後, 病棟ポータブル撮影の需要が増すと考えられ, 迅速にX線画像情報を提供するためには, 業務の省力化・効率化が必須である.
病棟ポータブル撮影の業務を効率的を行うために
  1. IPカセッテより軽く薄いものをつくり, 撮影や運搬の労力の低減を図る.
  2. FCRのマガジン処理機能を利用して, 一括して多数のIPの処理を行う.
を目標とし, システムを構築した. 今回, このシステムによる業務の効率化を検討したので報告する.
尚, 我々と同じようにIPカセッテよりコンパクト化を図った市販品が同時期に発売された. 我々は, これとは独自に考案したことを一言付け加えさせていただく.

使用機器


方 法

  1. IPカセッテより軽く薄いものを試作する.
  2. FCRのマガジン処理機能を利用して, 一括に処理できる方法を構築する.
  3. 作業時間・労力について, IPカセッテとの比較を行う.
  4. 当院診療放射線技師によるアンケート評価を行った.
質問は, の6項目について行った.

結 果

1. IPパックの試作
病棟ポータブル撮影の省力化・効率化を行うためには, IPカセッテを軽量化し, 薄くする方法が最善と考えた. そこで, 厚手のビニールでIPを収納する袋を作り, これをカセッテと同様にIPを挿入して使用した. 以下, これを『IPパック』と記す. IPパックは柔らかいので, 市販製のIPプレッサーに挟んで強度を補って使用した. Fig. 1に, IPパックの表側と裏側を示す.
IPは, 撮影方向を注意しなければならないので, IPパックの表側に頭頂方向を示す黄色のラインをいれた. プレッサーの蝶番側にIPパックの黄色のライン側を合わせて挟め, 使用する.
IPパックの裏側は, IPのバーコードの窓を開け, IDターミナルによる登録を行えるようにした. 依頼書を入れるポケットも取り付けた. IPパックの裏に番号を記し, 表にも番号を打ち抜いた鉛テープを張り付け, 画像上に表示させた. この番号を依頼書に記録し, ID登録間違いに対処する.
パックの口の密封は, 耳を折り返してマジックテープで閉じた. また, ファスナーも設けてパックの口に厚みをつけて口が折れ曲がらないようにすることで, IPの出し入れを容易にするとともに遮光性を高めた.
IPの滑りを良くするために内部に軟質プラスチックを張り付けた.
ポータブル撮影装置に最大に収納できるカセッテの枚数はおよそ10枚であった. それと同等の厚さのIPパックの枚数はおよそ40枚で, 1日分の病棟撮影に必要なIPを一度にポータブル撮影装置に収納できることになった(Table 1).

2. IPパックを利用した処理手順
IPパックを使用した撮影業務の作業手順をFig. 2に示す.
IPのパックへの装填は, IPの傷や汚れをチェックしながら行った. これを病棟に運び撮影, 撮影後, 持ち帰りIDターミナルでID登録を行い, 暗室でFCR用マガジンに詰め替えた.
胸腹部の画像はIPの処理時に方向性があるので, パックから取り出したIPをマガジンに挿填するとき, 向きに注意しなけばならなかった. 従って, IPパックやマガジンの配置を定めて作業を行うようにした.

3. 作業時間・労力に於けるIPカセッテとの比較
Table 2は, 20件/30枚の撮影業務時間の比較である. カセッテでは一度に必要なIPを運べないので途中で放射線部に戻った時間も加味されている.
IPパックは薄く軽いため取り扱いが非常に容易で, 特に, ポータブル撮影装置への出し入れがスムーズであった.
IPをFCRに入れてから写真が出力されるまでの画像処理時間は, IPパックはIPカセッテと比べ有意な差がなかったが, IPパックはマガジン処理のためFCRの前で拘束させれることがないので0分とした. この間に撮影台帳の記載, 写真の整理などの他の業務を行うことができるようになった.

4. 当院診療放射線技師によるアンケート評価
当院診療放射線技師20名にアンケートによってIPパック使用による省力化・効率化の評価を行った(Table 3).
IPのパックやマガジンへの装填作業は3分の2が問題ないという評価であった. 問題があるという評価に, “IPが痛むのでは"という懸念や, IPが引っかかる, 作業が繁雑という意見であったが, 全体の時間・労力の低減に対して, 作業が繁雑になったことによる影響は少ないものと考える. < 撮影時の取り扱いで, カセッテに比べてIPパックの評価が高かったのは, IPパックが軽く薄いので, 取り扱いが楽になったためと考えられる. 全体的な評価においてIPパックによって業務の効率化や省力化がなされ, 設計段階での目標を達成できたと考える.
IPパックの使用評価を10点満点で評価した結果, 平均で8. 8点の評価を得た.

考 察

病棟ポータブル撮影は回診用X線撮影装置やカセッテを運んで撮影するために, 他の画像診断装置のような機器の進歩による労力の低減を望む事は出来ない. 今回我々は, IPカセッテの軽量化やFCRのマガジン処理の利用で, 病棟ポータブル撮影の業務の省力化・効率化を図った. IPパックを使用した事で一番大きな効果をもたらしたのは, 一日の業務量のIPを一度に運べる事であった. 当院は病棟と放射線部の距離が非常に長く, IPを取りに戻るのはたいへん時間や労力がかかるからである. 副次的な利点としてIPをパックに詰めるとき, IPの傷や痛みをチェックできた. これまでのIPカセッテ使用時では, IPの清掃や点検は定期的にしか行われていなかった.

IPの処理でFCRのマガジン処理機構を利用したのも有用であった. これまでのカセッテ処理は内部のスタッカーに収納できるIPの枚数は限られていて, 連続して処理ができず全部のIPカセッテをFCRに入れ終わるまで, FCRの前で拘束される状態であった. マガジン処理機構を利用する事で, 一度マガジンをFCRにセットすることでFCRから離れる事ができ, 全ての写真が出力される間に, X線指示書の整理, 台帳記載等の事務的な業務ができた. IPカセッテ使用時, 経年劣化でカセッテがゆがみ, たびたびオープンエラーを引き起こし, FCRを再立ち上げしなければならない事態が生じた. IPパックを使用してからマガジン処理で重大なトラブルは発生していない.

他の施設でも同様にポータブル撮影の効率化に取り組んでおり1), この問題はどの施設でも共通のものである. 我々の取り組みは, 特別な装置を使用していないのが特徴である. 現在, IPパックの使用で一番問題となっているのは, IPパックからのIPの出し入れの作業である. パック内でのIPのゆとりがないようにしているため, IPが取り出し難いためである. 今後, この点を検討して行かなければならない.


結 論

病棟ポータブル撮影の省力化・効率化を図るために, IPパックを試作しFCRのマガジン処理機構を利用してIPを処理をした. IPパックの軽量性, 厚みの薄さから撮影や運搬の労力が低減された. IPの出し入れは若干手間がかかった. FCRのマガジン処理機構を利用することで, カセッテでの撮影と比べ処理時間に遅滞はなく, 画像が全て処理される間に他の作業ができた. 今後, パックからIPの出し入れが容易なパックへの改良と半切サイズの製作を行いたいと考える.

謝 辞

稿を終えるに当たり, IPパックに対する色々な提案やアンケート評価に御協力頂いた当院放射線部技師諸兄に感謝いたします. また, IPパックの製作に御協力して頂いた千代田メディカル株式会社 曽田 旬氏, 化成オプトニクス株式会社 森谷 充宏氏に深謝いたします.

文 献

  1. 井上信一, 祐延良治, 川本清澄, 他:FCR7000用ポータブルIDTの開発と評価.
    日放技学誌, 50(8)1333, (1994).

要 旨

当院では, FCR(Fuji Computed Radiography)を効率的に使用している. 病棟ポータブル撮影もFCRで行われている. しかし, 病棟ポータブル撮影は撮影装置にカセッテを10枚しか搭載できず, 一日の業務量分のカセッテを一度に運べない. また, 放射線部と病棟との間はとても長いという事情で効率的ではない. 病棟撮影業務の効率化のために, 我々はカセッテの重量や厚みを検討した. その結果, ビニールでパックを作ることにした. IPをパックの中に入れポータブル撮影を行った. 以下, これをIPパックと称する. IPはFCRのマガジン機構を利用して処理した.
我々は, IPパックを作業時間と労働力についてカセッテと比較検討した. 当院診療放射線技師20名を対照に評価を行った. 結果, IPパックを使用することで作業時間と労力が減少され, ポータブル撮影が効率的になった. 技師にも高く評価された.


抜刷請求先
〒060 札幌市北区北14条西5丁目
北大医学部附属病院放射線部
横山英辰

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日本放射線技術学会 北海道部会