Helical CTによる側頭骨解剖の三次元的検討

Three Dimensional Normal Anatomy of the Temporal Bone with Helical CT

坂田元道 小田原好宏 佐藤順一 沢石政勝

札幌医科大学附属病院 放射線部


Summary

Interpritation of diagnosis based on 2-D CT axial images require mental reconstruction of its 3-D images, which is a difficult process. However, 3-D CT images reconstructed using Helical CT scans can help us to understand the normal anatomy quickly and easily.
The temporal bone is a difficult region to comprehend from 2-D axial images due to its fine and complex structures. Thus, to comprehend the normal anatomy of the temporal bone, 3-D images were reconstructed by Helical CT scans, and analyzed. These 3-D images allow observation in any planes or from any direction. The relationship between FOV (Field of View) and the matrix is also discussed.
It is concluded that 3-D images of the temporal bone are useful, especially for educational purposes, and both FOV and the matrix are important factors for the reconstruction of 3-D images.

Key words: Helical CT, Temporal Bone, 3D, Anatomy, technology

緒 言

臨床画像を理解するうえで, 最も重要なことは正常解剖を理解することである. 正常解剖を理解することにより撮影された画像の臨床的な意味や重要性がよりはっきりとしてくると考えられる. 二次元の画像は人間の頭の中で三次元に組み立てられて理解されていると思われるが, 三次元画像に再構成することによって正常解剖の理解度を促進させることが可能になると思われる. 側頭骨における正常構造の三次元的理解は二次元画像であるAxial像のみでは比較的難しい領域と言える.
我々は側頭骨の三次元解剖をより迅速に, 容易に理解するためにHelical CTによる三次元画像を作成し, その解析を行ったので報告する. また, Field of View(FOV)とMatrixという技術的一側面にも言及する.

装置およびスキャン方法

GE Hispeed Advantage RPを使用し, ヘリカルスキャンモードにてスライス厚1mmで, Axial Projectionにおいて側頭骨を撮影し, この時側頭骨は従来から撮影されているHigh resolution CTとするためAlgorithmsはBONEとした. Pitch=1:1にてReconstruction Spacing 0. 6mmで画像を再構成した. この画像をワークステーション(Advantage Windows)に送り, ワークステーション上で三次元再構成を行った. 三次元再構成はShaded Surface Display(SSD)にて各構造を作成し, それぞれを単独および合成して表示した. 撮影条件は140kV, 150mAにて行った.

FOVとMatrixの関係

微細構造を正確に描出するにはできるだけFOVが小さいほうが有効である. GE Hispeed Advantage RPは512×512Matrixで最小FOVは9. 6cmまでしかなく, そのPixel sizeは0. 19×0. 19mmである. 側頭骨の様な微細な構造を鮮明に描出するにはより小さなPixel sizeが有効であるが, この装置ではこれが限界である. 本装置において, Matrixを256×256と半分にするとFOVは4. 8cmまで使用できPixel sizeは0. 19×0. 19mmとなり512/9. 6と同一のPixel sizeとなる. つまり512/9. 6と256/4. 8では分解能は全く変わらないことになる(Fig. 1).
高コントラスト分解能ファントム像上でも同一分解能である(Fig. 2). しかし, 画像を表示する大きさが違うため256/4. 8の方が微細な構造を持つ側頭骨には有利となる. 512/9. 6の画像を256/4. 8と同じ表示にするには2倍拡大が必要である. 2倍拡大した画像は拡大によるボケが生じ, 256/4. 8の画像の方がより鮮明となる(Fig. 3). 同時にデータサイズはMatrix256では512の1/4となる. さらにWorkstation上のメモリーが小さい容量で済むことになる.
以上より側頭骨のような微細構造の描出には256/4. 8が有利となり, その長所は
  1. 微細構造の分解能の改善, 向上
  2. 三次元画像作成時の快適性
  3. データ保存(データサイズ)
であるといえる. ここで256/4. 8というMatrixとFOVの関係はCT-Angiographyや2cm以下の肺結節および腫瘤などのHelical scanを用いた検査に有効と考えられた.

正常解剖(Normal Anatomy)1)‾4)

1. 外耳道
外耳道は, 大人で2〜3cmあり側頭骨により囲まれた骨部外耳道と軟骨で囲まれた軟骨部外耳道に分けられる. 前方は顎関節, 後方は乳様突起, 乳突蜂巣により構成され, 内側は鼓膜が付着し中耳と分けている.

2. 中耳
内耳と外耳を分ける小さな腔で, 複雑な内壁を有し外界とは耳管を経由して咽頭へつながっている. 外側壁は鼓膜, 内側壁は前庭窓(卵円窓, Oval window), 蝸牛窓(正円窓, Round window)および岬角, 上壁は側頭骨天蓋部, 下壁は頚静脈孔との仕切板で境されている. また, 後壁は凸凹を有する壁で, 三つ葉型を形成し外側からfacial recess(顔面神経陥凹), sinus tympani(鼓室洞), round window niche(正円窓窩)からなり, 前壁は耳管につながり, 上後方は乳突洞に通じさらに乳突蜂巣につながっている. 中耳の内面は粘膜で被われ含気腔を形成し, これらが一つの小室系を形成し, 乳様突起全体さらに側頭骨岩様部まで及んでいる.

3. 耳小骨
耳小骨は外耳より到達した音エネルギーを内耳へ伝える. 鼓膜に付着しているツチ骨(Malleus)に達した振動は, キヌタ骨(Incus), アブミ骨(Stapes)の順にエネルギーを伝え, アブミ骨の底板の振動を引き起こし内耳へ音を伝える. また耳小骨は靱帯と腱によって中耳腔内につり下げられている. ツチ骨は最も前方にあり頭部, 頚部, 柄部, 前脚からなる. 頭部はキヌタ骨の体部と関節を形成し直径は2〜3mmで丸く, 柄部は鼓膜に付着する. 頚部と鼓膜弛緩部の間は上鼓膜陥凹(Prussak's space)と言われている. また, 上外側, 前ツチ骨靱帯が付着し頚部には鼓膜張腱が付着している.
キヌタ骨は耳小骨の中で最大であり, 体部, 短脚, 長脚, レンズ状突起からなる. 長脚は下方に延びツチ骨柄の後内側にある. レンズ状突起はアブミ骨頭と関節を形成する. 短脚は体部から後方に突出し, 後キヌタ骨靱帯によって上鼓室陥凹の後壁に付着する. 短脚を含むキヌタ骨体部の前後径は4〜5mmである. アブミ骨は頭部, 前脚, 後脚, 底板からなり, 頭部はキヌタ骨と関節を形成する. 前, 後脚はアーチを形成し馬蹄形となっている. 底板は卵円窓に輪状靱帯によりはまり込んでいる. アブミ骨筋は頭部に付着している.

4. 内耳
骨性迷路と膜性迷路からなる. 骨性迷路は蝸牛, 前庭, 三半規管からなり, 外リンパ液を含みその中に膜性迷路が浮いている. 外リンパ液は外リンパ管を経てくも膜下腔とつながっている. 膜性迷路は内リンパという粘性の液体を含みこの中に感覚細胞がある.
内耳道は外耳道より頭側に位置し, 横陵によって, 上下に分けられている. 上部は顔面神経と上前庭神経が下部は蝸牛神経と下前庭神経が走行している.

5. 顔面神経の走行
顔面神経の走行は大きくIntracaranial, Intratemporal, extracranialという3つの部分に分けられる. この中でIntratemporal partは解剖学的にもっとも複雑に走行する部分である. 顔面神経はオリーブと上小脳脚間で橋下縁より起始し, 側頭骨内を走行し頭蓋外に出て顔面各部に分布し, 次の6つのsegmentに分類される.
1. Cisternal (intracranial) Segment
小脳橋角部槽内を走行する部分で第8脳神経(聴神経)が後方に並走する.

2. Intracanalicular (internal auditory canal) Segment
内耳孔内を走行する部分で内耳孔内の前上方部に位置し, 下方を横稜(Transverse crest)に, 後方をBill's barと言われる骨陵に囲まれている.
ここでfacial nerve canal (Fallopian canal)は内耳孔の前上部より始まり茎乳突孔(stylomastoid foramen)より頭蓋外へ出るまでを言い次の3つのsegmentからなる.

3. Labyrinthine Segment; Anterior (first) genu
内耳孔の出口から膝神経節(geniculate ganglion)の存在するanterior genuまででその長さは3〜5mmである. 大錐体神経(great superficial petrosal nerve)を分枝する.

4. Tympanic Segment (facial nerve canal); Posterior (second) genu
Tympanic segmentの下方に卵円窓(oval window)が在り, 遠位部はキヌタ骨短脚の直下を走行する. ここで尾側方向に曲がり, posterior genuとなる.

5. Mastoid (descending) Segment
頚静脈球(jugular bulb)の内側に位置し, stapeius nerveと鼓索神経(chorda tympani nerve)を分枝する.

6. Extracranial (parotid) Segment
茎乳突孔より頭蓋外へ出て, 顔面各部に分布する.


解剖学的解析(Anatomical Analysis)

上記の正常解剖を基礎として三次元再構成画像を用いて, 側頭骨の各構造の解剖学的解析を行った. Fig. 4〜9に側頭骨全体, 耳小骨, 内耳の三次元画像における各部の名称およびその画像を示す. Fig. 4は周囲の骨構造を半透明表示し, 内耳(蝸牛, 三半器官, 内耳道)及び耳小骨をそれぞれ色分けし, 下方より表示した. Axial像における解剖学的位置関係を容易に理解できる. Fig. 5, 6, 7は耳小骨を3つの方向から観察した画像である. 耳小骨の解剖学的位置関係や各部の名称が非常に容易に理解できる.
Fig. 8, 9は内耳の三次元画像である. 耳小骨と同様に各構造がはっきり描出されている. これらを様々な方向から観察することにより三次元解剖しいてはCT解剖が容易に理解できる7), 8).
Fig. 10に示すように顔面神経を追加することによって顔面神経の側頭骨内の複雑な走行も簡単に理解することができる.
Helical CTにて得られたデータはVolumeとして考えられるので, Axial像は元よりreformatted画像(Sagittal, Coronal像), さらに三次元画像の回転やCutting Displayなどのビデオ画像は教育に対して有効と思われた. さらに三次元画像をビデオで観察することによって側頭骨の立体的な解剖がよく理解できた.

考 察

臨床画像を理解するうえで, 最も重要なことは正常解剖を理解することである. 正常解剖を理解することにより撮影された画像の臨床的な意味や重要性がよりはっきりとしてくると考えられる. 二次元の画像は人間の頭の中で三次元に組み立てられて理解されていると思われるが, 三次元画像に再構成することによって正常解剖の理解度を促進させることが可能になると思われる. 側頭骨における正常構造の三次元的理解は二次元画像であるAxial像のみでは比較的難しい領域と言える. 我々は側頭骨の三次元解剖をより迅速に, 容易に理解するためにHelical CTによる三次元画像を作成し, その解析を行った.

High resolution CTから創られる三次元画像であるので骨迷路を描出しているように見えるが, 実際は骨と内耳道, 三半規管, 前庭内のリンパ液, 脳脊髄液とのCT値の移行部を表現した画像である. また, 耳小骨も骨と空気の移行部を表現した画像である10). このように三次元画像(Shaded Surface Display)は二値化されているので, 画像化されている物体の意味や三次元画像作成の原理を十分に理解することが重要であると思われる.

三次元画像の役割を考えるとき, あらゆる角度から立体的に観察できるという大きな利点を生かし, 正常解剖の理解, つまり教育という大きな一面が存在すると思われる5), 9). 三次元画像は誰もが見てすぐ解るという非常にインパクトの強い画像であるということが最大の長所(特徴)だと言える. つまり, 医学系学生や新人職員への教育や患者に対するInformed Consentに大いに有効である. また, 立体的画像であるので立体的三次元解剖を容易にしかも迅速に理解できるので, CT, MRI検査に携わる技師にとっても有用であると考えられた5), 6), 9).

二次元画像を頭の中で理解していても実際には見ることのできない事, またいままで考え付かない事実を知ることができ, 新しい視点からの画像を観察することができる. さらに三次元画像は原画像(Axial像)の読影を大いに助けるという側面が存在している. 最も大切なことは読影者本人が三次元画像を作成することである. 三次元画像が二次元画像(Axial)の情報をすべて描出している訳でない. 側頭骨において靱帯, 腱, 粘膜の肥厚などの軟部組織陰影の描出はむずかしく, 今後の臨床応用の課題であると考えられる.
三次元画像作成はWorkstation上の作業であるが, その前にどのような条件や方法でScanするかが重要な要素であると思われる. より小さい構造を正確に描出するにはできるだけ小さいFOVが有効となる. これによってPixel sizeをできるだけ小さくし, 空間分解能を上げることができる. 本論文では, 最も重要であると思われるFOVとMatrixつまり空間分解能について検討した. 側頭骨において本装置(GE Hispeed Advantage RP)ではFOV 4. 8cm/Matrix 256が最適な条件であった. 今後も他のFactorについても検討しなければならないと考えている.


まとめ

3D画像は側頭骨の三次元解剖を理解する上で有用であると思われ, 特に教育には重要な役割を果たすと考えられる.
FOVとMatrixの関係はすべての3D画像を作成する上で重要な要素と成ると思われた.

文 献

  1. Anson, B. J. et al: Surgical Anatomy of the Temporal Bone and ear. 2nd ed. W. B. Sabders Company (1981)
  2. Chaleres, D. W. et al: A systematic Technique for Comprehensive Evaluation of the Temporal Bone by Computed Tomography. Radiology 146: 97-106 (1983)
  3. Swartz, J. D. Harnsberger, H. R. : Imaging of the Temporal Bone, Second Edition. Tieme New York (1992)
  4. 坂田元道, 片桐好美, 平野 透 ほか. :High-resolution CTにおける側頭骨撮影法の検討 北放技術誌 45:81-87(1985)
  5. Edamatsu, H. , Yamashita, K. : Three-dimensional CT of the ossicles of the middle ear. 日本耳鼻咽喉科学会会報 98:245-253(1995)
  6. Luke, G. D. , Lee, B. C. , Erickson, K. K. : Spiral CT of the Temporal Bone in unsedated pediatric patients. AJNR 14: 1145-1150 (1993)
  7. Howard, J. D. , Elster, A. D. , May, J. S. : Temporal Bone: three-dimensional CT. Part I. Normal Anatomy, techniques, and limitations. Radiology 177: 421-425 (1990)
  8. Howard, J. D. , Elster, A. D. , May, J. S. : Temporal Bone: three-dimensional CT. Part II. Pathologic alternations. Radiology 177: 427-430 (1990)
  9. Hattori, T. : 3D-CT of the Temporal Bone area with high-speed processing. 日本耳鼻咽喉科学会会報 97:2233-2238(1994)
  10. 足立秀治ほか:肺癌におけるヘリカルCTを用いた3D再構成画像による内視画像および気管支像(3DCT-bronchoscopyおよびbronchography)の評価. 臨床放射線 39:41-48(1994)


要 旨

臨床画像を理解するうえで, 最も重要なことは正常解剖を理解することである. 正常解剖を理解することにより撮影された画像の臨床的な意味や重要性がよりはっきりとしてくると考えられる. 二次元の画像は人間の頭の中で三次元に組み立てられて理解されていると思われるが, 三次元画像に再構成することによって正常解剖の理解度を促進させることが可能になると思われる. 側頭骨における正常構造の三次元的理解は二次元画像であるAxial像のみでは比較的難しい領域と言える. 我々は側頭骨の3D画像を検討した結果, 三次元解剖を理解する上で有用であると思われ, 特に教育には重要な役割を果たすと考えられた. またFOVとMatrixの関係はすべての3D画像を作成する上で重要な要素と成ると思われた.


抜刷請求先
札幌市中央区南1条西16丁目
札幌医科大学附属病院 放射線部
坂田元道 他

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