北放技術誌 56:9‐14, 1996

頚部3D‐CT Angiographyにおける造影効果と狭窄病変の描出能

Contrast Enhancement Detectability of Stenosis in Carotid 3‐Dimentional CT Angiography

大森恒　小寺秀一　安井一久　

医療法人札幌麻生脳神経外科病院 (1996年2月8日受理)

Summary

It is difficult to obtain stable 3‐D images by carotid 3‐dimensional CT‐Angiography (3D‐CTA) for every patient, and 3D‐CTA tends to be affected by the contrast medium and method of injection. We, therefore, investigated how the contrast enhancement is affected by various protocols, observing the time density curves in the case of our original phantom and of Dynamic Scan.
Experiments were conducted to determine the relationships between contrast enhancement and image quality of reconstructed images, the Hounsfield unit and threshold unit by changing the diameter size of the vascular model, and contrast enhancement and contrast medium injection protocols.
The results showed that 3‐D images are clearer when the Hounsfield unit is over 300 HU. When the vascular model's diameter becomes smaller, the Hounsfield unit decreases. The higher the Hounsfield unit, the more prominent this tendency became. When the Hounsfield units of two contrast media were same, the vascular model's diameter affected the 3‐D image; the smaller the size, the higher the appropriate threshold unit became. We succeeded in eliminating individual differences in the 3‐D images by quickly injecting a large volume of low‐density contrast medium.

Key words:Carotid 3‐dimensional CT Angiography, injection protocols, Time density curve, Dynamic scan, Threshold

諸　言

3D‐CTAは, 造影効果の差により血管描出能, 形状再現性, CT値と閾値との関係が大きく変わる1) 為, 造影効果の違いがもたらす様々な影響について, より人体頚部に近いPhantomを作成し, 比較検討した. また造影効果はFlow Rate, Flow Volume, ヨード含有量等が大きく関与している2), 3) と考えられる為, 頚部3D‐CTAにおける最適な造影効果を得るための造影剤静注方法についてDynamic Scanを行い, Time Density Curveを作成して検討したので報告する.

目　的

蛇腹状Phantom(Ⅴ-1)を用いてCT値と形状再現性の関係について比較検討した.
模擬血管Phantom(Ⅴ-2)の太さの違いによるCT値の変化と, それぞれの血管径におけるCT値と閾値の関係について比較検討した.
頚部3D‐CTAにおける最適な造影効果を得るための造影剤静注条件について, Dynamic Scanを行い, Time Density Curveを作成し比較検討した.

使用装置

CT Scanner: Proseed Accell

VER. 04. 00(GEYMS社製)

3D‐Rendering Software: On Console Surface Rendering

POWER INJECTOR: MCT plus(Medrad社製)

使用造影剤 Ioversol240(mgI/ml)150ml

Iopamidol300(mgI/ml)100ml

Phantom

濃度の違う6種類の造影剤水溶液を5. 5mmの蛇腹状ポリプロピレンチューブ(肉厚0. 25mm)に封入したものを模擬血管Phantomとし, 模擬血管Phantomを造影剤水溶液(CT値70HU)で満たしたプラスチック容器に封入したもの(Fig. 1).
濃度の違う5種類の造影剤水溶液を内径0. 8, 1. 1, 2. 1, 3. 2, 4. 5mmのポリプロピレンチューブ(肉厚0. 25mm)に封入したものを模擬血管Phantomとし, 模擬血管Phantomを造影剤水溶液(CT値70HU)で満たしたプラスチック容器に封入したもの(Fig. 2).

方　法

Phantom(1)の模擬血管にCT値395HU, 345HU, 300HU, 260HU, 220HU, 160HUの造影剤水溶液を封入してScanを行い, それぞれの場合の形状再現性について, コンソール上で3D表示し, 視覚的に評価した. 閾値は, 実際の模擬血管径と同一となるように設定した. 撮影条件は管電圧140kV, 管電流130mA, 撮影時間1sec, スライス厚1mm, テーブル移動速度2mm/rotation, 再構成関数STANDARD, 再構成間隔1mm, FOV20cmである.
Phantom(2)の各模擬血管内にCT値651HU, 537HU, 338HU, 253HU, 166HUの造影剤水溶液を封入し,
1. 血管径の違いによるCT値の変化を, Axial画像上でROIを設定し測定した.
2. それぞれの模擬血管Phantomを3D 処理し, 各血管径におけるCT値と閾値との関係について, 実際の各模擬血管径と同一となるような閾値を求め適正閾値としグラフ化した. 撮影条件は共に管電圧140kV, 管電流130mA, 撮影時間1sec, スライス厚1mm, テーブル移動速度2mm/rotation, 再構成関数STANDARD, 再構成間隔1mm FOV20cmである.
造影効果は針の太さや静注部位により異なる為ID4), インフォームドコンセントの得られた35症例について, 右正肘静脈に20Gの留置針を留置し, POWER INJECTORを用いてBolus Injectionし注入開始後8secからDynamic Scanを行いTime Density Curveを作成した. 撮影部位(Fig. 3)は左右頚部総頚動脈分岐部である. 撮影条件は管電圧140kV, 管電流200mA, 撮影時間1sec, スライス厚5mm, 再構成関数STANDARD, FOV20cmである. 造影剤静注条件及び, 対象症例を(Table 1)に示す.

結　果

(Fig. 4)に示すようにCT値が高くなる程形状再現性に優れ, CT値220HU, 160HUにおいては実際の形状とはかなりかけ離れており蛇腹の形状が明らかではない.
1. (Fig. 5)は縦軸がCT値で横軸を模擬血管径としている. 5種類の濃度すべての場合において, 血管径が細くなるに従いCT値が低下していて, CT値の高いもの程この傾向は顕著である.
2. (Fig. 6)はCT値と閾値の関係は模擬血管径の太さにより異なることを示し, CT値が同じ値の場合, 径が細くなるに従い適正閾値は高くなる. また, 模擬血管径が細いもの程適正閾値範囲は狭い.
(Fig. 7)は, 造影剤静注条件を変化させた4通りのTime Density Curveで, 対象症例を平均したものである. 同じ造影剤を同量用いてFlow Rateを変化させた場合④, ③, ②では, Flow Rateが高いもの程平衡時間は短く最高CT値は高い. Flow Rateを一定とした場合, ②と①を比較すると, ②の総量を多くしても, ①を用いた方がCT値を高くすることが出来る. 300mgI/mlを2ml/secで注入した場合の①と240mgI/mlを3ml/secで注入した場合の③を比較すると, 後者の方がCT値を高くすることが出来る. (Fig. 8)は, 個人差の影響について比較したグラフで, (Fig. 7)のそれぞれに対してSDを表示した物である. Flow Rateを一定とした時, 300mgI/mlと240mgI/mlでは, 240mgI/mlの方が変動は少ない(Fig. 8①, ②). (Fig. 8②. ③. ④)の比較では同じ造影剤を用いてFlow Rateのみを変化させたものであり, Flow Rateは速い方が変動は少ない.

考　察

1. 形状再現性ついて: 今回のPhantom実験により, 目的となる血管のCT値は高い方が形状再現性に優れていると考えられるが, それは3D画像作成時において閾値操作を伴う為, 周辺組織とのコントラスト差が高い程, 2値化した時のデーターの信頼性が高くなる為である. しかしながら, 臨床上においてはCT値を高くするには限界がある為, CT値がどの位あれば形状再現性に問題がないのか考える必要がある. (Fig. 4)よりCT値160, 220HUでは蛇腹の形状は明らかに再現されず, CT値260HUでは蛇腹の間隔が不均一となり, 形状再現性に問題があると考えられる. しかし, CT値300HU以上であれば蛇腹の形状が良く再現されている. 上記のことより, 頸部3D‐CTAにおいては目的血管のCT値が300HU以上必要であると考えられる.
2. 模擬血管径の違いによるCT値の変化, 並びに CT値と閾値の関係について: 模擬血管径が細くなるに従いCT値が低下するのは, Axial画像上でのProfile Curveの形状の変化に起因するものと考えられる(Fig. 9). 模擬血管径の太い物程ピーク値は高く矩形に近くなり, 細い物程ピークは低くCurveの裾野が広がるのは, CT装置の分解能の限界による為であると考えられる. 但し, PhantomのCT値が低い場合は周辺組織(70HU)とのCT値差が少ない為, CT値の変動は僅かで変化が少ない様に見える(Fig. 10). その為に血管径に伴うCT値の変化は, CT値の高いもの程顕著に現れる. また, 模擬血管内のCT値が同一の場合, 径が細くなるに従い適正閾値が高くなるのも, Profile Curveの形状に原因があると考えられる. (Fig. 11)は適正閾値をProfile Curve上に表示したものであるが, CT値が同じにも関わらず適正閾値は1. 1mm径の方が高い. これもやはり径の細いもの程, 裾野が広がる為であり, CT装置の分解能の限界による影響と考えられる. 各血管径におけるCT値と閾値の関係を示したグラフ(Fig. 6)において4. 5mm, 3. 2mm, 2. 1mmのものは適正閾値が(Fig. 12 A)の範囲で重なる. また, 1. 1mm, 0. 8mmのものは適正閾値が(Fig. 12 B)の範囲で重なり, このA, B2つの範囲はお互いに重なることはない. したがって, 4. 5mm, 3. 2mm, 2.1mmと1.1mm, 0.8mmでは単一の閾値で同時に表現することは出来ない. これらの事から臨床上において強度狭窄病変を単一閾値で表現することは困難であると考えられる. しかし, 我々は実際に経験した症例の中で1. 2mm径の狭窄病変を単一の閾値でDSA及びCTA‐MIP画像と, 同一の狭窄率で描出した経験をもつ. これは, 先に示したようにCT値が低下していても適正閾値の上昇がある為, 他の太い血管径と単一の適正閾値で表現できるものと考えられる. しかし, 細い血管はCT値が低下している為, 表現は出来るものの, 形状再現性が損なわれている可能性があるので, 注意が必要である.
3. 造影剤静注条件について: Flow Rateについては高いもの程, 血管のCT値を上げる事が出来ると思われるが, 限られた総量では持続時間が短くなる. 著者らの施設においては, 患者の呼吸停止時間とCT装置の性能から3D‐CTAを行う為のScan Timeは30secを目安としているが, 良好な3D‐CTAの画像を得る為には, 結果Ⅶ‐1に示すようにScan中の血管のCT値を300HU以上に保つ事が必要であり, 300HU以上のCT値を30sec持続できる造影剤注入方法が必要となる. (Fig. 7)の4つのCurveを比較すると300HU以上のCT値を30sec持続できるのは(Fig. 7③)の注入条件のみである. (Fig. 7①)と(Fig. 7②)の比較でFlow Rateが2ml/secで同一である場合では, ヨード含有量が多いもの程CT値を上げることが出来る為, 高濃度造影剤を用いた方がより高い造影効果を得られるが, 240mgI/mlであっても3ml/secのFlow Rate(Fig. 7③)を用いることにより300mgI/mlを2ml/secのFlow Rateで注入する場合(Fig. 7①)よりもはるかにCT値を高くすることが出来, 目標CT値を300HU以上とした場合は, 240mgI/mlを用いた(Fig. 7③)の注入条件で達成されている. また, 個人差の影響に着目して造影剤静注条件を検討すると(Fig. 8①-④), Flow Rateが同一な場合では(Fig. 8①と②), 低濃度造影剤の方が明らかに個人差は少なく安定しているといえる. 同一造影剤でFlow Rateの違う場合(Fig. 8②-④)を比較すると, Flow Rateは高い方が個人差は少なく安定しているといえる. すなわち, 低濃度でFlow Rateが高いもの程個人差の影響は少ないと考えられる. 造影剤静注方法に関しては様々な報告がある4)‾9) が, 以上の結果より, 良好な3D‐CTAを得る為にはFlow Rateが最も重要な要素であり, 最優先に考慮すべきである.

結　論

CT値300HU以下では形状再現性に問題がある.
模擬血管径が細くなるに従いCT値は低下する.
CT値が同じ場合血管径が細くなるに従い適正閾値は高くなる.
1mm程度の細い血管は, 他の太い血管と同一の閾値で正確に描出する事は困難である.
低濃度造影剤を用いてFlow Rateを高く設定することで, 良好な造影効果が得られ, 個人差の影響も少なくすることが出来る.

文　献

大森　恒, 小寺秀一, 安井一久, 他:頭頚部3DCT‐Angioにおける造影剤静注方法の検討. 日放技学誌 51(10):1461, 1995
北原陽之助, 大島　茂, 他:新しい非イオン性, 低浸透圧血管造影剤のレオロジー的検討―従来の造影剤との比較-. 臨床薬理, 26(1)105‐106, 1995
八町　淳, 輪湖　正:螺旋走査型CTにおける最適造影検査方法の検討. 日蜀医報, 40(2)109‐124, 1995
山田公治, 橋本尚明, 生駒英明他:高速ラセンCTにおける三次元画像描出のための造影タイミング. 日放技学誌 41(2)253‐258, 1994
平野　透, 田辺純喜, 秋葉英成他:海面上脈洞近傍の3DCT‐Angiographyにおける造影能の検討. 映像情報 8 東京:974‐976, 1994
平野　透, 才川恒彦, 片桐好美他:スパイラルCTスキャンを使用した頭部疾患3D. MIP画像の有用性. 北放技術誌 54(89‐94), 1994
小林尚志松枝　清:血管造影診断領域への臨床応用について. 日蜀医報 38(3)28‐43 1993
黒田知純, 藤田　真, 他:シーメンス製スパイラルCT. 日蜀医報 38(3)74‐82 1993
安野泰史, 片田和廣, 他:螺旋走査型CTにおける造影剤の使用法. 日蜀医報 38(3)83‐89 1993

要　旨

頚部3D‐CT Angiography(以下3D‐CTA)は, 個人差により安定した3D画像を提供することが難しく, 造影効果の影響が多くを占めていると考えられる. そこで今回我々は, 自作ファントムを用いた実験とDynamic Scanを用いたTime Density Curveにより, 造影効果の違いによる形状再現性, 血管径の違いによるCT値の変化とそれぞれの血管径におけるCT値と閾値の関係, 造影剤静注条件の違いによる造影効果を検討した. CT値300HU以上であれば形状再現性に問題がないと思われた. 血管径が細くなるとCT値は低下し, CT値の高いもの程この傾向は顕著である. CT値が同じ場合, 径が細くなるに従い適性閾値は高くなる. 低濃度造影剤を急速多量注入する事により, 造影効果を高くすることが出来, 個人差も少なくする事が出来た.

抜冊請求先: 065 札幌市東区北40条東1丁目; 札幌麻生脳神経外科病院; 大森　恒他

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