Radiosurgeryにおける線量分布の容積評価並びに計算値と実測値の検証

Evaluation of Dose‐Volume Distribution in Radiosurgery

西部茂美* 平田良昭* 

旭川医科大学医学部附属病院 放射線部 (1996年2月8日 受理)


Summary

In March 1995, we installed Clinac 2100C system (Varian) for the linear accelerator and CADPLAN for the computer treatment planning system.
We examined the differences in dose‐volume distribution between 10MV and 4MV photon beams, and between non‐coplanar and single plane techniques in radiosurgery using the CADPLAN system. In addition, we also compared dosimetric errors between computer‐aided calculations and real dosimetric data.
It was concluded that these data are very useful for radiosurgery treatment.

Key words:Linear accelerator, Computer treatment planning system, Dosimetric error, Computor-aided calculation, Real dosimetric data


緒 言

現在多くの施設で行われている, Radiosurgeryに用いられる高エネルギーX線Narrow Beamsに対する線量評価は, 1994年に日本医学放射線物理学会測定委員会1) からマニュアルが刊行され, まだ多くの問題点はあるものの, データ取得のための一つの方向性が示されている.
当院においても平成7年3月Varian社製Clinac 2100C及び治療計画用コンピュータCADPLANが導入された. この装置は10MVと4MVのX線エネルギーで照射することが可能である.
今回, 両者において線量分布の容積評価並びに計算値と実測値の誤差の検証を行い, 臨床的に有用であると認められたので報告する.

方 法

本体放射線治療装置の幾何学的誤差の管理項目は, 日本放射線腫瘍学会(JASTRO)研究調査委員会発行の外部放射線治療装置の保守管理プログラム2) に基づいている. すなわち定格治療距離における照射野やアイソセンタからの放射線ビーム軸の変位, X線ビーム軸の指示, 患者設定のための附属機器, 回転目盛りのゼロ位置, 治療台天板の動作等のチェックを行い, 装置に起因する誤差は最小限に押え, 十分満足するものとした. また, 測定はSSD〓100cmとし, PDDの測定, OCRの測定, 照射野係数等の測定を行い, 必要な基本データをCADPLAN側に入力し, 線量分布の評価3)‾9) を行った. 以下に使用した装置名を示す.

使用装置
  1. 直線加速器:Clinac2100C(X線エネルギー;10MV&4MV)
  2. 円形補助コリメータ:Fig.1参照
  3. 等濃度記録計:PDI‐10(Sakura)
  4. TLDリーダ:UD‐502B(National)
  5. フイルムデンシトメータ:Wellhofer WP120
  6. ファントム:Mix-Dp, Tough Water
  7. 線量率計:応用技研 AE‐132a
  8. 指頭形電離箱:応用技研 C‐110(0. 6ml), MC‐110(0. 01ml)
  9. ダイオード線量計:SCANDITRONIX DPD‐5
  10. ダイオード検出器:EDP‐10, EDP‐20, EDD‐5
  11. フィルム:Kodak X‐Omat V2
  12. Waterphantom: Wellhofer WP600C
  13. 治療計画用コンピュータ:CADPLAN
  14. CT装置:SOMATOM PLUS‐S
  15. MR装置:MAGNETOM‐SP(1. 5T)

結 果

1. PDDの測定
主コリメータを矩形照射野40×40mmで一定とし, 特注した円形補助コリメータの各照射野サイズ30mmφ, 25mmφ, 20mmφ, 15mmφ, 10mmφでのPDDの測定を行った. 測定は公称電離容積が0. 01mlのマイクロチェンバを用い5mm深部ごとに25cm深部まで, 4MV及び10MVX線の両者について行った. 代表的な値をFig. 2及びFig. 3に示す. 照射野サイズ10×10cmID2 を基準とし, 円形補助コリメータのサイズの減少にともない値は次第に低下している. PDDの測定値は, CADPLAN上ではHartmann10), 11) らの以下に示す式により計算される.
D; the relative percentage depth dose.
Q; the absorbed dose profile, a function of the off-axis distance, A.
T; the central axis percentage depth dose, a function of the distance from the isocentre, B (used to find b).
i, k; the relate to the gantry angle and treatment couch angle for the beam position.
N; static couch positions.
M; gantry rotation angles.
W; the weighting factor.
A; the perpendicular distance from the calculation point to the beam axis. (see Fig. 4)
B; the distance, along the beam axis, from the isocentre to the point of intersection of the beam axis with a perpendicular line to the calculation point.
diso; the previously calculated depth of the isocentre in a given position.
照射野20mmφのPDDをダイオード線量計(DAI)と電離箱線量計(MC)により測定したX線エネルギー別の結果をFig. 5及びFig. 6に示す. 両者の線量計の測定値の差は平均で10MVX線が±1. 4%以下, 4MVX線が±1. 5%以下であった. CADPLANには電離箱線量計の値を採用した.
2. OCRの測定
Table 1はフィルム法を用いて, 矩形照射野と円形照射野の両者でのOCRの50%領域における幾何学的照射野並びにOCRの80%‾20%における半影を求めたものである. 尚, 測定はSSDを一定とし, ファントム中の基準深にフィルムを線錐方向に垂直に挟んで行い, 各照射野の中心線量をいずれも100とした. 幾何学的照射野においては, 矩形10MVで幾何学的最大誤差が±0. 7mm, 同じく矩形4MVで±0. 55mm, 円形10MVで±0. 3mm, 円形4MVで±0. 2mmとなっており, 照射野サイズによらず専用補助コリメータを用いた方が, さらにX線エネルギーが低い方が誤差は小さくなっている. いずれにしても, 各サイズの幾何学的誤差は±0. 7mm以下におさまっている. また, 半影に関して, 30×30mmで比較すると, 矩形10MVで4. 5mm, 矩形4MVで3. 4mm, 円形10MVで3. 8mm, 円形4MVで2. 4mmとなり, 光子エネルギーが低くかつ専用円形補助コリメータを用いた方が半影は小さくなる.
Fig. 7, Fig. 8は各円形補助コリメータによる基準深(最大線量深)におけるOCRの値をプロットしたもので照射野サイズと共にOCRは変化し, また, 10MVに比べ4MVの方が線量勾配は急である.
3. 照射野係数の測定
Fig. 9, Fig. 10はダイオード線量計(DAI), マイクロチェンバ(MC), フィルム(FILM), TLD, JARPチェンバ(容積0. 6ml)による照射野係数を測定12) した結果である. 各々の測定値は基準照射野10×10cm2 で規格化した値で, X線エネルギー4MVを例にとると, フィルム法とダイオード線量計の値がほぼ一致し, 続いてTLDの値がいくらか低めの値となり, マイクロチェンバの値が低めに測定された. 当施設ではTLDの値を参考にし, ダイオード線量計の値を採用した.
4. CADPLAN上の容積評価
各エネルギーごとに各専用コーンサイズごとのPDD, OCRの値をCADPLAN側に入力し, 実際の患者のCT横断画像上にアイソセンタを決定し, stereotactic modeで線量分布計算を行った. Fig. 11において, ファントム上の実線はgantry start角度を0度, gantry stop角度を180度, couchの角度を0から45度おきに180度まで変化させた, 5本のARCSによるNON‐COPLANAR法のシェーマであり, 下段の破線はgantry start角度を0度, gantry stop角度を180度, couch角度を0度と180度の2本のARCSによるSINGLE PLANE法のシェーマである. 当施設のRadiosurgeryは上記の5ARCS法と2ARCS法のどちらかの方法で行われ, 限局した小病変もしくは孤立性の転移性病変の場合には5ARCS法を, 複数の転移性病変には2ARCS法を用いている.
いままで医師側は腫瘍中心の横断画像のみを用い, maximum PDDの80%領域をもって治療域としていたが, 三次元の画像上で80%領域の等線量曲面で囲まれる球もしくは楕円体の容積及び形状に関しては計算していない. そこで, 各専用コーンのサイズ別のx, y, zの座標値を求め, 等線量曲面で囲まれる理想上の容積を球体と考えたときの値と比較した.
Fig. 12はCT画像上の三方向から座標値を求めた症例を示す. 10mmφでは球体の体積を求める公式(4/3)πr3 に当てはめると0. 523cm3, 15mmφで1. 767cm3, 20mmφで4. 186cm3, 25mmφで8. 177cm3, 30mmφで14. 130cm3 となる. max PDDの70%まではほぼ球体とみなすことが可能であるため, MaxPDDの何%の値が最も理想容積に近似できるかを求めたものがTable 2である.
コーンサイズが20mmφを例にとると, 理想容積4. 186cm3 に対して, 10MV5ARCS法で治療計画を行った時に, 80%領域に囲まれた容積が4. 513cm3 となり最も近く, ±3. 7%の差, 同じく4MV5ARCS法75%領域で±0. 8%, 10MV2ARCS法80%領域で±3. 2%, 4MV2ARCS法75%領域で±1. 1%となり, 今までは術者の主観により等線量曲線の%ラインを決定していたが, この結果からどのコーンサイズでどの照射法の時に, 理想的な%ラインになるかを定量的に表として表すことができ, 等線量曲線や曲面の決定は術者にとって一目瞭然となった.
 Table 3は4つの照射法における, 各コーンサイズごとのmaxPDDの50%ラインで囲まれた容積を算出したもので, 4MV5ARCS法を100とした時の容積の百分率を示す. 50%領域に照射される容積の比率は10MV5ARCSで平均41%増, 10MV2ARCS法で62%増, 4MV2ARCSで15%増となり, 照射される正常組織の線量をできるだけ少なくする為には, 4MVでしかも5ARCS法がもっとも優れ, ついで4MV2ARCS法となった. これらの一連の結果は, アイソセンタの位置を極端に頭蓋内の端に設け計算した場合にも, その傾向は変化しなかった.
5. 実測値と計算値の比較
Mix‐Dp 30×30×30cm3 を用い, 5mm間隔で撮影したCT画像をCADPLANに転送し, 治療計画上で得られた計算値と, 実際に直線加速装置に補助コーン20mmφを装着し, 4MV5ARCS法を用いて20GyをMix‐Dp内のTLDに照射した値との比較13) を行った. 同一幾何学上のアイソセンタにおいては±1.5%以下の差, また4cm lateral方向においては±2.0%以下, 同じく4.0cm vertical方向においては±2. 0%以下となり, 実測値と計算値の誤差は許容範囲内と考えられた.

考 察

Radiosurgeryに必要なデータを検証するに当たり, 特注円形補助コリメータの幾何学的な誤差は十分満足するものであった. また駒井式改良型の白土式脳定位装置を治療台上に精度良く固定し, しかもチルトのかかる使い勝手のよいものを作成した. これらの条件下で, 装置本体の物理データの取得に当たっては, 当初PDDとTPRの測定を行ったが, CADPLAN側にはPDDの値しか入力できず, しかも上記Hartmannらの式によりTPRの値を用いていないため実測値との比較が重要となった. PDDの測定に関しては相対値測定なので電離容積の小さいマイクロチェンバの値を採用し, 微小OCRの測定に関しては一番再現性の良いフィルム法を用い十分な結果を得た. また, 照射野係数に関してはダイオード線量計の値を採用したが, 応用技研製のマイクロチェンバの値が低めに測定された理由として, 大照射野では(10×10cm2 を基準として1に規格化)ステム効果が強く生じたためと考える.
 CADPLAN上の各照射法の違いによる等線量容積評価に関しては, コーンサイズごとの詳細なデータを得ることができ, 日常の治療に有効に活用することができた.
一連の測定に当たり, 各々の測定器の特性を考慮し, また近年のCT装置の位置精度の向上により, あらゆる領域で誤差を最小にする努力をしてきたが, しかし誤差を生む要因はこれらの複合となる. 今回は最終的に実測値と計算値の比較に関して, アイソセンタから離れた距離においても, ±2. 0%以下の誤差範囲におさまり納得のいく結果となった.
最後にFig. 13に実際の治療症例を示す. 症例は子宮頚癌脳転移の患者で, 右頭頂葉に直径6mmの腫瘍があり, 直径10mmφの円形コリメータを使用し, 4MV5ARCS法にてmaxPDDの70%ラインに24Gy照射した例である. 図の左は治療前のGd造影MR画像であり, 右は治療2. 5月後の画像である. 腫瘍は画像上消失し, 現在日常生活を営んでいる.
今後はさらに3D解析を含めた治療計画の向上による検討を続けていきたい.

結  語

  1. 特注した専用円形補助コリメータの幾何学的誤差は±0. 3mm以下と小さく, 十分満足するものであった.
  2. 矩形コリメータに比べ専用円形補助コリメータを使用し, しかもX線エネルギーは10MVに比べ4MVで幾何学的半影は少なかった.
  3. 容積計算の結果から4MV5ARCS法が最も線量の集積度が良かったが, 4MV2ARCS法でも十分使用可能と考えられ, 臨床的状況により使いわけることとした.
  4. どのコーンサイズがどの照射法の時に, 理想的な深部量百分率曲面になるかを定量的に表としてあらわすことができ, 治療上極めて重要なオリジナリティをみいだすことができた.
  5. 実測値と治療計画上の計算値の誤差は極めて少なく, 同一幾何学上のアイソセンタにおいては±1. 5%以下, また4cm lateral方向においては±2. 0%以下, 同じく4. 0cm vertical方向においては±2. 0%以下であった.
  6. 使用したCADPLANの線量計算はUNIX上で行われているため, 従来のコンピュータに比べて極めて迅速で, かつ便利であった.

謝 辞

本研究に対し校閲を戴いた当院放射線科講師, 吉田弘博士に深謝いたします. さらに臨床的に貴重な助言を賜った脳神経外科助手, 滝沢克己博士に心から感謝申し上げます.

文 献

  1. 都丸禎三, 斉藤秀敏, 岩波 茂, 他:Stereotactic Radiation Surgery Beams(極小照射野)の線量マニアル. 日医放物理学会測定委員会編, Supplement NO. 42, (1994).
  2. 都丸禎三, 川島勝弘, 西台武弘, 他:外部放射線治療装置の保守管理プログラム. JASTRO研究調査委員会編, 通商産業研究社, 東京, (1994).
  3. 稲巴清也:放射線治療計画システム. 篠原出版, 東京, (1993).
  4. 都丸禎三, 伊藤 明, 内田 勳, 他:高エネルギーX線極小照射野の線量評価方法の検討. 日放技学誌, 52(1199), (1992).
  5. Ken R. Winston: Linear Accelerator as a Neurosurgical Tool for Stereotactic Radiosurgery. , Neurosurgery, Vol. 22, NO. 3, (1988).
  6. ANSREW W, U: Physics of Gamma Knife Approach on Convergent Beams in Stereotactic Radiosurgery. , J. Radiation Oncology Biol. Phys. , Vol. 18, pp. 941‐949, (1989).
  7. GUNTHER:Precision and Accuracy of Stereotactic Convergent Beam Irradiations from a Linear Accelerator. , J. Radiation Oncology Bio. Phys. , Vol. 28, pp. 471‐479, 1993.
  8. JEN‐SAN TSAI: Quality Assurance in Stereotactic Radiosurgery Using a Standard linear Accelerator. , J. Radiation Oncology Bio. Phys. , Vol. 21, pp. 737‐748, (1991).
  9. J. D. Bourland: Static Field Conformal Stereotactic Radiosurgery. , J. Radiation Oncology. Phys. , Vol. 28, pp. 471‐479, (1993).
  10. Hartmann, G. H. , Schlegal, W. , Sturm, V. , Kober, B. , Pastyr, O. , Lorenz, W. J. , Cerebral radiation surgery using moving field irradiation at a linear accelerator facility. , International Journal of Radiation Oncology Biology Physics, 11, pp. 1185‐1192, (1985).
  11. Thomson, E. S. , Gill, S. , Doughty, D. : Stereotactic multiple arc radiotherapy. , British Journal of Radiology, 63, 745‐751.
  12. 藤田勝久, 渡辺良晴:10MV‐X線Narrow beam照射における線量評価, 北放技術誌, 53, 43‐47, (1993).
  13. Constantinou. C. , Attix, FH. , Paliwal, BR. , : A solid water phantom materical for radiotherapy x‐ray and gamma‐ray beam calibrations. , Medical Physics, 9, pp. 436‐441, (1982).

要 旨

1995年3月に当院ではVarian社製Clinac2100C及び治療計画用コンピュータCADPLANが導入された. この装置はX線エネルギーが10MVと4MVで照射可能である. 今回, Radiosurgeryに用いる線量分布の容積評価をX線エネルギー別, 照射方法別に行い, また計算値と実測値の誤差の検証を行い良好な成績を得た.


抜冊請求先
078‐11 旭川市西神楽4線5号3-11
旭川医大病院
西部茂美 他

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