治療計画用画像ファイリングシステムの構築

Development of a new Image Filing System for Radiotherapy Planning

西部茂美*  平田良昭*  上杉正人**

*旭川医科大学医学部附属病院 放射線部
**株式会社 ジェイマックシステム (1996年2月8日 受理)



Summary

The present radiological data filing system for computer‐aided treatment planning has many problems.
We developed a new data filing system for high‐speed data transmission, which can be operated easily, and has a large capacity for data storage, as well as a back‐up system. We also constructed a comprehensive data base system for patients, which includes conventional or video images as well as on‐line CT/MR images for radiotherapy planning.

Key words: Digital images filing system, Computer‐aided treatment planning, Data base of clinical information

緒 言

医師の診察を受け放射線治療の適応となった患者は, まずX線シミュレータ装置やCT, MR画像を用いて治療計画がたてられる. 使用される画像データは診断領域に比べると少ないが, 年間200名を越える新患者の画像保管, 管理の面では Fig. 1 に示す状態となり, 特に再照射の患者のフィルムを短時間で検索するのは困難であった.
今回, 直線加速装置の更新に伴い, 画像ファイリングシステムの予算が計上され, 当施設で構築したシステムを報告する.

システムの概要

Fig. 2 は治療装置本体とも連結した画像ファイリングLocal Area Network Configuration(Asahikawa Medical College Hospital)である1)-3). CT装置(SOMATOM PLUS‐S)及びMR装置は(MAGNETOM‐SP)10 BASE‐5すなわちYELLOW CABLEでオンライン接続され, 画像はSIEMENS‐ASAHI社製GATEWAY EXPORT SPOOLERに一時保管される. さらにTRANSCEIVERを介して, サーバHP 9000‐E25と接続される(Fig. 3). サーバは定期的にGATEWAYを監視し, 新しい画像が転送されてくると取得し, GATEWAY内の画像を消去する. また, 画像を取得するときに, ACR‐NEMA形式のデータの並びを少し変えて, モトローラ形式に変換する. これにより全ての画像をモトローラ形式で管理するため, 今後, 新しいモダリティの増設や更新に対しても柔軟に対応することができる. さらにサーバは画像を可逆圧縮してハードディスクに保存する.


接続機器の機能

1. 治療計画装置(CADPLAN)との画像転送
先ほどのネットワークで接続されたCADPLAN上で必要な治療計画用画像は, サーバ内の画像転送用のディレクトリにコピーされるID4)-5)(Fig. 4). CADPLANはこのディレクトリをNFS(Network File Server)マウントして画像を取得する. さらにフィンランドの工業技術研究センターと他のノルディックコンピュータ支援放射線治療(CART)プロジェクトとの共同開発されたCART IMAGE FORMATに変換するため, 多少の時間はかかる.
画像ファイリングとは別に, CADPLAN上でMLCコリメータをサポートするような治療計画のデータは, EXTERNAL TRANSCEIVERを介して接続された自動照合システム RMS‐2000 FILE SERVERによって管理される. また, 治療装置本体をコントロールし, MLCを用いた回転照射を開発中である.
2. フィルムデジタイズ画像の取得
オフラインのCR画像, TV透視画像, RALS等のコンベンショナルフィルムはFILM DIGITIZER VXR‐12(Fig. 5)にて取り込まれる. これはMacに接続され, 読み込んだ画像はID等の患者情報を附加し, FORMAT変換してサーバのスプール・ディレクトリに転送される. 転送方法としてはNFS/SHAREを用い, これはMacからUNIXホストコンピュータ上のNFSサーバ機能を利用するためのネットワーククライアントソフトウェアで, 仮想ドライブ機能をMacのユーザに提供するものである.
サーバはCTやMRI画像取得と同様, 定期的に画像転送がないかを監視し, 新しい画像があった場合, 画像の取得や保存, ORACLEデータベースの登録, そしてスプール・ディレクトリ内の画像消去を行う.
3. ビデオデジタイズ画像の取得
Mac本体内に設置されたビデオキャプチャー・ボードによりデジタルスチルカメラやビデオカメラ等からのビデオ信号を用い, 画像の取り込みを可能にした. これにより, 患者の照射ポートの確認(Fig. 6)や, 放射線治療前後の状態を把握することができる.
先ほどのデジタイズ画像と同様, 患者情報を附加しFORMAT変換してサーバのスプール・ディレクトリに転送し, 保存が可能である.
4. 取得画像の表示
LAN端末のMacにPath WayやNFS/SHARE(ネットワーククライアントソフトウェア)による画像転送機能を持つ画像ファイリングソフトを搭載し, ORACLEデータベースにアクセスして必要な画像を検査単位で転送取得する機能を有する. Fig. 7 は必要な画像を選択し転送する表示メニューである. Fig. 8 に示すように, データベース内に登録された患者個別のNo. イメージモダリティー区分, 検査日, 患者ID, 患者名, 性別等の条件をマウスでクリックすることにより, 検索することができ, LAN各端末での簡単な画像転送, 表示, 処理(CT ・ MRI画像のWindow, Levelの変更, スムージング, 反転, 回転), 計測(プロフィールカーブ, ROI, 距離, 面積, 体積等), LASERGRAPHICS LFR‐Xを用いたスライド作成等を可能とした. 操作はすべて通常のMacのソフトと同様, 簡便である. また, 転送速度は2. 5秒/枚と早く実用上問題はない.
5. その他の接続
フレームリレーによるNTT専用デジタル回線ISDN64で, サーバのワークステーションHP ENVIZEXと接続し, j‐Mac社側からソフトを検索してもらい, エマージェンシーメンテナンスに役立てている.
また, 学内LANとノート型Macとを接続した. インターネットにより, 文献検索や電子メールサーバの利用を可能とし, 現在HTML(Hyper Text Markup Language)を利用した治療部門のホームページを開発中である.

考 察

画像ファイリングシステムの構築にあたり j‐Mac社側と留意した点は, 以下の6点である.
  1. 画像処理及び表示速度の問題
  2. ファイリング対象モダリティーの選択
  3. ネットワーク接続の問題
  4. データの保存形態の問題
  5. 構築したシステムの将来性の問題
  6. 費用の問題

上記の各項目について考察を進めると,
  1. 対象となるデータが画像であることから, そのデータ量は膨大なものとなり, 画像診断の支援を考慮すると, その表示応答はきわめて高速性が要求される.
  2. CT, MR装置からのデジタルオンライン画像だけでなく, 通常のコンベンショナルフィルムやビデオ信号も取り込まなければならない.
  3. 発生した画像データを単にファイリングするだけでなく, それらのデータが有効に活用できるシステムの基本設計を念頭におかなければならない.
  4. データの発生に伴い保存媒体が増加するのは当然ことで, データの運用と保存形態を十分考慮せねばならない.
  5. 稼働するシステムが時代の進歩に伴い老朽化しても, 今まで保存したデータは有効に活用できること.
  6. 限られた予算の中でいかに実用的で使い易いシステムを構築できるかは, 導入の前段階で綿密な打ち合せが必要である.

上記の6点についての解決方法を記述する6).
  1. ワークステーションの持つ処理能力は, 現在大型コンピュータに勝るとも劣らず, 画像の処理・表示速度については, ワークステーション上で1, 024×1, 024マトリックスの画像表示速度を検討すると, 2秒程度であり十分実用可能である.
  2. これからの画像診断は一つの画面上で白黒・カラーを問わないマルチモダリティーの検査情報が要求される. ワークステーションではカラー表示も可能であり, またマルチタスク・マルチウィンドウの環境を提供するOSとウィンドウシステムを採用し, マルチモダリティー診断を実現した.
  3. ワークステーションでは, ネットワークとしてイーサネット・FDDI等の物理的な環境が整備されており, 施設の規模にあわせたネットワークが構築できる. またOSのUNIX自体がネットワークを意識して生まれてきた経緯を見ても, 異機種コンピュータとの接続にも柔軟に対応できるため, 拡張性を踏まえたシステム構築には適している.
  4. ワークステーションがサポートするストレージデバイスは多種多用であり, 目的にあったデバイスの選択が可能でる. 本システムでは, HD・MOD・DATの三つのデバイスを基本と考えている. これは発生するデータの活用頻度が経時的に少なくなっていく現状と保存コストを踏まえ, データ発生から1週間程度までをアクセスタイムの早いHDに, それ以後1‾3年程度の間はMODに, 最終的な長期保存用には安価で大量データをストック可能なDATとした.
  5. 使用するOSがマルチタスクのUNIXであり, 世界の標準となっている現在, これが陳腐化することはない. その上で動作するシステムであれば, データを含めハードに左右されずに何時までも互換性のとれたシステムとして活用が可能である.
  6. 初期投資の観点から考えると, ハードウェア自体の価格が年々安くなっており, 非常に導入しやすくなっている. また, ワークステーション自体が非常にコンパクトで, 設置場所を取らないため, 特別な工事費を必要としない.
上述のように, UNIXワークステーションの持つ環境により, 非常に実用的な画像診断支援システムが構築できた.

まとめ

 当施設のシステムは, 従来のファイリングシステムで問題とされていた点を解決した. すなわち, 転送の高速化, 操作の容易さ, 十分な保存とバックアップを実現した. また, オンライン接続されたCT ・ MRI画像をはじめとし, コンベンショナル画像やビデオ画像を含めた臨床情報についてのデータベースの構築ができるようになった.
 症例に関するデータの集積, 文献検索から学会発表, 論文作成まで可能で, 各種のカンファレンスや研究会における症例検討に必要な画像情報の管理や提示, 操作もほとんど端末だけの操作で可能である.
 今後の課題としては, 一層の改良を加え, 放射線科外来, 医局, そして診断領域を含めた院内ファイリングシステムの構築に向けて, よりベターなネットワークの構築を目指したいと考えている.

文 献
  1. 沢田 敏, 他:当院のPACS構築とその運営の実際. 映像情報, 23, 302‐306, 1991.
  2. 湊小太郎:PACSの促進要素と阻害要素. 新医療, 46‐49, (8) 1994.
  3. 近藤博史, 他:PACSへの期待と危倶. 画像診断, 11, 1167‐1174, 1991.
  4. 水島 洋:国立がんセンターにおけるコンピュータネットワークシステムと高度医療情報処理システム構想. 医学のあゆみ, 170, 707‐710, 1994.
  5. 矢野亮治:病院の情報システム$(3)コンピュータ関連. 病院設備 36, 551‐563, 1994.
  6. 古瀬 司, 熊木康雄, 菅野忠博:UNIXワークステーションを用いた画像診断支援システム. J‐MAC PRODUCTS NEWS, JMCP, 1993.

要 旨

当施設の画像ファイリングシステムは従来のファイリングシステムで問題とされていた点を解決した. すなわち画像転送の高速化, 操作の容易さ, 十分な保存とバックアップを実現した. また, オンライン接続されたCT・MRI画像をはじめとし, コンベンショナル画像, ビデオ画像を含めた臨床情報についてのデータベースが構築できるようになった.


抜冊請求先
078‐11 旭川市西神楽4線5号3-11
旭川医大病院
西部茂美 他

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日本放射線技術学会 北海道部会