一回息止めによる連続 Overlapping 胸部 HRCT スキャンの検討

Contiguous overlapping lung HRCT scan of one held breath


札幌医科大学医学部附属病院 放射線部

坂田元道,笹川純市,白勢竜二、澤石政勝

札幌医科大学医学部附属病院 第3内科

吉田和浩*



Summary

 We applied the overlapping CT scan technique to 8 small nodular lesions of lung (φ<1cm). Besides this, we also did contiguous high-resolution computed tomography(HRCT) of one held breath. The overlapping scan offers the advantage of being able to obtain detailed information about small lesions of less than a slice thickness. To diagnose a small nodule(φ<1cm)as either benign or malignant, we needed more detailed HRCT imagesyhan ever.
 Using the above HRCT scan techniques, we concluded that we could obtain images of high accuracy and quality, and detailed information by contiguous overlapping HRCT scan of one held breath.

I. はじめに

 我々は、1993年の第49回日本放射線技術学会北海道部会秋季大会にて”微細病変への Overlapping CT scanの応用”について報告した3).この Overlapping CT scanを胸部の1cm 以下の結節病変に応用しさらに一回の息止めでの連続スキャンを行った. 胸部の1cm 以下の結節病変が悪性であるか良性であるかは、非常に重要な問題である.また、肺野結節を評価する場合にはまず基本となるのは形態診断で、これには結節そのものの形態(辺縁の性状や内部構造)と周囲血管との関係の2つがある.通常、1スキャン毎や数スキャン毎に息止めを行った場合、画像の連続性が保たれないことががしばしば生じ,辺縁の性状を評価するとき偶然に捉えられた結節の一部のみを評価していたり、周囲の血管や気管支の連続性を追うことも難しくなる1),2).この問題を解決するためには一回の息止めで結節全体の連続画像を得ることが最善の方法である.これは1992年第48回日本放射線技術学会北海道部会秋季大会にて2cm 以下の肺野結節を対象に" 連続スキャンによる胸部高分解能CT について " として報告した2).
 今回我々は、さらに小さな肺野結節病変(1cm 以下)に対する一回の息止めによる連続 Overlapping High Resolution Computed Tomography ( HRCT) scan の有用性について検討したので報告する.

II. Ovelapping scan とは

 Overlapping scan の方法はFig.1 に示すようにスライス厚の分だけテーブルを移動するのではなく,前のスライスと少し重ねるようにしてスキャンを施行する方法である4,5,6).

III. 対象と方法

 対象は肺野に結節をもつ8例であり,男性6例,女性2例,年令は44歳〜66歳で平均58.0歳であった.症例は胸部検診またはCT 検査にて発見された,直径1 cm 以下の結節影であった.
 使用装置は GE CT 9800 Hi Light で,撮影条件は120 kV,140mA,2 sec.,1.5 mm スライス厚でOverlap させるために1.0 mm 間隔にて撮影した.検査方法は1回の息止めで9〜12スライスを連続的に撮影した.この時 Dynamic scan mode を使用し呼吸停止時間はおよそ45〜60秒である.尚,呼吸停止前には酸素(5L/min.) を吸入させた.また,高分解能CT を得るためmatrix を最大の512*512とし,Field of view (FOV) を最小の9.6 cm とした.この結果 Pixel size は0.19*0.19 mm となった.また,BONE アルゴリズムを使用し,高い空間分解能を実現した.

IV. 症 例

 Case 1 : 66歳,男性で10 mm スライスで捉えられた直径1 cm の肺野結節は,その画像だけでは存在診断のみで質的診断は不可能である.我々が施行した一回の息止めによる連続 Overlapping HRCT scanはFig. 2 に示すように結節の辺縁や血管との関係が偶然ではなく正確に描出されている.Fig.3に示すように肺がんの特徴である,spicula,胸膜陥入像,辺縁の不整や肺静脈との関係が明瞭に描出されている.この症例は胸腔鏡による手術で腺がんと診断された.
 Case 2 : 58歳,女性で10 mm スライスの画像では肺野の直径9 mm の結節を捉えただけであるが,この方法で撮影されたHRCT 像では肺がんであるという基準を全くクリアーせずに経過観察となった症例である(Fig. 4 ).
 この症例において,10 mm スライス厚の結節の濃度は -276.0 H.U. であり,一回の息止めによる連続 Overlapping HRCT scanで撮影された数スライスの中で結節の中央部を通るスライスではその濃度は+22.6 H.U. と非常に違った CT 値を示した( Fig. 5 ).肺野内に存在する直径 1 cm 以下の結節の濃度を正確に測定できた.

V. 考 察

 胸部の1cm 以下の結節病変が悪性であるか良性であるかは、非常に重要な問題である.肺野結節を評価する場合にはまず基本となるのは形態診断で、これには結節そのものの形態(辺縁の性状や内部構造)と周囲血管との関係の2つがある.通常、1スキャン毎や数スキャン毎に息止めを行った場合、画像の連続性が保たれないことががしばしば生じ,辺縁の性状を評価するとき偶然に捉えられた結節の一部のみを評価していたり、周囲の血管や気管支の連続性を追うことも難しくなる1),2).この問題を解決するためには一回の息止めで結節全体の連続画像を得ることが最善の方法である.これは第48回日本放射線技術学会北海道部会秋季大会にて2cm 以下の肺野結節を対象に" 連続スキャンによる胸部高分解能CT について " として報告した2).我々はさらに一歩進め,1cm 以下の肺野結節に対して一回息止めによる連続 overlapping HRCT scan について検討した.
 肺がんのCT 診断基準は辺縁の不整,notch(spicula),胸膜陥入像,周囲気管支,血管の収束像,肺静脈の関与,air bronchogram の存在などが上げられる1).肺がんの診断基準に従って,1cm 以下の肺野結節をがんかそうでないかを決定するためには,より精細なHRCT が必要である.我々が施行した一回息止めによる連続 overlapping HRCT はこれらの基準を十分に表現する画像が得られ,その質的診断に有用であると考えられた.つまり,10mm または5mm スライス厚で捉えられた直径1cm 以下の肺野結節はその画像だけでは存在診断のみで,質的な診断は不可能に近い.一回息止めによる連続 overlapping HRCT では肺がんの特徴を明瞭に描出できる.
 肺がんでは大きさにかかわらず複数の系統の血管が巻き込まれるという所見が重要である.HRCT の血管描出能は、約1 cm の大きさを持つ肺小葉の中心部を走行する肺動脈と辺縁を走行する肺静脈が描出できる1)と言われている.一回息止めによる連続 overlapping HRCT においてこれらを呼吸移動のない体軸に対する精度の高い正確な連続画像として得られることは1 cm 以下の肺野結節を診断する上で有用である.今後,Helical(Spiral) CT scan にて新たな情報が得られるかも知れないし,新しい研究対象になると思われる.また,三次元画像は病変の立体的認識や手術計画に有用であろうと考えられる7)、8).
 1cm 以下の肺野結節病変を確実に描出するには高い空間分解能が必要である.肺はそれ自身が高いコントラストを有しているため,コントラスト分解能よりも空間分解能が重要となる.できるだけ高い空間分解能を持つように画像表示をするべきである.そのためには高分解能アルゴリズムの使用,大きなマトリックスサイズと小さなFOV(ピクセルサイズを可能なかぎり小さくする) が有効であると考えられた.
 肺野内の結節が小さいほど厚いスライスでは Partial Volume Effect によってその結節の濃度を正確に描出できない.一回息止めによる連続 overlapping HRCT は1cm 以下の結節の正確な濃度測定が可能となると思われる.これは重要な意味を持ち,今後造影剤を使った Dynamic CT や Helical (Spiral) CT によって肺野結節の鑑別診断に応用できると考えられる.

VI. まとめ

 より精度の高いHRCT 像を得るために施行された一回息止めによる連続 overlapping HRCT は1 cm 以下の肺野結節病変に対しPartial Volume Effect の減少できるという大きな特徴から
  1.  精度の高い、正確で詳細な情報が得られる
  2.  詳細な周囲構造との関係が把握できる
  3.  結節の正確な濃度(CT 値)を測定でき,今後結節の鑑別診断に応用できる
と考えられた.
以上より、診断上有用な検査方法であると結論した.

謝 辞

 当研究に際し、多大なご助言と御協力を頂いた札幌医科大学医学部附属病院第3内科 斉藤 司先生に深謝いたします。

文 献

  1.  村田喜代史、他;超高速CT の肺疾患への応用 画像診断14:655-669 (1994)
  2.  坂田元道,小田原好宏,板東道夫 他,;連続スキャンによる胸部高分解能CTについて 北放技術誌 53:65-69(1993)
  3.  坂田元道,白勢竜二,平野透 他,;微細病変への Overllaping CT の応用 北放技術誌 54:95-98(1994)
  4.  中尾宣夫 他,全身CT における再構成画像の評価 断層撮影法会誌 9:75-80(1981)
  5.  田中貞人 他,CT 再構成による前額断層,矢状断層について 断層撮影法会誌 9:81-89(1981)
  6.  比嘉敏明 他,コンピュター縦再構成法の頭頚部領域における適応 断層撮影法会誌  9:67-74(1981)
  7.  Remy,J. et al : Angioarchitecture of Pulmonary Arteriovenous Malformations : Clinical Utility of Three-dimensional Helical CT. Radiology 191,657-664 (1994)
  8.  平野透、才川恒彦、片桐好美 他、スパイラル CT スキャンを使用した頭部疾患 3D.MIP 画像の有用性 北放技術誌 54:89-94(1994)


Fig. の説明 Fig. 1 : Overlapping scan 方法 Fig. 2 : Case 1 : 66歳,男性 A : 10 mm スライスで捉えられた直径1 cm の肺野結節は, その画像だけでは存在診断のみで質的診断は不可能である.B : 一回息止めによる 連続 Overlapping HRCT の連続6スライスを示す.正確に結節が捉えられている. Fig. 3: Case 1 の連続 Overlapping HRCT の中の1スライスを示す.図に示すように肺癌 の特徴である,spicula,胸膜陥入像(小矢頭),辺縁の不整や肺静脈(大矢頭)と の関係が明瞭に描出されている. Fig. 4: Case 2 : 58歳, 女性 10 mm スライスの画像 (A) では肺野の直径9 mm の結節を 捉えただけであるが,この方法で撮影されたHRCT 像 (B) では肺癌であるという基 準を全くクリアーしなかったので,経過観察となった. Fig. 5: Case 2の症例において,10 mm スライス厚の結節の濃度は -276.0 H.U. (A) で あり,一回の息止めによる連続 Overlapping HRCT scanで撮影された数スライス の中で結節の中央部を通るスライスではその濃度は+22.6 H.U. (B) と非常に違った CT 値を示した.

要 旨

 我々は,8例の1 cm 以下の肺野結節病変に対しOverlapping CT スキャンを応用した.さらに,一回息止めによる連続 HRCT スキャンを施行した.Overlapping CT スキャンはスライス厚より小さな病変の詳細な情報を得られるという利点がある.1 cm 以下の肺野結節病変が良性であるか悪性であるかを決定するためには,より精細なHRCT 像が必要である.上記の方法を応用することにより,我々は一回息止めによる連続 overlapping HRCT スキャンによって1 cm 以下の肺野結節病変に対し精度の高い,詳細な情報が得られ,有用な検査であると結論した.

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日本放射線技術学会 北海道部会