Books 1995

胸郭入口部のＭＲａｎｇｉｏｇｒａｐｈｙ

MR angiography of the thoracic inlet

市立函館病院　中央放射線室

真壁武司、田井中恵一、橋本泰弘、村屋保、青山元彦

-SUMMARY-

　Magnetic resonance imaging(MRI) is useful for detecting the tumor extension in the thoracic inlet. Magnetice resonance angiography(MRA),however, is seldom applied to the thoracic inlet vessels at present, because most of the conventional diagnostic procedures have relied on angiography.
　We applied a two-dimensional fast low-angle shot(2D-FLASH) with travelling saturation pulse bands(travelling SAT) and three-dimesional fast iamging of steady-state precession(3D-FISP) with tiled, optimized, nonsaturating excitation(TONE) to the thoracic inlet vessels. From the 2D-FLASH with travelling SAT, we could obtain high signal intensities which were related to the in-frow, but the blood flow continuation was no good. Consequently, this should be used for unidirectional flow such as carotid arteries or veins. Compared to ordinaly RF-pulses,the TONE pulse in 3D-FISP using the TONE method significantly improved the blood signal and contrast of the distal vessels to the entry partition in situations where the blood flow was predominantly unidirectional.
　This method showed good results for thoracic inlet vessels.

key words:
MR angiography,
TONE,
travelling SAT,
thoracic outlet syndrome

緒　言

　胸郭入口部は、比較的動きの少ない部位でMRIとしては撮像しやすい部位１）２）の一つであると思われるが、MR angiography（以下MRAと略す）においては胸郭入口部の血管は、鎖骨下動脈や頚動脈等複雑に血管が走行しており、必ずしもすべてが描出できるとは言いがたい。
　しかし、胸郭出口症候群３）の様に腕神経叢の圧迫だけでなく鎖骨下動脈、静脈の圧迫が原因で起こる胸郭部の血管性の病変があり、MRAが行われることがある４）癇鰹增A鎖骨下動脈圧迫の評価は、侵襲的な血管造影で評価されてきた５）が、患者の中には非ヨ－ド性の造影剤でもショック等を起こし血管造影ができない場合もある。
　そこで、近年進歩の著しいMRAで鎖骨下動脈等、胸郭入口部の血流の描出を試みたので報告する。

方　法

　使用装置はMAGNETOM Impact 1.0テスラ（Siemens-Asahi)で、body coilを使用した。撮像はtwo dimensional fast low angle shot（以下2D-FLASHと略す）、three dimension-al fast iamging with steady precession（以下3D-FISPと略す）のtime-of-flight法（以下TOF法と略す）によって行った。2D-FLASHでは、スライスの位置が変わるに従って　presaturation pulseの位置が変わるtravel-ling saturation pulse６）(以下travelling SATと略す）(fig.1)を併用して軸位断にスラブを設定した。撮像条件はtable.1に示す通りで、travelling SATを併用した場合、repit-ation time（以下TRと略す）、echo time（以下TEと略す）は制限を受けるため最短時間になるよう条件設定した。
　3D-FISPでは撮像スラブ内での血液の信号が血流の流出部で弱くなっていく現象を防ぐt-ilted optimized　non-saturating excitat-ion６）(以下TONEと略す）(fig.2)を併用し2D-FLASH同様、軸位断にスラブを設定した。この時、3D法では2D法に比べ信号強度が低下する７）ためガドペンテト酸ジメグルミン（以下Gd-DTPAと略す）による造影撮像を行った。また、3D法では、スラブが心臓と重なって心腔内血流のプロトンが飽和し、心臓からでる鎖骨下動脈への信号が減弱しないように心臓を外すような傍矢状断も設定し比較した。この時、静脈を消す目的から末梢にpresaturati-on pulseを加えた。撮像条件は2D同様にTONE法を併用した場合の最短TR、TEに条件設定した。
　得られたもと画像はmaximum-intesity pr-ojection（以下MIPと略す）処理を行い体軸を中心に回転させるようなMRAを作成し、観察した。

結　果

(1)2D-FLASH＋travelling SAT

　fig.3に2Dの画像を示す。これは、胸郭出口症候群疑いの患者に対して仰臥位で上肢を体幹にあわせた安静時と両上肢挙上位による負荷時の撮像を試みたものである。スラブに平行に流れる血流は信号低下が見られ、血管の連続性は悪かった。

(2)3D-FISPの矢状断

　fig.4に矢状断によるMRAの位置決め画像、fig.5にMIP処理し前後方向から見たMRA画像を示す。また、fig.6に左側のもと画像を示す。fig.5を見るとスラブに直行する鎖骨下動脈は描出されているが他の血管は同定困難であった。

(3)3D-FISP+TONE法の軸位断

　fig.7に(2)と同一患者の軸位断にスラブを設定しTONE法を併用した場合の画像を示す。鎖骨下動脈、頚動脈、腕頭動脈等、静脈とあわせて確認できた。また、この患者は左鎖骨下動脈が大動脈弓部の分岐部で閉塞していることが発見された。

考　察

　胸郭入口部や縦隔のMRIは、比較的動きが少なくImageとしては撮像しやすいと思われるが対象としている病変が不明な場合は、広い撮像範囲を設定するため信号強度の低下等により画像が劣化することがある。そのため神経の同定や血管、血流の把握が困難な場合もある。そこで今回は、胸郭入口部に限定し動脈の狭窄等の評価にMRAを施行した。
　2D-FLASHのtravelling SAT法であるが、信号強度が強く上下方向の血流は捕らえることはできたが、体動や嚥下運動の影響で血流の連続性が失われることがあった。また、スラブと平行に流れる血流は十分なTOF効果が得られないため描出されない部分もあった。臨床で胸郭出口症候群疑いの患者に仰臥位で上肢を体幹にあわせた安静時と両上肢挙上位による負荷時の撮像を試みたが、頚動脈は起始部より確認できたが目的としていた鎖骨下動脈の描出は不十分であった。従って、2D-FLASHのtravelling SAT法によるMRAは上下方向の血流で動、静脈どちらかを選択的に観察したい場合に使用するのが良いと思われる。
　3D-FISPの例では、はじめにより強いTOF効果を得るために傍矢状断にて選択的に鎖骨下動脈の描出を試みた。この方法では、ある程度の血流の描出は可能であったが、末梢へ行くほど信号が低下しており圧迫箇所等が不明な場合、描出できないことがあると思われる。しかし、もと画像を観察することによって神経と血管、その周囲組織との関係をとらえるには適していた。
　次に3D-FISPにTONEを併用した場合であるが、3D法は2D法と比べ信号強度が弱い７）ため、はじめからGd-DTPAによる造影撮像をすることによりこの点を補った。TONEを併用することで、スラブ内の血流の流入部と流出部での信号強度の違いを補うこと８）が可能になり末梢まで血流を追うことが可能であった。臨床的にも狭窄病変が発見され、描出能は今回比較したシ－ケンスの中では最も良かった。
　しかし、TONEの欠点として撮像範囲が限定される６）等の問題もある。また、TONEはFlip Angleを20゜に設定すると流入部では約15゜、流出部では25゜に可変する６）瘴]って、従来同一条件下で観察していたものが常に条件が変化している状態であるため、何を観察しているのか目標を失ってしまう可能性がある。確かに、今回3D-FISPにTONEを併用した条件が最も描出能が良かったが、血流を観察したい場合、RF pulseはMagnetaizetion Transfar Contrast pulse９）や脂肪抑制pulse１０）の様な固定したpulseを用いて周囲組織の信号を低下させ血流を強調するような方法を用いるべきと考える。そして、血流に関しては血管の径や血液の粘度を考えたレイノルズ数や流体力学１１）を取り入れ血管壁にどの様に血流がぶつかっているかを考え合わせMRAを観察するのが正しい評価ではないかと思われる。今後、更にMRAに適した新しいソフトウエアや専用コイル等の開発に期待したい。

結　語

胸郭入口部のMRAを試みた。
2D-FLASHによるtravelling SATを併用した場合、血管の連続性は悪いが上下方向の血流を選択的に描出するには良かった。
3D-FISPによる傍矢状断のMRAは選択的に鎖骨下動脈が撮像できた。
3D-FISPによる傍矢状断のもと画像により神経と血管、その周囲組織との関係を観察でき臨床的に有用であった。
3D-FISPによるTONEを併用した場合、造影剤を使用することにより末梢血流まで観察可能であり胸郭入口部を全体的に描出するには有用であった。

文　献

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寺山和雄,井上駿一,広畑和志,編集:標準整形外科学,第３版,397-400,医学書院,東京,(1988)
大川賀久,磯田治夫,増井孝之,他:胸郭出口症候群のMA angiography.臨床放射線,38,41-46,(1993)
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－要旨－

　ＭＲＩは胸郭入口部の腫瘍の描出にはよく利用されている。しかしながらＭＲＡとしてはあまり利用されていない。それは従来からの診断法である血管造影がほとんどの場合行われているからである。そこで我々は２ＤＦＬＳＡＨのトラベリングＳＡＴ法と３ＤＦＩＳＰのＴＯＮＥ法によって胸郭入口部の血流の描出を試みた。
　２ＤＦＬＡＳＨのトラベリングＳＡＴ併用の場合はインフロ－効果による信号強度は高いものの血流の連続性は悪かった。そこで、この方法は頚動、静脈の様な一方向の血流の描出に用いるべきである。
　３ＤＦＩＳＰにＴＯＮＥを併用した方法は他のパルス系列を用いたときに比べ一定の範囲内では末梢血流の信号まで描出できた。胸郭入口部の血流に関しては、この方法が最も描出が良かった。

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日本放射線技術学会北海道部会