1.放射線療法の目的・意義
欧米ではすでに、前立腺癌に対する放射線治療成績は手術とほぼ同等であると認識されている。我が国においては、前立腺癌の罹患率は欧米に比べて低く、また低分化腺癌、進行癌のハイリスク例が多く、放射線治療は姑息的照射の意味合いが強かった。しかし、生活習慣の欧米化、PSA(prostate specific antigen)検診の普及等により、早期の前立腺癌が増えてきており、放射線治療に関しても根治的治療手段のひとつとして考えられるようになってきた。
放射線治療の利点は、手術と比較して治療後のQOLが高いことである。手術では高率に性機能が障害され、性的活動期にある男性には大きな問題となる。また、手術後に尿失禁が認められることがある。一方、放射線治療の主な副作用は直腸障害であるが、総じて、放射線治療のほうがQOLを高く保つことができるとされている。
前立腺癌の予後因子には、臨床病期のみならず、治療前PSA、Gleason分類などがあり、被膜外浸潤、精嚢浸潤、リンパ節転移のリスクが推定できる1)。前立腺癌の放射線治療は、単に病期分類のみならず、これらのリスク因子を考慮に入れた治療戦略を立てる必要がある。リスク群は、低リスク群(T1〜2a かつ PSA < 10ng/ml かつ Gleason score 2〜6)、中等度リスク群(T2b, Gleason score 7 または PSA 10〜20ng/ml)、高リスク群(T3以上 または PSA > 20ng/ml または Gleason score 8〜10)に分類されることが多い(TNM分類は1992年 AJCC)2)。この分類を用いた場合、局所療法、すなわち手術や70Gy程度の放射線治療での10年PSA非再発率は、低リスク群で約80%、中等度リスク群で約50%、高リスク群で約30%となると考えられている3)。
低リスク群では、放射線治療単独で完治可能である。リスクが高くなるにしたがって、前立腺外への浸潤やリンパ節転移の可能性が高くなり、内分泌療法との併用が推奨される4) 5)。特に、リスクが高くなるほど、より長期の内分泌療法との併用が有効とされている5)。しかし、以上で述べたリスク分類などはすべて欧米のデータより得られたものであり、直接日本人にも当てはまるかどうか、今後の検討が必要である。
前立腺癌の予後はきわめて長いため、年齢、合併症などで患者の期待生存期間が短いと判断される場合には、無治療または内分泌療法単独もひとつの選択枝となる。また、欧米では無治療・経過観察が選択されることも多いが6)、どういう患者群におこなうべきか明確な基準は明らかではない。
CTV:低リスク群では精嚢浸潤やリンパ節転移の可能性は少なく、CTVはCTで認められる前立腺のみでよい。中等度、高リスク群ではCTVを前立腺および精嚢とする。骨盤リンパ節領域を照射すべきかどうかに関しては以前から議論があるが、結論は出ていない。
PTV:前立腺は直腸や膀胱の状態により0.5〜1.5cm程度位置が変動することが知られており、通常、CTV+1〜2cmとする。しかし、高線量を照射する場合には、マージン、特に直腸側をさらに小さくする。
予後因子にて十分にリスク評価をおこない1)、リンパ節転移、精嚢浸潤、被膜外浸潤などの可能性を考慮して、照射範囲を決定する。
10MV以上の高エネルギーX線を用いる。治療体位による再現性は両論があり腹臥位、背臥位はいずれでも良い。前立腺部への照射については、二次元治療計画では、6cm×6cm〜8cm×8cm程度の照射野にて、両側方向120°の振り子照射や四門照射が用いられる。三次元治療計画では、四門以上の固定多門照射や原体照射などがおこなわれる。図1に前立腺への照射野の例を示す。前立腺尖部の同定はCTのみでは不正確となるので、尿道造影などから位置を把握する。通常は、照射野の下縁を坐骨結節下縁までとすることが多い。
図1.前立腺への照射野の一例 精嚢を含める場合 精嚢を含めない場合
骨盤領域を照射する場合には四門照射が基本であるが、我が国では前後対向二門で照射されることもある。前立腺癌の所属リンパ節は総腸骨動脈の分岐部以下の骨盤リンパ節であり、上縁をL5〜S1間、下縁を坐骨結節下縁とする。側方からの照射野の後縁は、S3以上の骨盤、仙骨前面のリンパ節領域を含み、その遠位端では直腸後壁をはずすようにする。前縁は恥骨結合前縁より0.5〜1.0cm後方とする。図2に全骨盤への四門照射の例を示す。
図2.全骨盤への照射野の一例 四門照射の場合
通常、一回2Gyにて照射する。骨盤部を照射する場合には、一回1.8〜2.0Gy、総線量45〜50Gyを骨盤領域に投与する。前立腺に対する二次元治療計画では、70Gyを超える照射により重篤な直腸障害が高頻度に出現することが知られており、線量は65Gy程度にとどめるべきである。
三次元治療計画をおこなうことにより、直腸前壁の線量を減少させることができ、高線量の投与が可能である。米国では75〜80Gyを超えるような線量も投与され、良好なPSA非再発率が多数報告されている。しかし、多くが60〜70Gyの通常線量との遡及的な比較であり、数少ないランダム化比較試験も一施設内のものがほとんどであり7)、明確なエビデンスとしては確立されていない。また、超音波画像を利用した位置あわせシステムなど、前立腺の日々の動きを考慮して直腸前壁の線量を低減する照射法が工夫されていることも多く、三次元治療計画が可能だからといって、安易に高線量を投与すべきではない。我が国では、前立腺に対する照射線量は65〜70Gyのことが多いが、適切な総線量については不明である。
前立腺癌はアンドロゲン依存性であることが多く、内分泌療法が有効であり、しばしば放射線と併用される。特にリスク要因が多いほど、長期間の内分泌療法との併用が推奨される5)。しかし、内分泌療法の種類、期間やタイミング、内分泌療法併用下での腫瘍制御線量などについてはっきりとわかっていない。また、内分泌療法には身体的・精神的副作用があるため安易な併用は慎むべきである。
全摘除術にて断端陽性であった場合、アジュバント療法として外照射などをおこなう場合もあるが、PSAの上昇を確認してからなんらかの救済治療をおこなう場合もあり、一定のコンセンサスは得られていない。まず、断端陽性であった場合、外照射を加えたほうがPSA再発率は低いと考えられている8)。アジュバント療法としての放射線治療においては、60Gy程度の線量が照射されていることが多く、50Gy程度の低い線量でも効果があったとの報告もある。
術後にPSAが上昇した場合には外照射を考慮する必要がある。PSAの上昇時、尿道吻合部付近の生検がなされても必ずしも病理学的に再発が証明されるわけではないが、この場合にも照射の対象となる。尿道吻合部を十分含めた前立腺床を照射野とする。救済療法では文献的には60〜70Gyが照射されており、アジュバント療法より多めの、64Gy以上の線量が推奨されている8)。ただし、全摘除術後の照射の場合には、尿道狭窄などの合併症が起こりやすい。
米国では、前立腺癌に対する小線源療法は広く普及している。経直腸超音波およびテンプレートを用い、前立腺内に125Iや103Pdの線源を永久刺入する方法が一般的で、優れた治療法として注目をあびている。最大の利点は、約6〜7週間外来通院が必要な外照射と比較し、1〜3日の入院のみで治療が終了することである。永久刺入の適応は、T1〜T2a かつ Gleason 2〜6 かつ PSA < 10ng/ml の場合には単独、T2b〜T2c または Gleason 8〜10 または PSA > 20ng/ml の場合には外照射との併用が推奨されている9)。わが国では、イリジウム線源による高線量率組織内照射法が行われているが、125I線源も使用可能となり、今後急速に普及するものと思われる。
70Gyまでの放射線治療単独での10年PSA非再発率は、低リスク群で約80%、中等度リスク群で約50%、 高リスク群で約30%とされている。しかし、中等度〜高リスク群では高線量投与により治療成績が向上する可能性があり、また、内分泌療法を併用することによっても成績の向上が見込める。
急性の有害事象として、下痢、肛門周囲の皮膚炎、直腸出血、頻尿などがあるが、可逆的である。晩期有害事象として最も問題となるものは直腸出血である。手術を要するような出血や閉塞をきたす頻度は1%以下であるが、輸血を含めた内科的な処置の必要な出血の起こる頻度は数%から20%程度にみられるとされている。これは直腸線量に依存し、三次元治療計画を行えば頻度は低い。そのほか、放射線性膀胱炎、尿道狭窄などがある。性機能障害が起こる可能性もあるが、手術に比べ、頻度は低い。
6.参考文献