1.放射線療法の目的・意義
中咽頭癌の治療では生命予後と共に機能予後が重視され、この点で放射線療法は大きな意義を有するが、これまで放射線療法と外科的治療のいずれを主体にすべきかを厳密に検討した臨床研究がなく、治療の標準化は確立されていなかった。
特に近年の中咽頭癌の治療は、全般的には臓器・機能温存に優れた放射線療法が中心になることが多い1)とされる一方で、再建術の進歩により外科的治療が選択される機会も増加し、治療者・施設間でのバリエーションが大きくなっている。しかし、2002年に報告された北米治療施設の成績に基づく扁桃、舌根癌に関するメタアナリシス2)は、外科的治療に対する放射線療法の長所と優位性を明確にした点で画期的であった。この研究は、放射線療法(±頸部郭清)と外科的治療(±術前ないし術後照射)が同等の局所領域制御率、生存率を示すことに加え、外科的治療に比べ放射線療法に伴う合併症は重篤なものが有意に少なく、機能損失の程度も軽いことを示しており、中咽頭癌全般に対する標準治療としての放射線療法の重要性をあらためて支持している2)。
一方、過分割照射(hyperfractionation:HF)3) 4)やRTOG(Radiation Therapy Oncology Group)の同時追加照射法を用いた加速過分割照射(accelerated hyperfractionation:AHF)4)による局所領域制御率の改善、局所進行例での同時化学放射線療法による局所領域制御率、生存率の改善5) 6) 7) 8)等も報告され、これらは放射線療法の成績向上に繋がる選択肢として一般に認められている。
I〜II期症例は放射線単独療法が推奨される。特に、外科的治療で大きな機能欠損が予想される扁桃、舌根癌などは、放射線療法が通常第一選択とされる。ただし、軟口蓋、口蓋弓癌I期などで術後機能欠損が軽度と予想される場合には、外科的治療も考慮される。
切除可能なIII期症例では、外科的治療±術後照射が標準治療となっている。術後照射の適応としては、原発巣が大きい場合、3個以上の転移リンパ節を認める場合、病理組織所見で断端陽性、神経浸潤、転移リンパ節に被膜外進展を認める場合などが挙げられる1)。腫瘍の縮小に伴い切除可能となり得る場合には、症例によっては術前照射を試みる意義がある。一方、III期症例には根治照射も標準的に用いられるが、特に扁桃癌は放射線単独療法のよい適応である1)。また、HF、AHFあるいは同時化学放射線療法による治療成績向上が期待できることから、これらの適用を積極的に検討する意義がある1) 2) 3) 4) 5) 6) 7) 8)。N1症例に対しては、計画的ないし照射後残存病巣への頸部郭清術追加が推奨される。
IVA〜B期症例のうち、切除可能例では外科的治療±術後照射が標準治療として推奨される1)。しかし、切除可能例でも大きな術後機能欠損が予想される場合には、放射線療法を考慮する。切除不能例においては放射線療法が標準治療である。ただし、腫瘍縮小により切除可能となり得る場合には、術前照射を試みる意義がある。放射線療法を用いる場合、治療成績向上が期待できることから、HF、AHF、化学療法の同時併用あるいは化学療法併用HFの適用を検討する意義がある1) 2) 3) 4) 5) 6) 7) 8)。IVC期では、姑息治療として放射線療法の適応がある。
GTV:臨床所見、画像診断等により総合的に把握された原発巣、および頸部〜鎖骨上窩リンパ節転移巣。
CTV:中咽頭癌では、粘膜表面に沿って広がる傾向と周囲の豊富なリンパ流の存在が重要である。臨床的にはN0症例でもおよそ50〜60%に潜在的リンパ節転移が存在し、原発巣が正中を越えると20〜30%に両側性リンパ節転移が認められる。このためGTVと周辺だけでなく、原発巣の部位や浸潤範囲に応じたリンパ流路も考慮しCTVを決定する。ただし、早期の扁桃癌等ではCTVを患側に限局し得る場合もあり、健側唾液腺機能温存の面から検討する意義がある(ipsilateral RT technique)1) 2)。
PTV:PTVを決定する際に考慮すべき主な因子としては、嚥下等に伴う臓器運動やセットアップ・エラーがある。シェル使用で体動の影響は軽減されセットアップの再現性は高まるが、上記因子を考慮してCTVに付加する適切なマージン幅(0.5〜1cm程度)を設定することが必要である。
二次元治療計画における、左右対向二門照射を中心とした所謂大照射野設定での亜部位毎のポイントを示す(ただし、現時点では照射野設定に関するエビデンスはない)。
扁桃・口蓋弓癌:I〜II期例では、前縁は原発巣より2cm以上マージンを取り、上縁は蝶形骨洞底部まで、後縁は乳様突起後方2cmまで、下縁は甲状切痕を含める。III〜IV期例では後頸部リンパ節まで十分含み、前方から下頸部、鎖骨上窩も照射する。
軟口蓋癌:I〜II期例では、前縁は原発巣から2cm以上、上縁は1.5cm以上のマージンを取り、扁桃窩に浸潤がある場合上縁は蝶形骨洞底部とする。後縁は乳様突起を、下縁は甲状切痕を含める。III〜IV期例では下頸部、鎖骨上窩も照射する。
舌根癌:I〜II期例では、前縁は原発巣より2cm以上マージンを取り、上縁は頭蓋底〜舌背1.5cm上方、後縁は後頸部リンパ節まで十分含み、下縁は甲状切痕を含める。III〜IV期例では下頸部・鎖骨上窩も照射する。
後壁癌:前縁は原発巣より2cm以上マージンを取り、上縁は頭蓋底、後縁は後頸部リンパ節まで含み、下縁は下咽頭全体を含める。進行例では下頸部・鎖骨上窩も照射する。
なお、照射野に継ぎ目がある場合は、過大・過小線量投与を避けるためにマッチングに十分注意し(ハーフビームを用いたり継ぎ目を途中で移動すると良い)、脊髄ブロックも置く。少なくともアイソセンタ面、出来れば複数のオフ・センタ面も含めた二次元線量分布図を作成する。
追加照射では脊髄線量に注意を払い、このためX線照射野から外した頸部リンパ節の照射には電子線を用いる。また、照射術式を工夫して出来るだけ健側唾液腺の線量を抑える。
三次元治療計画では、適当な計算アルゴリズムを用いて組織不均質補正を加えた三次元線量分布が得られ、補償フィルターや種々の照射技法を駆使することが可能である。大照射野では、補償フィルター使用で三次元的に均一性の高い線量分布が得られ、照射野の継ぎ目に関しても適切な設定が計画出来る。扁桃癌(T2N0M0、II期)に対する三次元治療計画の実例を図1に示す。
図1.扁桃癌T2N0症例に対する三次元放射線治療計画の実際 左右対向二門照射法であるが(a) 、補償フィルターの使用により均一性の高い線量分布が得られ、PTVの殆どが95%域に含まれている(b)。
追加照射や ipsilateral RT technique では、旧来の照射術式は勿論、三次元原体照射、定位的放射線照射など多様な術式を検討、選択することで、脊髄、唾液腺といった決定臓器の線量を低減しながらPTVに集中した照射を加えることが出来る。
頭頸部の外照射には4〜6MV X線および電子線が適している。通常X線左右対向二門照射を中心に大照射野を設定し、途中で脊髄をX線照射野からはずしてX線±電子線による追加照射に移行する。脊髄線量は、分割や併用化学療法に応じて総計で40〜45Gy程度に留める。通常分割では、大照射野で40〜45Gy程度照射した後追加照射を加え、総線量(治療前のGTVに対する)は65〜70Gy程度とすることが多い。頸部〜鎖骨上窩リンパ節への予防照射の目的には45〜50Gyが必要である。通常分割による術前照射での総線量は40〜45(〜50)Gy程度、術後照射では治癒切除の場合に55〜60Gy、非治癒切除の場合には65〜70Gy程度を投与する。
通常分割照射(conventional fractionation:CF)が標準的である。しかし、T3N0〜1例での局所領域制御率が、CFに比してHFで優れることを示したEORTCのランダム化比較試験3)は良く知られている。また、中咽頭癌が主体の局所進行頭頸部癌を対象としたRTOGのランダム化比較試験4)は、HFないし同時追加照射を用いたAHFがCFに比して局所領域制御で優れることを示した。III〜IV期例では、HFやAHFの応用による局所領域制御の改善を期待できる。一方、これら非通常分割照射の生存率への寄与に関するエビデンスは少ないが、局所進行頭頸部癌でHFに化学療法を同時併用した場合、HF単独に比べ局所領域制御率、生存率共に高まることを示したランダム化比較試験7) 8)は注目に値する。
なお、現行のHFないしAHFでは晩期障害の増強は認められないことが多いが、大部分に急性障害の増強があることには十分留意する。
外科的治療:切除可能例では、症例により術前ないし術後照射と併用する。根治線量照射後の残存原発巣救済手術、計画的ないし残存リンパ節転移巣への頸部郭清術も行われる。
化学療法:局所進行(III〜IV期)症例において、放射線療法単独よりも化学放射線療法の治療成績が全般に良好とされる1) 5) 6) 7) 8)が、これは主に同時併用ないし交代療法によるもので、照射前ないし照射後併用化学療法の有用性に関しては明らかなエビデンスがない1) 5)。化学療法の標準的レジメンは確立されていないが、プラチナ製剤をベースとすることが多い5) 6) 7) 8)。
組織内照射:症例により軟口蓋、口蓋弓癌の追加照射に用いられる。外照射後残存病巣への追加照射として用いられることもある。
PDQ® data base(1992)による、米国の部位・病期別の標準的な局所制御率および生存率を表1に示す。国内の治療成績についてみると(JASTRO, 1998)、5年原病生存率は、中咽頭癌全体で58%、I期67%、II期63%、III期50%、IV期37%で、前壁(舌根)および後壁原発例の予後が不良であると報告されている。
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急性障害:粘膜炎、唾液分泌障害、味覚障害、嚥下障害、皮膚炎等がみられる。照射開始後間もなく顎下腺炎を認めることがある。これらの急性障害は非通常分割照射や化学放射線療法で増強されることが多く、特に Grade 3(NCI-CTC version 2.0)以上の粘膜炎が臨床的に問題となる。例えばRTOGのランダム化比較試験4)においては、CFでの発生率25%に対してHF42%、AHF41〜47%と後二者での障害増強が明らかである。また、Calaisら6)によると、放射線単独療法での39%に対し同時化学放射線療法は71%と、やはり後者での高い発生率が報告されている。急性障害への対処は、うがい、消炎鎮痛剤や局所麻酔剤投与等であるが、高度の場合には照射休止とせざるを得ないこともある。
晩期障害:慢性唾液分泌障害と歯牙う触、皮膚線維化、顎骨壊死、軟部組織壊死、開口障害、甲状腺機能低下症、脊髄症などが発生し得る。放射線療法による重篤な障害の発生率は2〜10%前後と報告されている2)が、放射線療法と外科的治療の併用ではさらに高率になるとされる1) 2)。
6.参考文献