1.放射線療法の目的・意義
縦隔腫瘍のうち、悪性リンパ腫、胸腺腫、胸腺癌、甲状腺腫瘍、胚細胞腫瘍などが放射線治療の対象になる。組織型によって治療法や予後は全く異なるので、病理診断が不可欠である。ここでは胸腺腫と胸腺癌、胚細胞腫について説明する。
胸腺腫は全縦隔腫瘍の約20%を占める胸腺上皮由来の腫瘍で悪性度の低いものから悪性度のきわめて高いものまで含まれている。比較的良好な経過を示すが、時に隣接組織を浸潤し、まれながら遠隔転移を示す。浸潤性胸腺腫と非浸潤性胸腺腫の比率はほぼ同数である。胸腺腫に重症筋無力症を合併する頻度は33〜50%と報告されており、抗コリン剤などによる治療を要する。術後で明らかな腫瘍の残存がない場合でも、照射や化学療法の追加により重症筋無力症が軽快することがある。
胸腺癌は組織学的に癌と診断される胸腺原発の悪性腫瘍であり、稀な疾患である。悪性度は高く、早期から遠隔転移しやすく、局所での浸潤も著明である。胸腺癌全体での5年生存率は約35%である。小細胞癌、未分化癌、肉腫癌など高悪性度と組織学的に分類されるものに比べ、扁平上皮癌や類表皮癌など低悪性度と分類されるものはやや予後が良好である。
胚細胞由来の腫瘍は全縦隔腫瘍の約2.5%を占め、好発年齢は10〜30代、80%以上が男性である。予後を決める1番の因子は組織型であり、セミノーマと成熟型奇形腫は予後が良いが、これ以外のものの予後はあまりよくない。
縦隔腫瘍は様々な組織型が含まれており、TNM分類は適応されない。胸腺腫では正岡の分類が使われることが多い。腫瘍が完全に皮膜内にとどまっている非浸潤型の場合、手術による摘出で100%近い治癒率が期待できるので、照射の適応はない。一方、腫瘍が皮膜を越えて周囲組織に浸潤している浸潤型の場合、肉眼的に摘出しても手術だけでは根治は期待できない。手術の有無にかかわらず放射線療法を加える。腫瘍が縦隔にとどまらず、原発巣と離れて胸腔内に播種している場合、通常切除の適応はない。化学療法を先行させ、腫瘍が縮小してから放射線治療を加える。照射後に化学療法を行うと肺臓炎などの重大な副作用の危険性が高くなる。
胸腺癌の治療はまだ確立されていないが、手術後放射線あるいは化学療法が有効と考えられており、三者併用にて良好な成績を報告しているものもある。
胚細胞由来の腫瘍には病期分類はない。組織型がセミノーマか否かがきわめて重要である。セミノーマであればかなり進行していても治癒が可能であるが、他の組織型では成熟型奇形腫が切除で治癒することを除き治療成績は著しく不良である。生検した標本がセミノーマであっても、他の胚細胞腫瘍が混在している可能性もある。病理診断がセミノーマであっても、AFPが陽性であれば純粋なセミノーマではない。HCGやベータHCGは純粋なセミノーマでも上昇していることがある。セミノーマ以外の胚細胞腫瘍は手術と主にシスプラチンを中心とする化学療法が行われ、放射線治療はあまり行われない。化学療法で腫瘍マーカーの正常化したものでは予後が良い。
GTV:CT上、認められる原発病巣、または切除後の残存病巣。
CTV:浸潤性胸腺腫では肉眼的に確認される病巣の周囲に比較的広範囲の顕微鏡的浸潤がある場合が多い。よって術後照射では、切除前の病巣範囲を十分含む広めの(できれば2cm以上の余裕を持った)範囲をCTVとする(図1)。なお、胸膜への播種を考慮して患側の胸郭全体をCTVとする考え方もある。胸腺癌はGTVのあった範囲に1〜2cm程度の余裕を持たせた範囲をCTVとする。セミノーマの場合は放射線単独治療なら全縦隔をCTVとするが(図2)、化学療法後なら図1と同様でよい。
PTV:上記のCTVに呼吸性変動を加味したものがPTVとなる。
図1.浸潤性胸腺腫に対する術後照射 図2.セミノーマに対する放射線単独治療での照射野
GTVがある場合には三次元治療計画が望ましい。PTVへの線量を減らすことなく、肺、脊髄、心臓などのリスク臓器への線量をできるだけ減らすように心がける。また、GTVの呼吸性移動に対処するために、必要なマージンを設定する、あるいは呼吸同期をはかるなどの工夫をする。線量分布計算での最適なアルゴリズムは不明であるが、現状では実測値に近い不均質肺補正値が望ましい。
照射には6〜10MVのX線を用いる。病巣部位により前後対向二門、前方一門、あるいは接線照射などを工夫して用いる。いずれの場合も脊髄線量は40〜44Gy/20〜22回までとする。なお、有害事象としてgrade 2以上の放射線肺臓炎のリスクを低下させるために、20Gy以上照射される正常肺の体積が肺全体の25%以下になるようにする。
浸潤性胸腺腫の術後照射では、上記PTVに40Gy/20回/4週照射する。肉眼的に切除しきれていない(GTVが存在する)場合には、さらに10〜20Gy/5〜10回/1〜2週程度を追加する。胸膜に播種病巣があったときには肺の合併症を避けるため、接線照射などを考慮する。
胸腺癌は通常術後に腫瘍のあった部分に50〜60Gyを照射する。術中にマーキングして照射範囲の参考にしている施設もある。
セミノーマで放射線治療単独の場合、全縦隔に30Gy/15〜20回/3〜4週照射し、その後、腫瘍部に10Gy/5回/1週を追加する。化学療法後の場合は、治療開始時の腫瘍部に限局して20〜30Gy/10〜15回/2〜3週とする。
セミノーマ以外の胚細胞腫瘍にはガイドラインとして推奨できる照射方法は確立されていない。50Gy/5週未満の線量では局所制御は難しく、予防的に照射野を広げる意義も認められていない。
浸潤性胸腺腫に対する化学療法は、シスプラチンを中心とした多剤併用たとえば、シスプラチン、アドリアマイシン、ビンクリスチン、シクロホスファミドなどがよく用いられる。
胸腺癌に対しても同様にシスプラチンを中心とした化学療法が行われている。
セミノーマでも大きな腫瘤を形成するタイプでは最初に化学療法をする場合が多い。この場合もシスプラチンを中心とした多剤併用が一般的である。
浸潤性胸腺腫に手術のみの場合、5年生存率は53〜70%。手術後放射線を加えた場合、5年生存率はII期で85〜90%、III期で70〜80%程度と報告されている。
胸腺癌全体での5年生存率は約35%である。小細胞癌、未分化癌、肉腫癌など組織学的に高悪性度に分類されるものでは平均生存期間は11.3から15ヵ月、扁平上皮癌や類表皮癌など低悪性度に分類されるものでは25.4ヵ月から6.6年と報告されている。
縦隔に限局したセミノーマでは、放射線のみでほぼ100%の治癒を得たとの報告もある。しかし、35歳以上の症例、上大静脈症候群を呈したもの、リンパ節腫脹のあるものは予後不良とされ、化学療法が行われることが多い。その5年生存率は90%以上とされる。
セミノーマ以外の胚細胞腫の成績については、成熟型奇形腫以外のものは化学療法にての生存率は0〜43%、化学療法、手術、放射線を合わせた治療での長期生存率は8〜50%とされる。
胸腺腫およびセミノーマでは、広範な照射野のことが多く、後に放射線肺臓炎による重篤な呼吸障害を生じる可能性がある。高齢者や喫煙していたものでは、治療前に呼吸機能を評価するなど、とくに注意が必要である。呼吸機能に問題のあるものでは、照射野は狭くせざるをえない。他の合併症は肺癌に対する照射時と同様である。当然のことながら、脊髄線量には特に注意を払う。
6.参考文献
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