血液・リンパ:白血病

1.放射線療法の目的・意義

白血病で放射線治療が姑息的に用いられることはまれで、根治的な全身照射(total body irradiation: TBI)が白血病の放射線治療の大部分を占めている。TBIは急性・慢性のいずれの白血病も対象とし、シクロホスファミド(CPA)などの抗癌剤と併用され造血幹細胞移植(bone marrow transplant: BMT)における前処置として行われる。TBI前処置の役割は白血病細胞の死滅と宿主の免疫担当細胞であるリンパ球の不活化による拒絶の予防の2つがあり、TBIには殺白血病細胞効果をとってみてもほとんどの薬剤と交叉耐性がないこと、照射不能の部位がないこと、危険臓器の遮蔽が可能で望ましい分布を作成できることなど、抗癌剤にはない特徴がある。しかしTBIはさまざまな障害の原因にもなるため、これらを避けるためにブスルファン(BUS)とCPAのBUCY法など抗癌剤だけの前処置も行われている。これら2つのBMTの成績についての Inoue らによる本邦の全国集計では、non-TBIよりTBI前処置の方が生存率、再発率の両方で良好な結果を示した1)。BUCYとTBI 前処置を比較したフランスのランダム化比較試験は、急性骨髄性白血病(Acute myeloid leukemia: AML)の第1寛解期の再発率、粗生存率、無病生存率ではTBI前処置が良かったが、慢性骨髄性白血病(Chronic myeloid leukemia: CML)ではBUCYとTBIの間に明らかな差はないと報告している2)。他のメタアナリシスの報告などでもTBI前処置の方が、有意ではないが無病生存率と粗生存率が良好で、さらに肝静脈閉塞症(VOD)の頻度はBUCYの側に多かった3) 4)。以上の結果をまとめると、TBI前処置はnon-TBIよりも優れていると考えられ、BMTはTBI前処置をもとにして行うことが推奨される。
2.病期分類による放射線療法の意義
各々の白血病でのTBI-BMTの適応は病態で決定される再発リスクと病期とによって決定される。最も一般的な同種移植では、それぞれの疾患での適応は、CMLでは主に完全寛解後第1慢性期、AMLについては標準リスク、高リスク群の第1寛解期もしくは第1再発期以降がよい適応で、再発リスクの低いt(15:17)陽性の acute promyelocytic leukemia の低リスク群は化学療法での完全寛解率が高いため適応となることは少ない。急性リンパ性白血病(Acute lymphocytic leukemia: ALL)の標準リスク群でも化学療法と同種移植の成績は同等でBMTの積極的な適応はないとされ、高リスク群もしくは再発早期、第2寛解期以降が適応となる5)
3.放射線治療
3-1 照射法
外部照射装置の最大照射野は通常40cm×40cm程度であり、全身をターゲットとするTBIでは何らかの工夫が必要となる。現在考えられている照射法には以下のものがある。
1)長SAD(Source axis distance)もしくはSSD(Source skin distance)法
水平ビームでSAD(SSD)を長くして広い照射野を確保する。約4m以上のSAD(SSD)を可能にする照射室が必要である。
2)スイープビーム法
ガントリーが焦点を中心として回転し、治療寝台の患者を照射する。
3)ビーム移動法
ガントリーがアイソセンターを中心として回転し、床に近いレベルの患者を照射する。
4)治療寝台移動法
ガントリーは固定され、仰臥位の患者を乗せた治療寝台が移動する。
照射方向は1)では背臥位の左右対向二門と座位、立位の前後対向二門があり、2)、3)、4)では前方のみまたは前後対向二門を用いることが多い。
図1
図1.長SAD(SSD)法
SAD3.5mの水平ビームで、体軸は照射野の対角線にしている。臀部に見えるコードは直腸内の線量測定のための半導体線量計である。
長SAD(SSD)法は十分なSAD(SSD)を確保できる照射室があれば、他に特殊な装置を必要としないため最も良く用いられる照射法である(図1)。また1つの照射野に全身が含まれるため、低い線量率でも照射時間が短くてすむ利点もある。いずれの照射法を用いるにしても、体厚のばらつき補正のための補償フィルターやビルドアップ深の線量低下予防のためのビームスポイラーは必要である。肺線量の調節のための補償フィルターはしばしば用いられるが、水晶体の遮蔽は行われないことが多い。
3-2 線量と分割
TBIは当初、手順の煩雑さのために1回照射が用いられた。しかし標的である腫瘍(白血病)細胞や免疫担当細胞(リンパ球)は亜致死障害からの回復がないのに対し、障害の原因となる肺上皮細胞、血管内皮細胞などの正常細胞では回復が期待できるため分割照射の方が生物学的には望ましいと考えられる。この考えにもとづいて、1回照射と分割照射に関するランダム化比較試験が Seattle group によって行われた6)。1回照射法は10Gy(6cGy/min)/1回(n=27)、分割照射法は12Gy(6cGy/min)/6回/6日(n=26)で、両照射法での間質性肺炎は11%、4%、VODは52%、19%、白血病再発は22%、11%と、分割照射とすることで合併症は減少し、再発率は低下した。このように分割照射が臨床的にも優位であることが証明され標準照射法となった。分割照射での総線量についても Seattle group が2Gy×6(12Gy)と2.25Gy×7(15.75Gy)のランダム化比較試験を行っており、12Gyと15.75Gyで、再発(3年)はそれぞれ35%、12%と高線量群で少なかったが、合併症死が12%、32%と高線量群で有意に増加し、両群の生存率は結果的に同じになった7)。この結果はTBIの線量スケジュール設定の困難さを物語っている。現時点では多分割1.8Gy/回を2〜3回/日、総線量15Gy程度が推奨される線量と考えられるが、このスケジュールは照射回数が多く煩雑なため2〜3Gy/回で1〜2回/日、総線量12Gyもしばしば用いられる線量スケジュールである。ALLにおける再発の好発部位である睾丸、CMLで特に腫瘍細胞が多いとみなされる脾臓への追加照射も行われているが、その有効性はまだ明らかではない。
3-3 線量率
線量率も有害事象特に間質性肺炎の頻度を左右することが知られており、特に1回照射では影響が大きいが、分割照射では少なくなる。分割照射で用いられる線量率としては5〜15cGy/分程度の報告が多い。
4.成績
各疾患別の代表的な報告での無病生存率を以下に示す。
CML:慢性期50〜60%と良好だが、急性転化期では10〜20%まで低下する。
AML:標準リスク群で約30%、高リスク群で約25%。
ALL:第1寛解期55%、第2寛解期31%、第3寛解期26%。
5.合併症
急性期の合併症として移植片対宿主病(graft-versus-host disease: GVHD)、間質性肺炎、VODがあり、晩期有害事象には白内障、不妊などがある。それらの頻度は照射法、分割、総線量などで大きく変動するが、GVHDは30〜50%、間質性肺炎は12Gyの分割照射では20〜40%とする報告が多い。間質性肺炎の中でサイトメガロウイルスによるものが30〜40%と最も多く、原発性間質性肺炎も同程度であり、放射線による肺炎は原発性間質性肺炎の大部分をしめると考えられている。BMT後は二次発癌も多発し、Seattle group の調査では正常人の6.7倍と報告されている。
6.ミニ移植(Mini-transplant: ミニトランスプラント)とTBI
超大量抗癌剤とTBIによる骨髄破壊的前処置を伴う造血幹細胞移植は造血器腫瘍の治療法の一つとして確立したが、治療関連死亡が多いため高齢者や臓器障害のある患者は適応から除外されてきた。しかしマウスではまったく前処置を行わなくても、多数輸注すればドナー骨髄細胞が骨髄に生着することが分かり、これをふまえてヒトのBMT後再発CMLでドナーのリンパ球輸注のみの治療が行われ、これによる寛解も確認された。これらはドナー骨髄細胞の生着には必ずしも骨髄破壊的前処置は必要がないことを示しており、その主な機序はドナーのリンパ球の持つ移植片対白血病(graft-versus-leukemia: GVL)効果のもつ抗腫瘍効果と考えられている。以上の成果を背景に、宿主の免疫抑制のみをもくろんだ骨髄非破壊的前処置を用いる造血幹細胞移植、いわゆるミニ移植が提唱されるに到った。このミニ移植は骨髄破壊的前処置を伴う移植とは異なり合併症も軽いため、高齢者や臓器障害のある患者にまで適応が拡大されるようになった。ミニ移植では骨髄破壊量以下のフルダラビン、クラドリビンなどの抗癌剤や抗胸腺グロブリンを前処置に用いるが、これらの薬剤は免疫抑制効果が強いが骨髄抑制効果の少ない点に特徴がある。このような前処置後に造血幹細胞移植を行い、患者とドナーの造血細胞が混在する骨髄の混合キメラもしくはすべてドナーの造血細胞に入れ替わった骨髄となる完全キメラを作り出す。再生不良性貧血のような非悪性疾患では混合キメラで十分であるが、白血病などの腫瘍では完全キメラ化を目指し大量のリンパ球を輸注する。このようなミニ移植が有望と考えられている疾患は、従来より免疫療法が有効とされ、ドナーリンパ球による抗癌免疫効果が期待される腎癌、悪性黒色腫、さらに移植片対腫瘍(graft-versus-tumor: GVT)効果だけでなく前処置の抗癌剤も有効な低悪性度リンパ腫、それに本来骨髄破壊的前処置を必要としない再生不良性貧血などがある。しかし再発リスクの高い腫瘍に対してはミニ移植は有効ではない。このようにミニ移植の前処置は主に宿主の免疫抑制を目指したもので抗腫瘍効果を期待するものではないだけにTBIの果たす役割は小さく、Fred Hutchinson Cancer Research Center での2Gy/1回、Massachusetts General Hospital での1Gy/1回と小線量TBIをみる程度で、ミニ移植ではTBIを併用しないプロトコールが多い。

7.参考文献

1)Inoue T, Ikeda H, Yamazaki H, et al. Role of total body irradiation as based on the comparison of preparation regimens for allogeneic bone marrow transplantation for acute leukemia in first complete remission. Strahlenther Onkol 169: 250-255, 1993.
2)Blaise D, Maraninchi D, Archimbaud E, et al. Allogeneic bone marrow transplantation for acute myeloid leukemia in first remission: A randomized trial of a busulfan-Cytoxan versus Cytoxan-total body irradiation as preparative regimen: A report from the Group d'Etudes de la Greffe de Moelle Osseuse. Blood 79: 2578-2582, 1992.
3)Blume KG, Kopecky KJ, Henslee-Downey JP, et al. A prospective randomized comparison of total body irradiation-etoposide versus busulfan-cyclophosphamide as preparatory regimens for bone marrow transplantation in patients with leukemia who were not in first remission: A Southwest Oncology Group study. Blood 81: 2187-2193, 1993.
4)Hartman A, Williams S, Dillon J. Survival, disease-free survival and adverse effects of conditioning for allogeneic bone marrow transplantation with busulfan/cyclophosphamide vs total body irradiation: A meta-analysis. Bone Marrow Transplant 22: 439-443, 1998.
5)造血幹細胞移植の適応ガイドライン. 日本造血細胞移植学会. 2002.
6)Deeg H, Sullivan K, Buckner C, et al. Marrow transplantation for acute nonlymphoblastic leukemia in first remission: Toxicity and long-term follow-up of patients conditioned with single dose or fractionated total body irradiation. Bone Marrow Transplant 1: 151-157, 1986.
7)Clift R, Buckner C, Appelbaum F, et al. Allogeneic marrow transplantation in patients with acute myeloid leukemia in first remission: a randomized trial of two irradiation regimens. Blood 74: 1867-1871, 1990.
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