放射線治療計画総論

1.はじめに

放射線療法は、癌の局所に線量を集中し、かつ周囲正常組織への線量を少なくし、合併症なく癌を根治することを目的としている。もちろん根治的放射線療法だけでなく、緩和・対症療法としても放射線療法は有効である。いずれにしても上記の目的を達成するために、症例ごとに、照射野、照射法、線量分割法、併用療法などを含めた適切な放射線治療計画をたてる必要がある。放射線治療計画をたてるにあたっては、患者の年齢、一般状態(PS)、原発巣、病期、病理組織型、病巣の進展範囲、リスク臓器の位置、根治的か対症・姑息的か、過去に行われた治療内容、合併症の有無などの点を考慮する。
2.標的体積とリスク臓器
放射線治療計画の手順として、まず照射すべき部位すなわち標的体積(ターゲット)を決定する。標的体積の決定には病巣の進展範囲の把握がもっとも重要で、視診、触診はもとより、CT、MRI、消化管造影検査などの各種画像診断、さらには内視鏡所見なども参考にする。標的体積はICRUレポート501)およびレポート622)に規定されている肉眼的腫瘍体積(GTV; gross tumor volume)、臨床標的体積(CTV; clinical target volume)、ITV(internal target volume)、計画標的体積(PTV; planning target volume)に分けられる。
標的体積の関係
図1.標的体積の関係
GTVとは、画像や触診、視診で確認できる腫瘍体積を意味し、これには原発巣、リンパ節転移、あるいは遠隔転移巣が含まれる。術後照射や予防的照射の場合は、GTVがないということもありえる。CTVとは、GTVおよびその周辺の顕微鏡的な進展範囲、あるいは所属リンパ節領域を含んだ照射すべき標的体積である。ITVとは、CTVに呼吸、嚥下、心拍動、蠕動などの体内臓器の動きによる影響をインターナルマージン(IM; internal margin)として含めた標的体積を意味し、PTVはさらに毎回の照射における設定誤差(SM; set-up margin)を含めた標的体積を意味する。なおITVは、咽喉頭、肺縦隔、胸郭、肝胆膵、子宮、膀胱、前立腺などの部位で特に注意が必要である。以上の定義より、根治的な照射ではGTV ≦ CTV ≦ ITV < PTVの不等号は常に成立する(図1)。
放射線治療計画においては、標的体積の決定とともにリスク臓器(OR; organ at risk)の同定も重要である。リスク臓器にも標的体積同様にIMとSMを考慮する必要があり、リスク臓器にこれらのマージンを付加した体積をPRV (planning organ at risk volume)とする2)。なお実際の治療計画において、PTVとPRVがオーバーラップすることは起こりえる。正常臓器の耐容線量は治療計画に不可欠である。ガイドライン巻末に正常臓器の耐容線量の参考値を付表1としてつけた。
3.二次元および三次元治療計画
標的体積の決定に引き続き、リスク臓器の部位を考慮に入れて、放射線治療計画を行う。放射線治療計画は、X線シミュレータを用いる二次元治療計画法、あるいはCT画像をもとにする三次元治療計画法に分けられる。いずれの場合も、放射線治療装置と同一の患者体位で治療計画を行うことが必要である。三次元治療計画法では、標的体積およびリスク臓器の輪郭をCT画像に入力し、標的体積の形状、位置、リスク臓器との位置関係によって、治療ビームの線質、入射方向、照射野などを決定する。X線シミュレータを用いる場合は、X線透視像における骨格などをもとに標的体積およびリスク臓器の位置を想定し、照射法を決定する。CT画像を基にした放射線治療計画装置で線量分布計算を行い、その中から最適な治療計画を決定する。多門照射や原体照射など複雑な照射法を行う場合は、三次元治療計画法が必須である。
精度の高い放射線治療を行うには、患者の体位固定は大変重要である。放射線治療の再現性を高めるために脳、頭頸部への照射ではシェルなどの固定具を用いる。健康保険では認められていないが、体幹部への照射においても各種固定具が開発されている。
4.線量分布計算
体内には空気や骨など密度の大きく異なる組織が混在し、線量分布に大きな影響を与える。かつては体内をすべて水等価密度と仮定し、線量分布計算が行われていたが、たとえば胸部照射では肺の影響で線量分布が、実測値と大きく異なることが知られている。そのため最近では放射線治療計画装置を用いてCT値を基にした線量分布計算が広く行われている。線量計算アルゴリズムでは、一次線と散乱二次線とを分離するクラークソン法が有名だが、最近では非電子平衡も考慮したコンボルーション法、モンテカルロ法などさらに精度の高いアルゴリズムも実用化されている。ただし、金属などによるアーチファクトでCT値が変異している部位での線量分布は信頼できないので注意を要する。
線量評価基準点は、前後対向二門照射の場合は、照射野中心の体厚1/2の点で行われることが多かったが、三次元治療計画ではPTVの中心近くでビームの交点などのわかりやすい点を選択する1) 2)。PTV内の線量分布は可及的に均一であることが望ましいが、基準点線量の95%から107%の範囲であれば許容される1) 2)。ただし、現実的にはその範囲に収まらない場合も多く、この場合は担当放射線腫瘍医の判断と責任のもとで採用される。
複数の治療計画を線量分布の観点から比較するには線量体積ヒストグラム(DVH; dose-volume histogram)が有用である。DVHは、標的体積やリスク臓器の線量と容積の関係が容易に把握できる。
5.線量分割法
わが国や米国では 60〜70Gy/30〜38回/6〜8週という線量分割法が多くの部位で標準的な照射法と考えられているが、英国では 50〜55Gy/15〜16回/3週や、50〜55Gy/20回/4週という分割が根治照射の標準的線量分割であり、必ずしも一定した標準線量分割というものはない。線量分割法は、正常組織の急性反応、正常組織の晩期反応、および腫瘍の局所制御と密接に関係する。すなわち、それぞれの照射効果は、1回線量、分割回数、合計線量、照射期間、照射間隔、照射体積などの線量分割因子に依存する。放射線治療計画では、それぞれの目的、部位、組織型などによって適切な線量分割法を決定しなければならない。
腫瘍と正常組織の線量分割に対する反応の差を利用して、近年1日に2回あるいは3回の照射を行う多分割照射法が試みられている。多分割照射法には、1回1〜1.3Gyまでの線量を1日2回照射し、1回線量を下げることによって晩期障害の発生頻度をおさえ、合計線量を安全に増加させることを目的とする過分割照射法(hyperfractionation)と、1回1.3〜2Gyまでの線量を1日2回あるいは3回照射し、合計線量は変化させずに照射期間を短縮し、照射中の腫瘍再増殖の影響をおさえ、局所制御率の向上を目的とする加速過分割照射法(accelerated hyperfractionation)に大きく分けられる。しかしながら、実際は両者が混在する様々な線量分割の過分割照射が行われており、この2つの照射法を明確に区別するのはしばしば困難である。

6.参考文献

1)International Commission on Radiation Units and Measurements (ICRU) Report 50, Prescribing, Recording and Reporting Photon Beam Therapy, ICRU Publications, Bethesda, U.S.A. 1993.
2)International Commission on Radiation Units and Measurements (ICRU) Report 62, Prescribing, Recording and Reporting Photon Beam Therapy (Supplement to ICRU Report 50), ICRU Publications, Bethesda, U.S.A. 1999.
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