放射線治療計画ガイドラインの目的
わが国での悪性新生物の死亡数は2000年には295,484人であり、全死亡の30.7%を占め死因の第1位となっている。悪性新生物の死亡率は年々増加し続けており、国民の保健衛生上重大な問題となっている。このような現状の中で各臓器別に癌治療のガイドラインがいくつかの関連学会により作成されている。放射線治療は癌治療の大きな柱のひとつであるにもかかわらず、必ずしもこれらのガイドラインに十分な放射線治療の記載がなされているとは言いがたい。最近の放射線治療の進歩は目覚しいものがあり、明確な放射線治療計画の指針を示し、それに従って診療を進めていくことが今求められている。
現在、ガイドライン作成に当たっては、国際的に標準的な方法とされている「根拠に基づいた医療 Evidence-based Medicine」の手順に則って作成することが基本原則とされている。すなわち、根拠を明示しないでコンセンサスに基づく方法は、できる限り採用しないこととされている。しかしながら、エビデンスに基づく包括的な放射線治療ガイドラインは存在しないのが実情である。本ガイドラインは基本的にEBMの手法に準じて策定されたが、実際上はエビデンスのない診療行為も多く、これらに関しては専門医のコンセンサスによってガイドラインを作成することとした。
本ガイドラインの目的は、診療の現場で実際に放射線治療に携わる放射線科医が、現時点においてもっとも合理的と思われる放射線治療の適応やその治療計画法をできる限りエビデンスに基づき明確にし、標準的な放射線療法を確立することにある。これを通して、医療レベルの地域差の解消と医療の質の確保を目指し、国民の福祉に寄与することである。
近畿大学医学部放射線科 西村恭昌(ワーキンググループ委員長)
放射線治療計画ガイドライン作成の経緯と注意事項
この放射線治療計画ガイドラインは、日本放射線科専門医会・医会放射線診療ガイドライン策定事業の一環として、放射線腫瘍学を専門とする放射線科専門医のワーキンググループ(委員長:西村恭昌)によって、EBM(Evidence-based Medicine)の手法に準じて策定された。このワーキンググループは、平成14年度日本放射線科専門医会・医会ワーキンググループ補助金を受けた。第1回のワーキンググループ会合は、平成14年11月23日に行われ、領域別に5グループにわかれ、ガイドライン作成を開始した。 ワーキンググループでの内部評価の後、日本放射線腫瘍学会および日本医学放射線学会の全面的な協力を得て、本ガイドラインの外部評価を行った。外部評価は日本放射線腫瘍学会教育委員会(委員長:晴山雅人)に委託し、平成15年8月25日から開始した。最終的に平成16年3月10日に放射線治療計画ガイドライン・2004は完成した。本ガイドラインのインターネット公開(http://web.sapmed.ac.jp/radiol/guideline/)に関しては、永倉久泰委員が中心となって行った。今後、放射線療法の進歩に伴い、2〜3年後をめどに日本放射線腫瘍学会、日本医学放射線学会とも協力しながら順次改訂を予定している。
このガイドラインは、放射線治療担当医の日常診療を支援するように作成されており、一般向けの記載ではない。また、このガイドラインは現時点でもっとも妥当と考えられる放射線治療の参考指針であり、ガイドライン以外の治療を否定するものではない。さらに、本ガイドラインによる治療結果に対する責任は直接の治療担当者に帰属すべきものであり、日本放射線科専門医会・医会、日本放射線腫瘍学会、日本医学放射線学会は責任を持つものではない。
序 文
固形癌に対する治療の基本は手術、放射線、化学療法で、特に手術と放射線が中心的役割を担う。定位放射線治療あるいは強度変調放射線治療(IMRT)に代表されるように、近年の放射線治療の進歩は著しく、手術に匹敵する治療成績が報告されている。しかし、比較的早期の癌に対する手術の5年生存率の報告は90%を超えるものが多く、明らかに放射線の治療成績よりも良好である。にもかかわらず、その全国平均は60〜70%で、放射線治療成績と同等か、あるいは劣る。このことは、術者による治療成績の差が非常に大きいことを意味しており、事実、施設あるいは術者によるその差は40%以上に及ぶといわれている。放射線治療は、どこでだれが行っても同じ結果を生むとされ、その結果、手術と放射線の治療成績が同等ということになり、さらに放射線は機能温存ができるという点で手術より優れているということになる。
しかし、放射線はどの施設も同じように行われているのかというと、答えは否である。各施設から報告される放射線治療成績が比較的同じなのは、腫瘍を完全にカバーし、1回2Gy前後で総線量60〜70Gy照射するという基本原則が守られているからであろうと思うが、個々の症例になると、予防域は?、1回線量は?、総線量は?、化学療法との併用は?、など、施設あるいは放射線治療医によって大きく異なっているのが現状である。事実、種々の臨床試験に放射線治療が入った場合、放射線治療方法が統一されていないので困るといった苦情を聞く。放射線治療に関するエビデンスはきわめて少ない。従って、誰もが認める確立された臓器別の標準的治療方法が提示されていないのが原因である。
本書は西村恭昌先生が中心となってまとめられたものである。前述したように、だれもが認める標準的治療方法の提示は困難である。そこで放射線治療を実際に担っている多くの治療医に、この事業に参加してもらうことで、多くの治療医が認める標準的治療方法の提示を目指したものである。事実、本邦の中心的放射線治療医のほとんどすべてがこの事業に参加している。医療の質の確保、医療安全、また効率的な医療経済を考える上で、現時点での標準的放射線治療方法を、こうした形で提示する意義はきわめて大きいと考えられる。
本邦からの放射線治療に関するエビデンスの発信は少ない。対象患者さんに比較して放射線治療医の数が極めて少なく、そのためか本邦の放射線治療医は、職人的あるいは一匹狼的で、集団的あるいは組織的に大規模データを出すということに慣れていない傾向がある。本書を基本あるいは足掛かりとして、大規模データに裏打ちされた新たなエビデンスを世界に発信してほしいと願うものである。その際、コントロールの治療成績は本書に記載されている治療成績を下回るべきではないと考えられる。また、本書自身も新しいエビデンスに基づいて、どんどん書き換えられる必要がある。
本書は、現時点での標準的放射線治療方法の提示であり、多くはエビデンスというより経験を基に書かれている。また症例ごとに全身状態も異なる。従って、すべての症例に本書で記載された治療方法が適応されるべきではない。さらによい治療方法があり得るし、また全身状態に応じて減量した治療もあり得る。しかし、インフォームド・コンセントの際には本書の内容が説明されるべきと考えられる。
さて、この種の手引書で困るのは、記載が細にわたり、実際の治療計画には役に立たないものが多い。本書はその点よく考えられており、記載は簡潔で、一見して理解できる内容で、臨床の現場で直ちに使用することが可能である。さらに本書はweb上で閲覧することができ、治療現場はもとより、どのコンピュータでも閲覧可能である。また文献をクリックすれば、本文を読むことも可能というきわめて先駆的な手引書あるいは教科書である。成長する手引き書として、放射線治療を担うすべての人に育てて頂きたいと願う次第である。
2004年5月日本医学放射線学会理事 東北大学病院長 山田章吾ガイドラインの外部評価を行って
日本放射線科専門医会・医会の放射線診療ガイドライン策定事業の一つとして、本ガイドラインが製作され、日本放射線腫瘍学会教育委員会に外部評価が委託された。本ガイドラインの出筆に関係をしていない委員で外部評価委員会を構成し、テーマごとに複数の委員に評価を委託した。短い時間にもかかわらず積極的に査読をして頂いた委員の方に感謝いたします。小生は、全てのテーマを担当し、全体像や用語の統一を主眼にし査読を行いました。
顧みると1996年に放射線科専門医会によって「放射線治療マニュアル」が作製され、私もこの時に監修に携わった。当時、放射線治療についての具体的かつ実務的な書が無かったため、このマニュアルは放射線治療を行う実際の現場において高く評価され、我々の施設においても放射線科研修医にとって必修なテキストとなった。今回のガイドラインは、そのマニュアルを質・量的にも圧倒的に上回り、さらに現在検索し得る限りのエビデンスに基づいて記載されている。放射線治療における治療計画も文章と共に画像写真で分かり易く示されている。本書は日常の診療において重要視されるだけではなく、わが国における標準的放射線治療の確立に寄与するものと期待しております。2〜3年毎に新しいエビデンスに基づき改訂され、常に時代に則したガイドラインとなることを望みます。
本ガイドラインは、インターネットでも公開され、印刷物ではできないコンピュータの利点を駆使して制作されており、一見する価値が有ると思われます。関連する疾患名をクリックするとそのテーマの記載をみることができ、さらに文献番号をクリックするとアブストラクト、さらに出筆者の検索では所属する施設のホームページと連結しております。
最後に、本書がわが国におけるがん患者さんの治療成績の向上に寄与することを期待しております。
日本放射線腫瘍学会教育委員会委員長札幌医科大学医学部放射線医学講座教授 晴山雅人
ガイドライン作成ワーキンググループ
中枢神経、緩和、良性疾患:グループリーダー;芝本雄太頭頸部:グループリーダー;仲澤聖則
中川恵一 (東京大学) 芝本雄太 (名古屋市立大学) 青山英史 (北海道大学) 白土`博樹 (北海道大学) 土田恵美子 (新潟大学) 山本道法 (呉医療センター) 萬篤憲 (国立東京医療センター) 宮下次廣 (日本医科大学) 岸和史 (和歌山県立医科大学) 多湖正夫 (東京大学) 舘野温 (日本医科大学) 胸部、消化管:グループリーダー;西村恭昌
柴山千秋 (自治医科大学) 仲澤聖則 (自治医科大学) 西村哲夫 (静岡がんセンター) 不破信和 (愛知がんセンター) 木村泰男 (長崎大学) 大西洋 (山梨大学) 真里谷靖 (青森県立中央病院) 西岡健 (北海道大学) 井上武宏 (大阪大学) 吉田弘 (旭川医科大学) 婦人科、泌尿器:グループリーダー;秋元哲夫
西村恭昌 (近畿大学) 早川和重 (北里大学) 植松稔 (防衛医科大学) 根本建ニ (東北大学) 山田章吾 (東北大学) 唐沢克之 (都立駒込病院) 岸和史 (和歌山県立医科大学) 永倉久泰 (札幌医科大学) 血液、小児:グループリーダー;小口正彦
光森通英 (京都大学) 秋元哲夫 (群馬大学) 中村和正 (九州大学) 笹井啓資 (新潟大学) 溝脇尚志 (京都大学) 戸板孝文 (琉球大学) 兼安祐子 (広島大学) 宇野隆 (千葉大学)
伊丹純 (国際医療センター) 小口正彦 (癌研究会附属病院) 池田恢 (国立がんセンター) 西山謹司 (大阪成人病センター) 末山博男 (新潟県立中央病院) 小泉雅彦 (京都府立医科大学) 正木英一 (国立成育医療センター)
ガイドライン外部評価委員会
委員長: 晴山雅人 (札幌医科大学) 委員: 茶谷正史 (大阪労災病院) 松井正典 (聖マリア病院) 内山幸男 (愛知がんセンター) 副島俊典 (兵庫県立成人病センター) 大石元 (県立奈良病院) 平塚純一 (川崎医科大学) 兼平千裕 (東京慈恵会医科大学) 成田雄一郎 (千葉がんセンター) 鹿間直人 (信州大学) 淡河恵津世 (久留米大学)