小児診療コラム > こころと発達外来だより(4)
生活にひそむうつ病
うつ病は、子どもから大人まで全ての年齢の人を対象に考えると、最も頻度の高い(かかる人の多い)こころの病気といえます。今、このコラムをお読みいただいている方の中に、うつ病という言葉を初めて聞いたという人は、ほとんどいないと思います。これまでに行われた様々な研究の結果から、ある時点でうつ病と診断できる状態の人の割合は、3~5%と報告されています。また、人生のどこかでうつ病を経験する人の割合(生涯有病率)は、10~15人に1人とも言われています。今回は、そんな身近なこころの病気であるうつ病についてお話したいと思います。
以前は、子どものうつ病は、とても少ないと考えられていました。それは、子どもは何か嬉しいことや楽しいことがあるとコロッと気持が切り替わり、大人のように思い悩むことが少ないという先入観や、子どもでは、成人に比べると、うつ病の症状が気づかれにくいということに関係しているのかもしれません。しかし最近では、子どものうつ病は、これまで考えられていたよりも多いことが分かってきました。
みなさんの多くは、程度の差はあれ、どうも憂鬱(ゆううつ)で気分がすぐれない状態を経験したことがあると思います。では、嫌な事があった時に感じる「一時的な落ち込み」と、「うつ病」は、どのように違うのでしょうか?「一時的な落ち込み」では、きっかけがはっきりしていることや日によって気分の変動があることが多く、また、仲の良い友達と遊んだり、嬉しい出来事があったりすると、気分が楽になることが一般的です。一方、「うつ病」では、きっかけがはっきりしないことも多く、このあとで述べる様々な症状が、一定の強さで、朝から夜までほとんど一日中続き(とりわけ朝に症状が強い)、また、最低2週間以上、毎日のように持続します。
うつ病の診断には、気分の落ち込みや何をしても気分がすぐれないという『抑うつ気分』、あるいは、それまで楽しめていたことを楽しいと感じられない、嬉しい時に喜ぶことができないといった『興味・喜びの喪失(そうしつ)』が重要で、その他、食欲が低下する、体重が減少する、眠れなくなる、体が重たく疲れやすくなる、集中力・判断力が低下する、自分は存在価値が無いと思ってしまう、生きているのがつらくなるなどの症状が見られます。『抑うつ気分』に関しては、大人であれば気分の不調を自覚し、自ら言葉で伝えてくれることが一般的ですが、小児や思春期の方では、いらいらした気分として表現されることもあるため注意が必要です。睡眠の症状については、子どもで、寝付きが悪いだけではなく、夜中に目が覚める、早朝に目が覚めるなどの症状が見られる場合には、うつ病のサインであることもあります。また、うつ病の子どもの中には、頭痛、体のだるさ、食欲低下など、様々な身体症状で、内科など他の診療科を経てから児童思春期外来を受診する方も少なくありません。いつもの気分の落ち込みと違いひどくつらい、いつもはできることができない、それまで楽しいと感じていたこと(ゲームやテレビを見ることなど)を楽しめない、原因がはっきりしない体の症状が長く続く、というような場合には、うつ病の可能性も考えてみて下さい。
最後に、うつ病の治療についてですが、まずは、ゆっくり休養をとることが重要です。無理に頑張ろうとせず、こころと体をしっかり休めましょう。周囲の方は、励ますのではなく、ゆっくり休めるように、そっと見守ってあげることが必要です。病院では、症状に応じて、気分の不調を軽減するためのお薬を処方したり、つらい気持ちを楽にするためのカウンセリングを行ったりします。このコラムをお読みいただき、うつ病は、決してまれな病気ではなく、みなさんの身近にもひそんでいるということを覚えておいていただければ幸いです。
小児科 精神科医 館農(たての) 勝
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