小児診療コラム

小児診療コラム

こころと身体のつながりについて

みなさん、はじめまして。 この分野に関心をもっていらっしゃる方に、専門の立場から何か役に立つ話を提供したいという気持ちで、コラムを連載することにしました。“児童思春期こころと発達外来”の診療内容については、札幌医科大学附属病院小児科HP(http://web.sapmed.ac.jp/ped/groups/childPsychiatry.html)を参照していただけるとうれしいです。

今回は、「こころと身体のつながりについて」というテーマです。

学校に行く前にお腹が痛くなってトイレに駆けこんでしまうA君のお話をしましょう。(注:特定の患者さんの話ではありません。)A君はみんなと同じように学校に行きたいと思っているのですが、腹痛のために遅刻することが度々ありました。給食もなかなか食べられません。病院でもらった胃腸炎の薬をのんでもスッキリせず、お母さんもA君も身体がどこかおかしいんじゃないかと心配しました。でも休みの日には元気に友達と遊ぶので、周りの大人の中には「気の持ちようだ」「怠けている」と言う人もいました。A君は緊張しやすい性格で、授業中にお腹が痛くなっても「保健室に行かせてください」と言うことが苦手でした。本人は本当に痛みを抱えているのですが、「たいしたことない。我慢しなさい」「がんばりなさい」と周りに強く言われると、「自分はダメな子なんだ」と自信がなくなりました。だんだん学校を休むことが増え、休みの日も家で過ごすことが多くなりました。お母さんは心配して、A君を専門の病院に連れて行きました。

どんな人でも、緊張したときに心臓がドキドキし、手に汗をかき、お腹が痛くなったり尿が近くなったりという経験をしたことがあると思います。これは、交感神経という興奮したり緊張したときに強く働く神経の影響によるものです。 人間には運動神経と感覚神経、そして自律神経という3種類の神経があり、自律神経は意志と関係なく内臓の働きを制御しています。さらに自律神経には交感神経と副交感神経の2種類あり、交感神経が興奮したときに働く一方で、副交感神経はリラックスしているときに働きます。この2つの神経は感情や情動に敏感に反応するので、自分の本当の気持ちに気付く前に身体の症状が出ることがしばしばあります。

例えば、暗くて深い森の中で一夜を過ごさなければいけなくなったとします。熊の足跡もあるし、オオカミの遠吠えも聞こえます。テントの中で過ごすとなれば、とても不安で恐ろしく、動悸や頭痛、吐き気が生じ、食べたり眠ったりすることができないでしょう。交感神経が強く働いている状態だからです。でもコンクリートでできた頑丈な建物の中なら、テントに比べれば安心です。子どもだったら自分を守ってくれる親がいると安心ですし、朝になれば助けが来てくれると解れば頑張ることもできます。そして少しは眠ったり食べたりすることができるかもしれません。つまり安心感が保証され、不安や恐怖が軽減することで交感神経の緊張が弱まり、身体の症状が楽になるのです。

A君の場合、学校での緊張感や「自分の身体はおかしいのではないか」という不安感のために腹痛が生じ、「みんなと同じように学校に行きたい」という気持ちと裏腹に、学校を休むようになりました。そして強くなって欲しいという気持ちから生じた周囲の叱咤激励はプレッシャーとなり、かえって自信を喪失させる結果となりました。

では、このまま学校を休ませていいのか?というと、そういう訳ではありません。本人は楽しく学校生活を送りたいと思っているのですから。こういった場合、① 周囲の大人が本人の痛み、不安、緊張感を理解し、安心して登校できるように本人に合ったサポート体制を作ること ② 親子共々こころと体のつながりを理解して、身体の症状に捕われ過ぎないこと ③ 自信につながるような言葉がけをすること、が大切です。そうするうちにA君も成長し、だんだん自分の気持ちを言葉で外に伝え、少々の腹痛は「大丈夫」と自分に言い聞かせることができるようになるのです。もちろん外来を受診する患者様の症状や背景は様々で、治療や対応もケース・バイ・ケースですが、A君を参考にこころと身体のつながりを理解していただければと思いました。

                         文責 小児科医師 須見よし乃

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