■ 月刊並木 2009年

 


■2009年3月号

 私は21年8カ月の長きにわたり教授として当麻酔学講座を主宰してきた。この間多くの歴史書を読み、いろいろなリーダーを見聞し、自らのリーダーの実践を通してリーダーの心得を学んだ。
組織はリーダーの考え方、姿勢、行動によって盛衰が決まる。組織の充実、発展には優秀なリーダーと人材、リーダーの気概、見識、実行力、人材に対する教育、信頼、尊敬し合える人間関係の4因子が必要である。リーダーが部下から信頼を失うに3原因には本職がおろそかになり現場にいない、現場で重大事態が生じた時、迅速かつ適切に対応できない、自分の考え経験を押し付けることである。私はリーダーとして理想とするのが徳川家康、参考にするのが漢の高祖の劉那、そして尊敬するのが西郷隆盛である。徳川家康は大将の戒めという教訓を残した。その中で大将というものは家来に惚れさせねばならぬものよ、と含蓄のある言葉で結んであった。家康は相手の特徴を見抜いて、その長所を引き出し、人を活用した。自分が評価され、活かされるリーダーの下には優秀な人材が集まる。紀元前200年時代の中国で劉那が天下を獲れたのは人の話を聴き、信用する大胆さ、包容力、寛大さという人間的な魅力をもち、3人の優秀なブレーンを活かして使う才能があったからである。西郷隆盛はリーダーは自分のことより、国、組織のことを優先させて考え、よく働かなければならない。敬天愛人の精神を養う。人の行うべき正しい道を慎み守るのが敬天であり、思いやりをもって民衆を愛するのが愛人である。人はすべて己に克つことによって成功し、己を愛することによって失敗すると忠告した。これから当講座がこのリーダーの心得をよく理解する新リーダーのもと、教室員が一致団結して教室の充実、発展のために邁進することを切望する。今月号で私から教室員へのメッセージは終了する。このメッセージが少しでも皆さんの役に立っておれば幸いである。


■2009年2月号

 平成21年の教室の新年会は私の最後の会であり感慨深いものがある。今年のニューイヤー駅伝で優勝した富士通の選手達は我慢をモットーにして練習、試合に臨みそれが達成できたことを喜んだ。箱根駅伝で優勝した東洋大学の選手達は去年の不祥事で出場が危ぶまれたが出場できたことに心から感謝し心を1つにして頑張った結果があると喜んだ。一方優勝第1候補の駒大は13位と惨敗した。監督は周囲からチヤホヤされチームの力を正しく、客観的に評価せずに過信と油断したことを反省した。この会見をみて、当教室も最近5年間のASA発表、英文雑誌に引用される文献件数とも日本の麻酔科で1番であるが年度毎に減少しているのが気になる。復活に必死になってもらいたい。新年の新聞記事で最も印象に残ったのは天皇陛下の言葉である。現在の経済情勢の悪化で国民が苦しんでいることに対して「国民の英知を結集し、人々の絆を大切にして、お互いに助け合うことによって、この困難を乗り越えることを願っています。」というすばらしいお話であった。英知とは人間のもつかしこい知恵、を働かせること、絆とは人間同士信頼し合って結びつくこと、お互いに助け合うとは相手を思いやる互助の精神をもって事に当たることである。それにより難局を越え国民に平和と幸福をもたらすことを期待するという意味である。私は教授に就任して以来最も重要視したのが信頼、尊敬し合える人間関係を作ることである。組織は人なりである。戦国武将の武田信玄は家訓として「人は石垣、人は城、情は味方、仇は敵」と言った。その意味は国を守るには強固な城を築くより、そこにいる人がしっかり団結して礎を築き、お互いに思いやることを味方、不平不満の生ずることを敵と思えと言った。歴史では時代がその組織に必要な人を呼び、働かせ、世の中に役立たせ、用が済むと去らせる。後継者に必要な条件は人の本質を知り、人を大切にすることである。


■2009年1月号

 平成20年度の教室・同門会の忘年会は私にとって21回目で最後の記念すべき会である。2月には北海道科学技術賞を受賞する栄誉に輝いた。これはがん疼痛、鎮痛機序およびがん患者への対応そして管理体制の確立に関する研究を22年の長きにわたり地道に、まじめに取組みそして多くの人達の支援、協力をえて達成できたものが認められた。格言に物事に成功するには運、根、鈍が必要である。すなわち運に強く、恵まれ、根気よく、ばか正直な位一途に仕事をすることが成功の秘訣である。6月に韓国での国際ペインクリニック学会、8月に英国での世界疼痛学会に出席したが相変わらず日本人は積極的に発言、討論をする人が少なく存在感の薄さを痛感した。北京五輪の日本選手団および日本外交の態度をみても同様であり日本人特有の性質かと嘆かわしく思った。これから国際化が進む中でこのような態度ではいけない。自分のデータ、実績を堂々と外国で発表し、外国人とわたり合える麻酔科医の育成が急務である。秋には恒例の関連病院の視察を行った。そこで気になったことは仕事を下の者に任せてあると平気で言う。任せる方の責任の重さをしっかりと自覚することである。印象に残ったことはある病院で整形外科医長から、当教室員の麻酔手技が上手だけでなく本当に仕事がしやすい雰囲気を作ってくれると褒められた。患者にしっかりした麻酔を行なうだけでなく術者さらに一緒に働く看護師達にも信頼、安心感を与える麻酔をかける。このことを当教室の方針として継続してほしい。その他に継続すべきは教育を重要視することである。教育の本質は人を教え育てるということだけでなく、教えながら自分も学ぶ、一緒に成長するということである。教育は上からの命令や権威だけではうまく行くわけがなく、お互いの信頼、尊敬し合う気持がなければならない。臨床にも教育、研究にも教育、教育にも教育の本質が必要である。