並木 昭義
 医学教育のあり方は時代の流れとともに当然変化していく.臨床実習は医学生にとって臨床の現場を知り,医師としての心掛けを学び,臨床各科の仕事の内容を知り,そして自分の将来進む道を決める情報を得る貴重な時間である.一方この臨床実習の内容の充実度,また取り組み方が医学生から評価を受ける.私どもの麻酔科ではこの臨床実習に大いに力を注いでいる.当科では臨床実習のオリエンテーションの時に,以下のような話をする.

1. 臨床実習の意義を理解すること.

  1. 医学生としての自覚:学生に臨床実習を経験しての印象を聞くと,はじめて患者に接したことの戸惑いと講義では味わえないことを学べてよかったと言う.学生にとって医学,医療の実際的なことを何も知らず,出来ないのは当然であり,そのことをまず自覚することが大切であり,だからこそ一生懸命勉強する姿勢が必要になる.
  2. 医師の仕事:医師は人を扱う,それも病気で苦しみ,悩んでいる病人を扱う仕事をする.病人は医師に速く苦痛を取り除く,正確な診療をつける,適切な治療をすること,そして退院し元の生活に戻ることを強く希望する.
  3. 医師の心掛け:患者は自分の病気のことが不安,心配であり,わらでも掴みたい心境にある.そのためどんな若い医師や看護婦にも頭を低くして接する.そのことを勘違いして自分が偉くなった気持ちになったり,高慢な態度をとらないことである.医師としていくら知識と技術をもっていても,患者から本当のことを話してもらわなければ正しい診断と治療が出来ない.従って医師である前に人間として患者に信頼されることが基本となる.
  4. 患者に接する態度:患者は緊張した状態にあり,時には命を懸けた気持ちで診療を受ける.従って医師,看護婦は真剣な,誠実な態度で接する義務がある.患者個々に満足してもらえる対応が出来るようになるには,かなりの年季が必要である.それで若い医師だけでなく医学生の場合には,自分が,あるいは自分の身内のものが診療を受ける際に嫌なこと,困ることをしないように心掛ける.患者が医療者に対して嫌なこと,困ることは相手が誰なのか分からない,容姿,服装が不潔,あるいは派手である,不安,緊張,恐怖感をもたらす言動を取る,そして診療や手術時に裸にされ恥ずかしい思いをさせられることなどである.従ってこのようなことが起きないように,きちんと挨拶ができる,身体や服装を清潔にすることである.茶髪やマニキュア,香水など健康人の間では好まれても,病人には決して喜ばれず,受け入れられない.患者に恐怖感や羞恥心をもたせない気配り,思いやりが大切である.
  5. 臨床実習を受ける態度:当科の臨床実習では,指導教官のもと可能な限り実践的なことをさせる.従って患者に対して失礼にならないように予習をしてくる.予習することで臨床実習に前向きになれ,指導教官の話す内容が理解でき,また実技の機会が与えられ,そして刻々と変化する病態を教えてもらえる.大切なのは,予習してきたところをもう一度読み返して,文中の一文,一語句でもよいから理解することである.そのようにして得た知識は,印象深く残り忘れない.その行為を何回も繰り返すことで知識,技術が自分の身に付く.頭で学ぶのではなく,体で憶えることが大切である.臨床実習は単に数値や所見などの知識を学ぶのではなく,医学,医療を行っていく上での考え方,態度を学ぶことに意義がある.

2. 医学,医療面を評価する姿勢をもつこと.

 
学生は講義や臨床実習を教官から教えられ,そして評価されるアマチュアの世界にいる.医師は医学医療を本業とするプロの世界にいる.プロの世界では自分で積極的に学んでいく姿勢と周囲の状況を厳しく評価し,その中で自分にとってプラスになることを取り入れ,マイナスになることを避けて,自分の型を作り上げていく.学生にもこの状況を評価する目を持つ,あるいは養う必要がある.そして臨床実習を通して,医師と患者との関係,医師とコ・メディカル,特に看護婦との関係,そして各科の臨床実習における教育体制と教官の態度の3つの面を真剣に評価する.
 
  1. 医師と患者の関係:臨床実習では臨床各科を回るので,多くの医師と患者の関係を見る機会がある.どの医師の診療の仕方,態度が患者に喜ばれ,満足感を与え,信頼されているかを評価する.この場合患者は医師と面と向かっている時には本心を見せないが,患者が外来の診察室を出る時や病室回診で医師が他の患者の診療に移動する時に,真の表情,態度を表すものである.患者を素人扱いし,十分に説明や同意を得ずに一方的に診療する,また自分が診てやる,治してやるという高慢な態度の医師は,時代遅れなので決して見習わないようにする.
  2. 医師と看護婦の関係:医師だけで,それも権力的な態度で医療を行う時代は終わった.医師は他科の専門医,看護婦などコ・メディカル,さらにソーシャルワーカーなども加わるチーム医療の中でリーダー的存在となって診療を行う.このチーム医療に必要なことは,メンバー各自が実力を付けること,協調性をもつこと,そして各メンバーの仕事や役割を尊重することである.医療は患者を治療する側と看護する側のバランスの上に成り立っている.従って片方の力が強かったり,弱かったり,あるいは調整し合う姿勢がないとバランスが壊れ,医療が不安定になり,患者も不安感を抱く.患者が医療に対して不安感,不信感をもつのは,医師同志,医師と看護婦の意見が一致していないこと,不仲であることである.また患者は医師にすべて話すわけではなく,本心を看護婦に漏らすことが多い.医師にとって,患者の正確な情報を看護婦から得ることが,適切な診療を行っていくうえに重要である.従って各診療科において医師の看護婦に対する考え方や姿勢を評価する.これまでのように看護婦を医師の補助,下働き的に考えている科は時代遅れであり,やがて衰退する.どのような医師の態度が看護婦から好かれ,信頼され,喜んで協力を受けているかをよく観察する.医師に成り立ての時は,いろいろな処置などを看護婦の協力なく行えないし,看護婦から細かな処置を教えられる.
  3. 臨床実習に対する教育体制と教官の態度:学生自身が将来進むべき科を決める要因として,まず自分が何をしたいのか,その科は活発に活動しているか,そこで活躍できるか,どのような教育体制になっているか,どこで働ける,生活することができるか,などが挙げられる.特に医師になって2〜3年間に受ける初期研修は,その人の医師としての一生を決めるほど重要である.臨床実習における教育体制と教官の態度は,そこの初期研修のあり方を一番よく反映するので,しっかり評価する.臨床各科を回る臨床実習はこの時期しかないので,最後までまじめに出席する.それは疾患や患者を1つの科だけで対応できなく,各科の協力が必要である.この臨床実習をしっかり行っておくと,自分が患者を持って困った時,各科で見聞したことを思い出し,適切にコンサルテーションを行える.そのことにより患者,看護婦,そして医師仲間からも高い評価を得る.

 終わりに,医療は24時間,365日の仕事であり休みがないこと,患者の診療を中心に回っているので,時間など決められた約束を守ること,そしてこの医学,医療の仕事に携わっていくためにはどうにも卒業試験,医師国家試験に合格することが必須であり,そのためにお互い協力する必要性を話すことにしている.