第8号  平成17年1月5日


 【学長年頭挨拶】
 
 明けましておめでとうございます。皆さまにはご家族揃ってお元気に新年をお迎えに
なられたと思います。 
 今年も札幌医科大学の発展のためにどうぞよろしくお願いいたします。
 
 昨年後半は新潟県中越地震やスマトラ沖大地震・津波など大きな自然災害にみまわれ
ました。特に暮れの大津波災害については、10数万人以上の犠牲者が報じられており、
道内の方を含む数百名の日本人の安否も不明とされております。本学からも救急部の
教授が国際緊急援助隊の一員として派遣されており、本学としてもできることはただちに
行う体制となっております。
 
 新しい年のはじまりにあたりまして、昨年の本学の出来事を振り返り、今年の課題に
ついて申し上げたいと思います。
 
 北海道は現実的となった赤字再建団体への転落を回避し、財政構造を改革するため
「財政立て直しプラン」を昨年8月に策定いたしました。特に平成17〜19年度の3年間に
ついて「集中対策期間」と位置づけ、1700億円の歳出削減を目標といたしました。この
ような道の財政状況の中、本学として、特に大学附属病院の経営改善に、病院長、
事務局はじめ皆様が大変大きな努力をしていただきました。心より敬意を表します。
おかげ様で経営は次第に改善されつつあり、平成10年の繰入額70億円が現在では、
ほぼ半減となっております。
 
 さて、昨年は本学に法人化問題ワーキンググループならびに部会を設置し、道庁内に
設置された「札幌医科大学のあり方検討チーム」と連携しつつ、独立行政法人化について
検討を行ってまいりました。8月に高橋はるみ知事がはじめて来学されましたが、その際
にも札幌医大のこれまでの地域貢献や研究、教育、診療レベルの高さをアピールさせて
いただきました。
 
 その後の経過の中で道は昨年11月に、「札幌医科大学のあり方について」という報告を
まとめ、大学運営のあり方として法人化を目指すものと決定いたしました。また第4回定例
道議会において知事が「平成19年4月に独法化に移行する」ことを答弁され、17年は
1月より副知事を本部長とする「札幌医科大学改革推進本部」が設置されることになって
おります。
 
 皆様ご存知のように国立大は16年4月から全て独法化され、本学以外の7つの公立
医科系大学のうち、5大学は法人化を決定いたしております。

 札幌医大は、本道における医療人の育成、地域医療への貢献ならびにそれらを支える
先端的研究の推進等の重要な役割を担っていく必要があり、中長期的な計画の下で、
自律性を発揮しながら、より一層の地域貢献を行なう必要があります。  
 
 そのような観点から、本学においては12月に「札幌医科大学法人化検討委員会」を
発足させました。今後は専門部会も設置して、皆様にも直接・間接に参加していただく
予定であります。また、先日実施しましたような「全学懇談会」を時々開催し、「学長室
だより」等の広報もこれまでより、さらに頻回に出させていただくとともに、皆様のご意見を
活用させていただく予定であります。本学をさらに活き活きとした大学にするため、すべて
の教職員の皆様のご協力を心よりお願い申し上げます。
 
 以下、教育・研究、附属病院、国際交流等についてこれまでをふり返り、今後の課題に
ついて触れたいと存じます。
 
 まず教育・研究についてであります。
 
 本学では、文部科学省の16年度新規補助事業であります現代的教育ニーズ取組支援
プログラム(現代GP)に応募し、採択されました。これは社会的要請の強い政策課題に
対応した特に優れた教育プログラムに対し財政支援を行うものであり、本学は「地域
密着型チーム医療実習」という名称で応募いたしました。これは医学部・保健医療学部の
学生による合同チームでの地域における早期体験実習であり、説明会に95名の学生が
参加し、定員を越える多数の学生が応募してまいりました。 
 
 このプログラムのユニークな点のひとつは、将来医療を担う学生が、「互いに地域の中
で協力することがよりよい医療のためにいかに重要か」を学ぶことであります。私はこの
ような学生時代からの経験が、地域医療に進んで貢献する人材を育成する最も良い方法
のひとつであろうと考えております。建学55年の地域医療の伝統に新しい輝きを加える
ことになる可能性を秘めたプログラムであることをご認識いただければと存じます。この
全国でもはじめての試みを成功させるには多くの教職員の方々のご理解、ご協力が重要
です。両学部の協力のもと、この新しい芽を伸ばしていただきたいと願っております。

 また、本学を社会に理解していただき、より良い「やる気満々の」学生に入学してもらう
ために、本学は高校訪問、出張講義にくわえて、今年度より学部説明会を両学部とも
各地で実施して参りました。オープンキャンパスには500名の参加をいただき盛況のうち
に終了できましたが、今後ともこのような広報活動はより積極的にすすめていかなくては
なりません。実際16年4月より、広報委員会および大学広報室を立ち上げ、ホーム
ページの更新や広報すべき内容のすみやかな把握に努めております。入試に加えて、
益々重要になる広報活動を進めるためには教員はもとより事務局の体制整備も必要で
あり、本年はこれらのことも道に要求して参りたいと存じます。
 
 さらに、大学院医学研究科においては、新しくMD-PhDプログラムを創設いたし、本年
4月より開始されます。医学部長である研究科長と副研究科長が中心となり実現の運び
となりましたが、これにより医学部学生は学部で学びながら大学院生として基礎医学の
研究にも実際に取り組めることになります。
 
 研究に関しては、文部科学省からの科研費145件が採択され、金額にして、約4億
7000万円の外部資金をいただくことができました。一昨年の教員一人当たりの研究費
獲得額が全国717大学中13位であることを考えますと、全国的にもかなり上位ということ
になります。実際、極めてレベルの高い国際誌にも論文が受理される若年研究者も少し
ずつ増えてきており、さらにレベルの高い研究を目指してほしいものと思っております。
これに関連して国の産学官連携政策を活用した受託研究および共同研究も、この8ヶ月
で新しく7課題採択されており、他にも厚生労働省や他省庁からの研究費をいただいて
いる研究者が増えてきております。
 
 一方、研究に限らないことですが、また教員のかたにも限らないことですが、新しい
アイディアは公表する前に知的財産として管理・活用をお願いいたします。本学では
平成14年から準備室が設置されておりましたが、16年4月より知的財産管理室として
整備され、この問題の委員長、室長ならびに客員教授を中心に、知的財産に関する皆様
からの様々な相談に応じております。
 
 また、このような大学の取組が道の平成17年度特定重点施策事業に採択されており
ます。独法化を間近にして今後益々重要となる知的財産の管理・活用は、本学の社会
貢献の大きな部分でありますので、皆様のご協力をよろしくお願いいたします。
 
 さらに、関連して、保健医療学部では、地域や自治体との共同研究を視野に置いた
新しい試みとして、12月に「第1回赤レンガフォーラム」を開催し、好評を博しました。今後
も継続的に開催されるようお願い致します。

 次に附属病院について述べます。
 
 まず、名義貸し等に係る改善策のひとつとして、新たな医師派遣システムが昨年4月
より運用を開始いたしました。これは医師派遣に関する受付窓口を医師および歯科
医師派遣調整部会に一元化し、透明性を確保しようとするものでした。これにより全ての
要請件数が約2100件あり、継続は1500件、新規は600件であることが判明しました。
そのうち皆様のご協力により、継続の99%、新規の64%に派遣を実施することができ
ました。
 
 さらに本学から、16年度に約450名の医師が常勤医として地域医療に貢献している
ことがはじめて明らかにされました。この実績は本学の55年の歴史の上に築かれたもの
であり、今後は独法化を視野に入れ、さらに有効な方法も取り入れながら地域医療に
貢献することが必要となります。
 
 大学附属病院の機能のひとつは高度な、あるいは時代のニーズに則した医療の展開で
あります。その基盤ともいうべき病院機能評価を、日本医療機能評価機構により審査
され、9月に最終的に認定されました。これらは前院長、現院長はじめ、病院のスタッフの
皆様の努力の結晶であり、心より敬意を表したいと存じます。
 
 また、女性、男性という性差重視の医療に対する社会的ニーズの高まりに答えるため、
女性患者を対象に女性外来が開設されており、現在では第一外科、産婦人科、神経
精神科、皮膚科、第二内科ならびに乳腺撮影等の検査部門において実施され好評であり
ます。
 
 さらに、16年4月から神経精神科外来で、性同一性障害(GID)クリニック専用診察室の
運用を開始し、病院職員を対象にGIDに関する基本的な概念や患者への対応の仕方など
について研修会を実施しております。
 
 また、病院に「セカンドオピニオン外来」を11月より開設いたしました。
 現在受診されている医療機関での診断や治療方針などについて「相談」をうけ、参考と
なる情報や意見を提供することにより、患者自身が今後の診療方針の選択を行なう事を
支援するためであります。
 
 臨床研修制度が義務化され、一年次に札医大病院から研修を開始するAプログラムと、
協力型研修病院から研修を開始するBプログラムが実施されており、計70名の研修医が
このプログラムに基づいて研修中であります。今後重要になりますのは、2年間が終了
したときに、なるべく多くの医師に札幌医大を選んでいただきたいという点であります。
そのためには、後期プログラムの充実が不可欠であり、現在副院長、学長補佐を中心と
した方々にご努力をお願いいたしております。
 
 次に、国際交流について触れます。本年度も相変わらず活発に行なわれており、
アルバータ大学、カルガリー大学、マサチューセッツ州立大学、ヘルシンキ大学等から
5名の方が、本学からも数名が交流いたします。ほかにも多くの国から数十名の方が
札幌医大で研究等に従事されております。さらに医学部の第5学年学生の5週間に
わたる臨床研修コースがカルガリー大学において実施されております。
 
 特筆すべきは平成16年度に新設された文部科学省海外先進教育研究実践支援
プログラムに本学教員から5件の応募があり5件全てが採択されたことであります。大学
としての大きな教育研究方針に沿った海外研究であることが重要であります。17年度に
つきましても学内からの応募を取りまとめ国に申請したいと考えますので早めのご準備を
お願いいたします。
 
 最後になりますが、戦後60年の日本の節目の時期は、創基60年、建学55年の本学
の節目とも重なります。本年は、独立行政法人への移行を目前にして、大学の針路を
決定する最も重要な年と思われます。全学で大きく討論して、道民のための札幌医科
大学をより良い大学に育てる努力をともにお願いしたいと思います。
 
 本年の皆様のご多幸を心よりお祈りいたします。ありがとうございました。

 (1月4日(火)講堂における学長年頭挨拶をまとめたものです。)