札医大の研究室から(25) 北田文華助教に聞く(十勝毎日新聞・札幌医科大学 包括連携協定事業)

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 日本の女性が罹患(りかん)するがんの中で、最も多いのが乳がん。がん細胞の切除のため乳房を失い、精神的に大きなダメージを受けてしまうこともある。近年は、乳房の膨らみを取り戻す「乳房再建」を望む人も増えているという。乳房再建に取り組む札幌医科大学形成外科学講座の北田文華助教に、手術の内容について聞いた。(聞き手・安藤有紀)

北田文華(きただ・あやか)

 1986年札幌市生まれ。2011年札幌医科大学卒業。専門分野は形成外科全般、乳房再建。日本形成外科学会専門医、
日本オンコプラスティックサージャリー学会 乳房再建用エキスパンダー・インプラント責任医師。18年4月から助教。

札医大の研究室から(25) 北田文華助教に聞く 2018/10/19

安藤:乳がんの手術は外科で行われるが、形成外科との関わりは。
北田:乳房の膨らみを失うことは女性にとって喪失感が大きく、大変つらいこと。乳がんを切除して治療するのは外科・乳腺外科の仕事だが、乳がんを切除した後に乳房の膨らみを作る「乳房再建」を形成外科で行っている。
 外科の手術は、大きく分けると乳腺の一部のみ取る「乳房温存術」と、乳房を全て取る「乳房全摘術」の2通りがあり、患者のがんのタイプや希望を踏まえて決める。全摘術と乳房再建を組み合わせた治療を希望するケースが以前に比べ増加している。

安藤:乳房再建はどのように行うのか。
北田:人工物(インプラント)を使った再建と、自分の体の一部(自家組織)を使った再建がある。それぞれ良い点があるので、何を優先するのか、どんな形の乳房をつくりたいのか、医師と相談して選択してほしい。
 人工物での再建は、最初にエキスパンダーという風船のようなものを入れて形を整え皮膚を伸ばした後、インプラントを入れる2段階の手術になることが多い。体のほかの場所に傷をつけない、社会復帰が自家組織に比べると早いのがメリット。ただ、インプラントは形がある程度決まっているため、反対側の乳房の形に合わせることが難しい場合がある。
 自家組織の場合は、自分のお腹や背中の皮膚、脂肪、筋体などの組織を使うことが多い。組織に血流を含めた状態で乳房に移動して形を作り、採取部は縫合する。術式によっても異なるが、移植した組織の血管と移動した部分の近くの血管とを顕微鏡を使ってつなぐこともあり、人工物再建と比べ手術時間が長い。乳房の形の自由度が高く、下垂の表現もできるメリットがある。

安藤:乳房再建の相談はいつするのがいいか。
北田:外科手術前に相談してもらった場合、乳がんの切除と同時に乳房を作る「一次再建」、乳がん切除手術後に期間をあけてから手術をする「二次再建」を選択できる。乳がん手術後に受診し、それから乳房再建することも十分可能。いつ相談に来てもらっても乳房再建の対応はできる。

安藤:入院期間はどのくらいか。
北田:1~2週間程度となる。自家組織のほうが人工物よりやや長い。乳輪や乳頭を作りたい場合は、先に乳房の手術を行い、半年などある程度の期間をあけて形成手術を行う。乳房再建は、人工物・自家組織どちらも保険の範囲内で治療が可能。高額医療の適用にもなる。ただ、反対側の乳房の豊胸や縮小などは保険の対象外になるので、担当医師とよく相談して決めてほしい。

安藤:術後、注意すべきことは。
北田:手術方法により異なるが、自家組織の手術では筋肉を含めて移植する場合もあるため、術後しばらく動作の制限を生じることがある。お腹の組織を使用した場合、ヘルニア予防の意味で術後に腹帯やガードルの着用を行うことが多い。人工物の場合は比較的制限が少ないが、やはり手術直後は激しい運動を控える必要がある。

安藤:十勝の住民へ一言。
北田:乳房再建に対応している病院が限られていることもあり、これまでなかなか受診できなかった人もいると思うが、乳房再建手術は時期によらずいつでも可能。話を聞くだけでもよいので、気になる人はぜひ相談してもらいたい。

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  • 経営企画課企画広報係