札医大の研究室から(23) 山下教授に聞く(十勝毎日新聞・札幌医科大学 包括連携協定事業)

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 中高年世代を中心に、多くの人を悩ませている腰痛。中には、自分で予防や改善が可能なものがあるという。腰痛など運動器疼痛(とうつう)のメカニズム解明や治療法の確立に取り組む整形外科学講座の山下敏彦教授に、自分で治せる腰痛の見極め方や症状を改善する方法を聞いた。(聞き手・安藤有紀)


山下敏彦(やました・としひこ)

 1958年砂川市出身。83年札幌医科大学医学部卒業。87年同大大学院卒業、医学博士号取得。米国ウェイン州立大学博士研究員、市立室蘭総合病院整形外科科長などを経て、2002年札幌医科大学整形外科教授。10年同大附属病院副院長、14年から18年3月まで同病院長。

札医大の研究室から(23) 山下敏彦教授に聞く 2018/08/17

安藤:現在、腰痛の人はどのくらいいるのか。
山下:40歳以上で腰痛がある人は、全国で約2800万人と言われている。若い人など全ての世代を入れるともっと多い。40~60代の約4割が腰痛で悩んでいるというデータもあり、まさに国民病だ。
 米国の論文によると、腰痛患者の約8割はレントゲンなどで明確な異常が認められない「非特異的腰痛」と呼ばれている。しかし、最近のわが国の調査では、整形外科の専門医が診断すれば、レントゲンで異常がなくても、約8割は筋肉や関節など痛みの原因が判明し、原因不明のものは2割程度とされている。

安藤:注意が必要な腰痛とはどのようなものか。
山下:がんの転移などの腫瘍、細菌感染による炎症などは、生命に直結する疾患で危険。また、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄(きょうさく)症など神経の圧迫を伴う腰痛は、生命を脅かすものではないが手術が必要な場合がある。これらを見極めるサインは、安静にしていても強い痛みが続く、発熱、急激な体重減少、足の痛み・しびれなど。そのような症状がある場合は、すぐに病院で検査を受けてもらいたい。

安藤:一方で、自分で治せる腰痛とはどんなものか。
山下:先に述べたような症状がなく、安静にしていれば改善するものは、基本的に心配がなく自分で治せる。腰の周辺の筋肉や椎間関節、仙腸関節など関節から痛みが来ている場合が多く、そのような腰痛は運動療法で改善する可能性がある。痛みが強い時期は安静が必要だが、痛みが和らいだら、むしろ早めに体を動かすほうが良い。

安藤:どのような運動をすると良いか。
山下:かつては腹筋や背筋を鍛える運動が薦められていたが、最近はそれらに偏らず、背骨から股関節にかけて広範囲の筋肉をストレッチするのが有効とされている。特に太もも裏のハムストリングスや脚の付け根の前面にある腸腰筋を十分に伸ばすと、背骨や股関節の動きがスムーズになって自然と姿勢も良くなり、腰痛の改善につながる。

安藤:ほかに気を付けることは。
山下:日常生活の動作に注意してもらいたい。中腰姿勢にならない、長時間同じ姿勢を続けないことが大事。低い場所にあるものを取る際、膝を伸ばして持ち上げようとすると背骨に大きな力がかかり、ぎっくり腰や急性腰痛を起こす要因となってしまう。腰痛が長引く要因として、不安やストレスなど心理的要因が関与している場合もある。気持ちがネガティブだと、痛みや痛くてできないことばかりを考えてしまい、症状も改善しない。痛みがあってもできることに目を向け、前向きな考え方に転換することも大事だ。

安藤:十勝の住民に向けて。
山下:十勝の方々は酪農や農業などに従事している方が多く、体に負担のかかる姿勢をとる機会もあるのではないか。重いものを持つ際には、なるべく体の重心から近い位置で持つと良い。前傾姿勢や中腰姿勢をするときは、なるべく時間を区切って行い、合間にストレッチをするようにしてほしい。日常生活の中でも、同じ姿勢を長く続けない、気分転換を取り入れることを意識してもらいたい。

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  • 経営企画課 企画広報係