札医大の研究室から(12) 三國信啓教授に聞く(十勝毎日新聞・札幌医科大学 包括連携協定事業)

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 今まで全身麻酔で行われていた脳外科手術だが、手術により、手足のまひや、言葉がうまく話せなくなるなど、重大な合併症が生じるおそれがあった。近年は、病変を十分に取り除きながら、それら手術による合併症を安全に取り除く「覚醒下手術」が行われている。手術の概要やメリットなどについて、2003年以来、国内屈指の手術実績をもつ札幌医科大学脳神経外科学講座の三國信啓教授に聞いた。(聞き手・浅利圭一郎)


三國信啓(みくに・のぶひろ)

 1963年兵庫県生まれ。89年京都大学医学部卒業。96年米国クリーブランドクリニックリサーチフェロー。97年京都大学医学部大学院修了。2006年同大学医学部脳神経外科学教室講師、08年同准教授を経て、10年から現職。

 

札医大の研究室から(12) 三國信啓教授に聞く 2017/9/8


浅利 「覚醒下手術」とはどんなものか。

三國 かつての脳外科手術ではガス麻酔を使い、最後まで全身麻酔で行っていたが、覚醒下手術は、静脈麻酔を使って最初は全身麻酔で痛みを感じる頭皮部分だけに局所麻酔をする。その後患者は麻酔から覚めて意識がある状態で手足を動かしたり会話をしたり、高次脳機能の検査を行いながら病変を取り除く。手術の最後に再び全身麻酔をする。


浅利 そのような手術を行うメリットは何か。

三國 脳腫瘍、特に神経膠腫(しんけいこうしゅ、グリオーマ)やてんかんでは、手術により多くの病変を取り除いた方が予後が良いとされているが、脳には日常生活で欠かせない神経機能繊維がネットワークをつくっている。これらを傷つけることによって、手術のために手足や言語機能などのまひといった後遺症が出るジレンマがあった。
 覚醒下手術では「ニューロナビゲーション」という機械を使って、手術前に大事な神経の位置や走行を調べてモニタリングし、手術ではそれらの神経に支障がないかを確認しながら摘出することができる。脳腫瘍の治療には知識と経験が必要だ。少なく取れば短期間で再発し、多く取りすぎると症状が出てしまう。「覚醒下手術」のメリットは、「多くの患者が手術後に症状を悪化させずに最大の病変摘出を達成できること」である。


浅利 国内での手術例と、手術可能な病院はどのくらいあるのか。

三國 日本では2000年ころから導入され、03年に所属していた京都大学脳神経外科で始めて以来、グリオーマとてんかんを合わせ約450件の覚醒下手術を担当している。現在、国内では約30カ所の病院が認定施設になっており、北海道では札幌医大と旭川医大の附属病院が対応している。安全に手術が行われなければならないため、認定施設には高い専門性が求められる。


浅利 手術により予後は格段に改善しているのか。

三國 グリオーマの中でも悪性度の高いものは短い命になることが多く、手術が非常に難しい。手術だけで完治させるのは難しいが、覚醒下手術により、若い人で発症しても1回の手術でなるべく多くの病変を取り除くことで日常生活にとって重要な手足の動作や会話、計算、空間的感覚といった脳機能を維持することで支障なく過ごしてもらえる可能性がある。


浅利 十勝の住民に向けて。

三國 脳腫瘍と診断されると絶望的な気持ちになる人が多いが、人生を諦めず、病気の症状を出さないだけでなく、後遺症を出さない手術を受けてもらえるようになっている。
 現在、道内で手術を受けられるのは札幌と旭川だけだが、2カ月ほど札幌医大で治療を行い、手術後は地元に帰ってQOL(生活の質)を落とさず過ごしていけることを考えれば、希望を持っていただけるのではないかと思う。


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  • 経営企画課 企画広報係