研究発表

【研究発表】レスベラトロールはどのように細胞死を抑えるか? -そのメカニズムを解明-


<研究概要>
 酵母にその遺伝子を多く持たせると寿命が延びることから長寿遺伝子と呼ばれるサーチュインは人にも存在し、その1つSIRT1はポリフェノールのレスベラトロールで活性化され、酸化ストレスから細胞を守る。レスベラトロールがどのように細胞を守るのかそのメカニズムを調べた。レスベラトロールは癌抑制遺伝子p53の機能を邪魔して細胞死を防ぎ、同時にFOXO転写因子を活性化して活性酸素を分解する働きを高めて細胞死を抑制した。この2つの機能は同時に働くもののFOXOの働きは細胞死の回避に不可欠であることがわかった。

<研究のポイント>
 筋芽細胞C2C12を用いてレスベラトロールの抗酸化作用と細胞死抑制作用を調べた。ターゲットとなるp53とFOXOをsiRNAという方法でノックダウンして働かないようにし、また、SIRT1の阻害薬、或いはSIRT1のsiRNAを使い、レスベラトロールの作用を検討した。
 レスベラトロールはSIRT1活性化を介して細胞保護作用を示した。レスベラトロールはp53の働きを抑え、同時にFOXOを活性化して細胞の酸化ストレスを分解するSOD2を増加させ細胞の酸化ストレス量を低下させた。しかし、3つあるFOXOをすべて無くすとレスベラトロールの細胞生存作用は完全に失われ、FOXOを介した機能が不可欠であることがわかった。

<研究の背景>
 レスベラトロールはSIRT1を活性化する(Howitz et al. 2003)。これまで、酸化ストレスが病態を悪化させる慢性心不全や筋ジストロフィー症について、動物モデルを用いてレスベラトロールがSIRT1を活性化してこれらの病態を改善することを明らかとしてきた(Tanno M et al. 2010; Hori YS et al. 2011; Kuno A et al. 2013)。SIRT1は癌抑制遺伝子p53を抑制して酸化ストレスによる細胞死を減少させ(Luo et al. 2001; Vaziri et al. 2001)、一方で、FOXO転写因子を活性化して酸化ストレス分解酵素を増加させる(Brunet et al. 2004)。この2つのメカニズムが実際どう働いているか、どちらが重要であるか不明であった。今回、レスベラトロールとSIRT1の細胞保護メカニズムをさらに詳しく検討した。

<研究の意義・今後への期待>
 これまでレスベラトロールとSIRT1の細胞生存作用はp53を抑制するためとされてきたが、今回の研究により酸化ストレスを下げるFOXOの活性化が不可欠であることがわかった。線虫という下等生物ではFOXOの活性が高いミュータントが酸化ストレスに強い耐性を持ち、寿命も長いことが知られている (Kenyon 2010)。高等動物でもFOXOは老化や寿命に関連している可能性があり、FOXO調節因子としてのレスベラトロールとSIRT1の重要性が注目される。本研究により、酸化ストレスが関連する疾患治療にSIRT1活性化をおこなうレスベラトロールなどを用いることは理にかなった治療法であることがわかり、その臨床応用の展開が期待できる。

<論文発表の概要>
 題名:Regulation of FOXOs and p53 by SIRT1 modulators under oxidative stress
     酸化ストレス下でのSIRT1活性調節薬によるFOXOsとp53の調節
 著者:Yusuke S. Hori1, Atsushi Kuno1,2, Ryusuke Hosoda1, and Yoshiyuki Horio1
    堀佑輔1、久野篤史1,2、細田隆介1、堀尾嘉幸1,
 所属:Department of Pharmacology1, and Department of Cardiovascular, Renal, and Metabolic
     Medicine2, School of Medicine, Sapporo Medical University, Sapporo 060-8556, Japan
     札幌医科大学 薬理学講座1、循環器・腎臓・代謝内分泌内科学講座2

 掲載誌:PLOS ONE
      A tentative publication date will be September 11th, 2013, at 5pm Eastern Time.
 出版予定日時:2013年9月11日アメリカ東部時間午後5時(日本時間9月12日午前6時)
      論文:http://dx.plos.org/10.1371/journal.pone.0073875


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