當瀬細胞生理学講座教授の新コラム「真健康論」第36回

當瀬細胞生理学講座教授の毎日新聞連載コラム「真健康論」:第36回 鼻呼吸に意識を(11月19日毎日新聞掲載)

當瀬細胞生理学講座教授

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真健康論:第36回 「鼻呼吸に意識を」

 改めて言うまでもなく、呼吸は鼻でも口でも行うことができます。口の周りには唇やあごの筋肉があって、完全に閉じることができます。しかし、鼻の穴は常に開いていて、手などを使わないで閉じることはできません。従って、人はもともと鼻を使って呼吸する動物であったと推定できます。

 この考えを支持する証拠は、鼻の中の構造と働きにあります。鼻の中の耳側の壁には大きな粘膜のヒダが三つ並んでいます。上鼻甲介(じょうびこうかい)、中鼻(ちゅうび)甲介、下鼻(かび)甲介といいます。そして、ヒダとヒダの間、ヒダと鼻の中央の仕切り(鼻中隔(びちゅうかく))との間の隙間(すきま)は思いの外狭くなっています。表面の粘膜からは、絶えず分泌液が出ていて、鼻の粘膜全体は粘液に覆われています。鼻で呼吸するとき、この比較的狭い隙間を空気が通過することになります。この際、空気中に含まれるゴミやほこりは、粘液に絡め取られることになります。

 これは、病原体がのどや肺に侵入することを防ぐ意味合いもあります。さらに、粘液の水分が通過する空気を潤すので、息が湿って、のどや気管支の乾燥を防ぐ働きもあるわけです。つまり鼻には、ゴミ取りフィルターと加湿器の役割があるというわけです。優秀な空気清浄機ですね。というわけで人は鼻で呼吸することが基本といえます。

 一方、口で呼吸するときの利点は、呼吸量が多くなることです。口を大きく開ければ、空気の通過を妨げず効果的です。だから、運動しているときは、自然と口が開くものです。でも、お気づきのように、口呼吸はのどや気管支を乾燥させ、ゴミやほこりをのどに直通させてしまうというリスクも伴っているのです。

 もう一つ、どうしても口呼吸が必要な場面があります。それはしゃべったり、歌ったりするときです。この時の口やのどの乾燥は相当なものなので、しゃべり続けると、どうしても水が欲しくなります。こうしてみると、口呼吸は、必要な時以外は、しないにこしたことはなさそうです。

 ところが、最近、口呼吸を常にしている人が増えているそうです。もちろん、アレルギーなどの理由で、鼻に炎症があって通りが悪くなっている人も多いのですが、単純に癖になっている人も少なくないようです。乾燥しやすい季節を迎えました。鼻呼吸を意識しましょう。(とうせ・のりつぐ=札幌医科大教授)=次回は12月3日掲載

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