當瀬細胞生理学講座教授の新コラム「真健康論」第34回

當瀬細胞生理学講座教授の毎日新聞連載コラム「真健康論」:第34回 腰痛は人類の宿命(10月22日毎日新聞掲載)

當瀬細胞生理学講座教授

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真健康論:第34回 「腰痛は人類の宿命」

 私たち人類の祖先は猿。そのまた祖先はツパイというネズミに近い動物です。つまり、祖先はもともと四本足で歩き回る動物だったのです。進化的に早い時期の猿は、基本的に四本足で歩き、必要に応じて前脚でものをつかんだりします。類人猿では前脚はかなり「手」として活躍し、二本足で立つこともできます。でも、通常歩くときは、相変わらず前脚を地面につけて歩きます。

 これに対し、人類は、完全に立ち上がって、二本足で歩くようになりました。直立二足歩行です。おかげで前脚は足としての存在ではなくなり、完全に手と化したのです。手を獲得した人類は、道具を編み出し、それを縦横に使って文明を築きました。

 しかし、そのことの代償は少なくなかったと考えられます。直立二足歩行が通常の姿になったので、人類は寝ているとき以外は、上から頭、首、胸、腰、脚の位置関係が常に保たれることになりました。この体全体を支えているのは、いわゆる脊椎(せきつい)骨と脚の骨です。ところが、脊椎骨と脚の骨の「基本設計」は祖先のツパイとあまり大きな変化がないのです。

 簡単に言うと、骨は四本足用の構造なのに、直立してしまったのです。なので、脊椎骨と脚の骨には、それまで想定しなかった方向に重力がかかるようになってしまいました。四本足のころの脊椎骨は地面に平行に並んでいて、重力は脊椎骨の軸に対して垂直にかかります。しかし、人類の脊椎骨は地面に対して垂直に並び、重力は脊椎骨の軸の方向にかかります。つまり、発達して巨大化した頭の重さが、脊椎骨にまともにかかっています。

 このままだと骨が壊れてしまうので、人類は腰の周りに大きな筋肉を発達させ、脊椎骨と骨盤の間において、脊椎骨にかかる重力を分散して支えています。その結果、腰周りの筋肉には基本的に大きな無理がかかっているのです。

 そこで、何らかの理由で筋力が衰えると、腰が重力を支えきれなくなって、悲鳴を上げます。これが「腰痛」というわけです。もちろん無理な運動や姿勢など、他の理由でも腰痛が起こりますが、中年期に起こる腰痛の原因には、筋力の衰えによる老化現象が含まれています。腰痛は人類の宿命かもしれません。予防法は運動による筋力の維持です。体操がおすすめです。(とうせ・のりつぐ=札幌医科大教授)=次回は11月5日掲載

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