當瀬細胞生理学講座教授の新コラム「真健康論」第16回

當瀬細胞生理学講座教授の毎日新聞連載コラム「真健康論」第16回 健康食品ブーム(1月22日毎日新聞掲載)

真健康論:第16回『健康食品ブーム』=當瀬規嗣(札幌医科大学医学部細胞生理学講座教授)

 毎日すこやかに過ごすために、何かを習慣にしている人がたくさんいます。散歩やジョギング、体操など。みなさんそれぞれに経験とお考えがあって、続けておられるようです。体に良さそうなことを続けることは、とても大事だと、私も考えています。

 そんな背景もあって、体に良さそうなものを毎日摂取したいという願いが国民の間に広がっています。それで健康食品ブームが延々と繰り返されているのです。もはや「ブーム」ではなく習慣の一種であると言うべきかもしれません。

 いわゆる健康食品と呼ばれるものには、さまざまな性質のものが含まれています。例えば、ビタミン類やミネラルのように不足している栄養素を補給する目的のものです。正確な意味でサプリメントと呼ばれるものです。これらは、体に補給すべき量が決まっているので、やたらとたくさん取ればよいというわけではなく、取りすぎは逆に障害を起こすおそれがあります。また、たんぱく質のように、通常の食事で不足することは考えられないが、より多く補給することで体を大きくするなど、特殊な目的に使うものもあります。

 そして、いま一番多くて、大量の宣伝がマスコミを通じて流されている健康食品が、食品などに含まれている特殊な成分を取り出して製品化し、さまざまな効能をうたって販売されているものです。これらは薬のような扱いをしているものも多いのですが、法律で定める薬物としての認可は受けていません。つまり「効用」は証明されているわけではなく、あくまで食品なので食べても害はないだろうという程度のものです。なので、効果の科学的検証も乏しく、中には公表されている根拠に科学的な誤りが見られるものも少なくありません。

 さらに、長期に大量に摂取した場合、どのようなことが起こるのか、実はよくわかっていないのです。

 もちろん、何らかの害が生じたものは市場から退場します。しかし、害はないけれど効果もないものが世の中に広く行き渡り、原料費から見ると相当な高額で売られているのを見るにつけ、憤りを感じざるをえません。健康食品の異常なブームは、いつもトラブルで終わるという歴史だけが繰り返されるのでしょうか。(とうせ・のりつぐ=札幌医科大教授)=次回は2月5日掲載


毎日新聞 2012年1月22日 東京朝刊(毎日新聞社許諾)

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