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魚眼図~赤い実り~(11月5日北海道新聞夕刊掲載)

魚眼図~赤い実り~解剖学第2講座 藤宮峯子教授(11月5日北海道新聞夕刊掲載)

北海道新聞掲載記事
 
北海道新聞夕刊「魚眼図」に掲載された解剖学第2講座・藤宮峯子教授のコラムを毎月ご紹介しています。

2010/11/05, 北海道新聞夕刊全道, 5ページ
 

~赤い実り~

 ボジョレ・ヌーボーの秋がやってきた。世界中の人々はその年の収穫を祝って、フランス直輸入の若くてさわやかなワインの到着を待つ。しかし私は、若いワインには目もくれず、ひたすら長い年月をかけて熟成したボルドーの赤ワインに焦がれる。

 これほど人をうっとりさせる飲み物がほかにあるだろうか? 何よりも深紅の色が魅惑的だ。キリストの血の色だから、まずは敬虔(けいけん)な気持ちでグラスを光にかざし、限りなく透明な赤を紡ぎだした自然の恵みに感謝。次に、大きなグラスをぐりんぐりんと大げさに回して、思わず漏れる笑みを抑えながらおもむろに鼻をグラスに近づける。臭いをかぐ動作は、かなり動物的でかつ原始的だ。しかし嗅覚(きゅうかく)そのものが本能と強く結びついているから仕方がない。ここで何か物申すのは禁物。黙って本能的かつ官能的に過去をうっとりと思い出したりするのが良い。そして、はっと気づいて、すっと舌の上に最初の一滴を転がす。香りと味。この相乗効果を優れたワインは絶対に裏切らない。

 絶対的に優れた物に対して人はただ沈黙するしかない。そして感動は個人的で大仰に他人に語る物ではないから、何か一言を期待して待つソムリエには目もくれずに豊穣(ほうじょう)の極みを味わい尽くす。

 そしてほどよく酔った私は、ボジョレ・ヌーボーのような若い女より、この赤ワインのように長い時間熟成させて、この世の甘さ辛さを味わい尽くした女のほうが良くはない?と、饒舌(じょうぜつ)に語り始める。

 人生は素晴らしい。暗い倉庫でじっと出番を待ち続けたワインが極上の味を出すように、まじめな長い人生の営みは素晴らしい結末を約束するのだと思う。

(藤宮峯子・札幌医科大教授=解剖学)

北海道新聞社許諾 D1007-1101-00006651

  • 経営企画課広報
  • 発行日:2010年11月08日

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