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魚眼図~ミシシッピの流れ~(6月7日北海道新聞夕刊掲載)

魚眼図~ミシシッピの流れ~解剖学第2講座 藤宮峯子教授(6月7日北海道新聞夕刊掲載)

6月7日北海道新聞夕刊掲載 魚眼図~ミシシッピの流れ~新聞掲載記事
解剖学第2講座・藤宮峰子教授の北海道新聞夕刊の「魚眼図」に掲載しているコラムを毎月紹介しています。

[書誌]
 仕事で米国のニューオーリンズを訪れた。メキシコ湾から運ばれる湿った空気と焼け付く太陽が街を被(おお)っている。陽気なジャズ音楽が夜中まで鳴り響き、世界中から集まった観光客が通りにあふれるこの街が、数年前にハリケーン・カトリーナが襲った街とはとうてい想像出来ない。
 私はミシシッピ河畔で、ゆったりと流れる濁った川面を眺めた。17世紀から19世紀にかけて約1千万人の黒人が奴隷として、アフリカから荷物のように船底に詰め込まれ運ばれて来たのがこの港だ。アメリカ南部に広大な農場を持つ白人が牛や馬のように黒人奴隷を商品として買い取り、血を吐くような過酷な労働に駆り立てた。
 彼らは望郷の念に駆られながらもついに故郷には帰れず、差別を受けながら生き抜くしか方法はなかった。労働から解放された夜半に、星を見上げて故郷の歌を口ずさんだのだろう。そして、自分の境遇に涙を流し、神に祈らざるをえなかっただろう。彼らが奏でたジャズやブルースやゴスペルは、死ぬほどつらい生活と故郷を奪われた悲しい境遇から絞り出された
魂の叫びなのだ。
 ボーと汽笛を鳴らして観光船が川を上っていく。船上は陽気な音楽と観客の歓声であふれて
いる。観光客向けの底抜けの明るさと、住民の多くを占める黒人の貧しさと暗い歴史。アメリカ
の持つ光と影がこの街にくっきりと刻まれている。
 私は今、ソウルミュージック(魂の音楽)と呼ばれる曲を聴いている。緩やかに流れる音楽は、
ミシシッピの流れそのものだ。そこには人間の持つ根源的な哀(かな)しさと、天から降り注ぐ神
の恩寵(おんちょう)が謳(うた)われている。
(藤宮峯子・札幌医科大教授=解剖学)

北海道新聞社許諾 D0907-1001-00005804
  • 経営企画課広報
  • 発行日:2010年06月09日

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