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呼吸器疾患に伴う気道病変と胸腔病変

呼吸器疾患に伴う気道病変と胸腔病変に関する研究

 当教室では、これまでにオリンパスと共同で気管支鏡を用いた研究を行ってきました。その嚆矢となった研究は側視型拡大気管支ビデオスコープ(拡大気管支鏡、オリンパス社)を用いた気道粘膜の観察です。これは阿部庄作前教授の発案で試作された内視鏡で、約100倍の拡大率で気管支粘膜を観察することができます。さらにNarrow Band Imaging(以下、NBI)システムと拡大気管支鏡を組み合わせることにより、粘膜表層に分布する血管や病変の分析を行うことができます。NBIとは照射光の組織深達度の波長依存性とヘモグロビン吸収特性を利用した画像強調観察法のことで、最近は消化管の内視鏡で粘膜面の上皮構造の解析に用いられています。また、最近は顕微鏡レベルでの粘膜の観察が可能なエンドサイトスコープ(プロトタイプ、オリンパス社)による観察や胸腔鏡による臓側胸膜のNBI観察も行っています。
以下に気管支鏡や胸腔鏡を用いた研究により得られた知見のいくつかをご紹介します。
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腫瘍性病変

 拡大気管支鏡を用いた腫瘍性病変やその周囲の粘膜下浸潤の観察では、上皮下層の異常な血管増生や不整な粘膜肥厚などがみられました。腫瘍により誘導された異常血管は、不規則な拡張と蛇行をしています。この様な異常血管は原発性肺癌の周囲粘膜のほかに、気管支壁に転移・浸潤した腫瘍の周囲においても観察されました。一方、粘膜自体が腫瘍浸潤で不整に肥厚した場合は上皮下層の血管は不明瞭になります。図は腺癌の粘膜浸潤を観察したもので、上図は血管増生や粘膜不整の顕著な症例を、下図は粘膜肥厚を主に認めた症例を提示しました。
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気管支喘息

気管支喘息は気道過敏性の亢進と可逆性気道収縮を特徴としています。また、病理では気道の血管増生が指摘されています。そこで私たちは喘息発症1年以内と5年以上の吸入ステロイド治療を行った喘息患者について拡大気管支鏡で上皮下層の血管ネットワークを比較し、両者は同程度の血管増生を生じていることを報告しました。喘息患者の上皮下層の血管は健常者に比較して有意に増加していたことから、上皮下層の血管増生は、喘息と診断されたときから既に存在していることが分かりました。また、通常の気管支鏡でみられる喘息の気管支粘膜の発赤は微小血管網と考えられました。血管増生の評価は、以前は生検による組織学的評価がおこなわれていましたが、拡大気管支鏡を用いることで、非侵襲的に上皮下血管網の定量的評価が可能と考えられます。
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サルコイドーシス

サルコイドーシスの特徴的な気管支鏡所見は、上皮下層の肉芽腫性病変による結節性病変と血管増生です。血管増生は肺門リンパ節の腫脹のある場合に多くみられますが、リンパ節腫脹の改善と必ずしも並行しないことから、サルコイドーシスに特有な血管変化と考えられています。拡大気管支鏡による観察では、上皮下層の血管増生を認め、気管支喘息と同様に、通常は血管の少ない軟骨輪部にも血管増生を認めました。また、結節性病変では上皮下層の結節により血管が圧排されている所見がみられました。
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喫煙による気管支粘膜の変化

長期間の喫煙が気管支粘膜に及ぼす影響について拡大気管支鏡で検討しました。その結果、上皮下層の血管は減少し、細くなっていることがわかりました。さらに粘膜のヘモグロビン量も減少していました。したがって、長期間の喫煙により気管支粘膜で生じる持続的な炎症は粘膜の肥厚と血管の細径化をもたらし、上皮下層の微小循環も低下していると考えられました。
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エンドサイトスコープを用いた気道上皮の観察

最近開発されたエンドサイトスコープは、拡大気管支鏡よりもさらに倍率を上げて細胞を可視化する内視鏡です。メチレンブルー色素で細胞染色した後に、超拡大観察用対物レンズを粘膜面に接触して細胞を観察します。内視鏡の対物レンズの倍率を大きくすることで粘膜表面の細胞レベルの画像を得る光学拡大方式を採用し、14インチモニタ上で400倍の超拡大観察が可能です。正常上皮の観察では、規則正しく配列した細胞からなるシート状の細胞層が観察され、個々の細胞は類円形の細胞質の中央に核が濃染され、細胞質も薄く染色されています。丁度、上皮細胞層の水平断に相当するような細胞の画像が得られます。また無染色の場合は上皮細胞の直下の微小血管が観察されました。
エンドサイトスコープの内視鏡画像の研究からは細胞の大小不同や核細胞質比などから腫瘍細胞と正常細胞をある程度区別できることが分かりました。したがって、今後の研究の発展により内視鏡検査で細胞レベルの診断を行うことができるようになれば、将来は肺癌の診断が内視鏡観察で可能になるかもしれません。
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局所麻酔下胸腔鏡でのNBI観察

局所麻酔下胸腔鏡による胸腔観察においてもNBI観察の有用性について研究しています。局所麻酔下胸腔鏡で観察される壁側胸壁では透明で滑らかな胸膜とその直下の血管ネットワークが観察されます。胸腔においてもNBIを応用することでより胸膜表層や血管の視認性が向上すると考えられます。現在、通常光とNBIの両方で胸膜面を観察し、胸膜疾患と血管ネットワークの関係を研究しています。また、NBI所見が適切な生検部位の決定に利用できないかについても検討中です。
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そのほか

超音波気管支鏡下針生検(EBUS-TBNA)の迅速診断の有用性

EBUS-TBNAとは先端のエコーで描出しつつ病変を穿刺する細胞・組織採取法のことです。コンベックス型超音波プローブを搭載した気管支鏡を用いて、主に気管支壁に沿ったリンパ節や気管支壁外の病変の細胞・組織診断に用いられています。通常は正確に病変部位を採取できたかどうかは、数日後の病理報告を待たなければなりません。現在、当科では採取した細胞検体の一部についてDiff-quick染色による迅速診断を行い、術者が検査直後に病変部を採取できたか否かを確認しています。また、病理診断との比較を行い、その有用性について検討しています。

難治性気胸、肺瘻および有瘻性膿胸に対するEWSを用いた気管支充填術の有用性

難治性気胸、肺瘻、および有瘻性膿胸の根治的な治療は外科治療です。しかし、全身状態や肺の状態が不良な場合は、しばしば治療に難渋し内視鏡的な治療を試みることになります。これまでに難治性気胸、肺瘻、有瘻性膿胸などに対する内視鏡的治療として、主に吸収性素材を用いた気管支充填術が行われてきましたが、近年、シリコン充填材Endobronchial Watanabe Spigot(EWS、Novatech社)が開発され、EWSを用いた気管支充填術は、確実な長時間の気管支閉塞が可能であるためこのような疾患に対して有効と考えられています。現在、難治性気胸、肺瘻、および有瘻性膿胸に対してEWSを用いた気管支充填術を行い、その有用性と安全性について研究しています。

最終更新日:2014年04月04日



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