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間質性肺炎・肺線維症

両側の肺に広範な陰影を認める疾患は「びまん性肺疾患」と呼ばれています。その中で、「間質性肺炎/肺線維症」は肺間質と呼ばれる肺胞隔壁を炎症・線維化病変の場とする疾患です。その原因としては、膠原病やサルコイドーシスなどの全身性疾患であったり、薬剤や放射線、高濃度酸素投与などの医療行為、じん肺に代表されるような無気粉塵や過敏性肺炎のような有機粉塵の吸入、などが挙げられています。それらの原因が特定できないものもあり、特発性間質性肺炎(Idiopathic Interstitial Pneumonias;IIPs)と呼ばれ、厚生労働省が特定疾患に認定する難治性の疾患です。当教室では、この難病であるIIPsについて基礎研究と臨床研究の両面から、難病の解明に取り組んでいます。

1. 北海道地域の臨床調査個人票に基づく特発性肺線維症(Idiopathic Pulmonary Fibrosis;IPF)の疫学調査;北海道STUDY

 IPFは診断が複雑で稀な疾患であるため、世界的に見ても精度の高い疫学研究が少ない実状があります。

IPFの実態を理解するために精度の高い疫学研究が必要とされてきました。また疾患の人種差や地域差を検討するために国際間比較が必要であり、国際的に一致している診断基準に基づいた大規模研究が求められています。
北海道は、他の都道府県とは異なり、国基準の重症度Ⅲ度Ⅳ度の患者に加えて、Ⅰ度Ⅱ度の軽症者も特定疾患医療受給証を交付しています。このような背景から、北海道地域の臨床調査個人票に基づく疫学調査によってIPFの軽症者も含めた真の実態を把握することが可能です。当科では、厚生労働省の指示を受けて、北海道のIPF患者を対象に疫学調査(北海道STUDY)を実施しています。この結果をもとにして、日本人のIPFの発生率・有病率、臨床的特徴、死亡原因および予後因子といった実態が明らかになりつつあります。また、国際間比較によって人種間や地域間での差が見えてきました。

この北海道STUDYが明らかにした点を要約すると、(1)有病率から推計される全国のIPF患者数は少なく見積もっても1万数千人存在すること、(2)性比では男性に多く、年代別の発生率では70歳台で最も多く高齢での発症であること(結果1.)、(3)生存中央値が35ヶ月と予後の厳しい疾患であること(結果2.)、(4)急性増悪が死亡原因のなかで最も多く4割を占めること(結果3.)、(5)VCの低下が予後に最も強く関与すること、(6)国際間の比較でわが国のIPF患者は欧米の患者と男女比や急性増悪死亡率の割合などに相違点があることが示されました。これらの結果は、日本人のIPFの実態をよく現し、実臨床において、また本疾患の基礎研究においても有用なものとして評価されています。
結果1
結果2
結果3

2. 肺サーファクタント特異蛋白質(Pulmonary Surfactant Proteins)と間質性肺炎

当科ではこれまで本学医化学講座との共同研究により、肺サーファクタント蛋白質(Surfactant Protein; SP)であるSP-AおよびSP-Dの構造・機能の解析ならびに各種呼吸器疾患におけるの意義や臨床応用を検討してきました。肺サーファクタントは肺胞II型上皮細胞から肺胞腔内に分泌され、肺胞の表面張力を低下させることにより肺胞の虚脱を防ぎ呼吸を維持する生理活性物質です。SP-A、SP-Dは表面張力低下作用ではなく主として自然免疫に関与します。

当初、SP-A、SP-Dは血液中には移行しないとされていましたが、当科では健常者の血液中のSP-A、SP-Dを初めて検出し、呼吸器疾患における血液中の濃度を測定したところ、下の図の様に、間質性肺炎症例の血液中で著明に増加することを見出しました。そこで産学共同で測定法を確立し、その有用性が認められ、1999年にSP-A、SP-Dともに間質性肺炎の診断に寄与する血清マーカーとして保険収載されました。現在、日本国内のどの医療機関でも簡単にオーダーすることが可能となり、広く臨床の場で役立っています。
各種呼吸器疾患における血清SP-A、SP-D濃度の分布
また、前述した厚生労働省診断基準の第4次改訂において、特発性間質性肺炎の認定基準に、血清SP-AおよびSP-D測定が診断項目として組み入れられました。

現在は、SP-A、SP-Dが肺胞から血液中へ移行するメカニズムについての研究、血清マーカーとしてのSP-A、SP-Dの持つ特徴と疾患の活動性や治療効果などに関する各々の意義の検討、肺癌など間質性肺疾患以外への応用について検討を行い、バイオマーカーとしての新たな可能性について模索しています。

3. 気腫合併肺線維症(CPFE; Combined Pulmonary Fibrosis and Emphysema)についての研究

2005年にCottinらが間質性肺炎と肺気腫を伴う患者の臨床的特徴を気腫合併肺線維症(CPFE)として報告しました。CPFEは喫煙と密接な関係があり、肺気腫のない間質性肺炎に比べて肺癌を高率に合併するほか、肺高血圧症の合併が多いなど、様々な特徴が指摘されており、新たな疾患概念として確立しつつあります。当科でもCPFEの病態と特徴について、これまで蓄積した患者の臨床データ、特にサーファクタント蛋白質との関連性について様々な角度から解析を行っております。

4. 間質性肺炎合併肺高血圧症についての研究

間質性肺炎/肺線維症は、病気の進行に伴い呼吸機能の悪化と呼吸不全の進行を認めますが、一部の症例では肺高血圧症の合併を認めることが明らかとなっています。間質性肺炎/肺線維症に伴う肺高血圧症については不明な点が多く、現在のところ確立された診断、治療法はありません。当科では、間質性肺炎/肺線維症患者における肺高血圧症と心機能について評価し、その病態について検討を重ねています。

5. IPF肺におけるSP-AとSP-Dの動態についての研究

IPF(特発性肺線維症)をはじめとした間質性肺疾患で血清中のSP(サーファクタント蛋白質)-AとSP-Dの濃度が上昇することが当講座と本学医化学講座の研究で明らかにされています。
しかし、患者さんによって、SP-A値とSP-D値の上昇にばらつきがあり、どちらかのみが高い患者さんや経過でどちらかのみが上昇してくることがよく見受けられます。
2つの蛋白質は構造上も機能上も似た蛋白質ですが、肺での動態や肺から血中に移行する過程にちがいがあるのではないかと推測されます。
当講座ではいままでに蓄積された知見をもとに、新たにIPF患者さんの肺のどこに2つの蛋白質の局在のちがいを免疫染色により明らかにし、またIPF患者さんの気管支肺胞洗浄液の蛋白質濃度を検討することにより、SP-AとSP-Dの動態のちがいを検討しています。
    • 写真
      IPF肺におけるSP-Aの局在(茶色)
    • 写真
      IPF肺におけるSP-Dの局在(茶色)

最終更新日:2014年04月14日



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