序        章


1 本学の沿革と建学の精神・理念

 札幌医科大学は昭和25(1950)年6月に、医学部医学科(学生定員40名)の単科大学として開学した。戦後の新制医科大学の第1号であった。本学の前身は、戦時中の医師不足を解消するために、国策として昭和20(1945)年7月に設立された北海道立女子医学専門学校である。2期214名の卒業生を出して女子医専が廃校した後、大野精七校長をはじめ女子医専教授陣の運動の結果、北海道知事及び道議会の賛同を得て、設立が認可され、北海道立の札幌医科大学が誕生した。
 北海道立札幌医科大学設置要領の「目的及び使命」には、次のように記述されている。「1本学は医学に関する知識及び技能を授け、国家社会のため有能な医師たるに必要な教育を施すと共に、医学を深く研究するを目的とする。2我が国において最も医師の数が不足している上に医療保健施設整備も遅れている北海道の現状を改善するのが本学の使命であるが、更に道立の医科大学として道の衛生行政と有機的な関連を保ちつつ、特色ある研究を行い、これによりて新日本再建のため、重大な役割を有する北海道の開拓を促進し、進んで広く世界の平和と人類の福祉に貢献するを以て使命とする。」
 この大学設置の目的、使命を達成するために、本学は、北海道の地域医療に貢献しうる医師を育成し、かつ国際的にも活躍できる医師・医学研究者の育成を理想として掲げる新しい医科大学を目指して出発した。開学当時の大野精七学長は、時代に先駆けて新しい診療科の胸部外科、脳神経外科、麻酔科を新設、一部にアメリカ式の大講座制を取り入れ、また口腔外科を設置して将来歯学部設置を企画、道内で最初の癌研究所の開設、あるいは附属図書館をチャイナメデイカルボードの支援によって拡充するなど、多くの新機軸を導入した。若い新進気鋭の教授陣がこれを支えたのである。大学校舎の一部は新築されたが、附属病院は旧来の建物であった。施設、設備は貧弱であったけれども、新しい理念の大学を作るという自由闊達な気風が大学に満ちていた大学創生期であった。そして、開学から11年間学長を勤められた大野精七学長のリーダーシップによって、本学の基礎が築かれ、大野学長退任後は、大野学長を支えてきた教授陣がこの理念を引き継ぎ、今日まで継承されている。
 この大学の創生期に自然に育まれた理念、すなわち、新しいことに挑戦する「進取の精神と自由闊達な気風」、そして「地域医療への貢献と医学研究の両立」が、札幌医科大学の建学の精神となった。今年で本学は、開学以来53年となったが、創生期に確立されたこの大学の理念は、大学半世紀の歴史の中でキャンパスに定着し、現在、教職員と学生の精神的支柱になっている。このようにして、本学は北海道における地域医療を担う医療者を育成し、先端医学の研究と地域医療への貢献に邁進してきたのである。
 昭和58(1983)年に看護学科、理学療法学科、作業療法学科をもつ札幌医科大学衛生短期大学部が本学に併設された。著しい高齢化社会の到来と疾病構造の変化に対応するために、コ・メデイカル医療従事者の数の確保と資質の向上を目指して設置されたのである。この衛生短期大学部が母体となって、10年後の平成5(1993)年に4年制の保健医療学部が開設され、現在、本学は医学部(学生定員100名)と保健医療学部(学生定員90名)の二学部を擁する医系総合大学となっている。
 大学院医学研究科は本学の開学後6年の昭和31(1956)年に設置されて、学位審査権が本学に付与された。以来、平成13(2001)年度までの博士(医学)の学位取得者は、大学院医学研究科修了者699名、論文博士は1,373名、計2,072名である。
 近年の医学・医療の急激な進歩に伴い、先端医学・保健医療学の研究者やより高度な医療専門職業人を育成するために大学院課程の充実が、社会のニーズとなった。本学においても、平成11年に文部科学省の認可をうけ、大学院医学研究科の学生定員を50名に増員、3専攻、49科目に再編整備し、新大学院医学研究科が発足している。
 また、大学院保健医療学研究科の看護学専攻(学生定員は12名)、理学療法学・作業療法学専攻(学生定員は12名)の修士課程が、平成8(1996)年に設置された。さらに、平成10年(1998)には、理学療法学・作業療法学専攻の博士課程(学生定員は6名)が認可された。この理学療法学・作業療法学専攻博士課程の設置は、全国で二番目である。現在、大学院保健医療学研究科看護学専攻博士課程を設置するために努力中である。

2 本学の使命・目的

 本学は公立大学であり、公立大学は「地域における知の拠点」であることが要請されている。「知の拠点」としての大学は、知の継承としての教育、知の創造を担う研究、そして大学の知を活用する社会貢献がバランスよく機能することが重要といわれている。この中でも、特に公立大学は、地域社会への貢献の視点が重視されなければならない。医系総合大学である本学には、北海道の地域における医療、保健、福祉の充実、発展のために社会貢献することが期待されている。
 すなわち、本学の使命として、地域への社会貢献が大きな意味をもつが、本学の目的は、「医学及び保健医療に関する学理と応用とを教授し、その深奥を考究すると共に、知的、道徳的及び応用的能力に富む人材を育成し、地域社会の福祉の向上と人類の文化の進展に寄与すること」である。この目的は、医学部(T−1)と保健医療学部(V−1)の理念・目的に包含されている。すなわち、優秀な医師およびコ・メデイカル医療技術者を育成して、わが国の医学・医療の向上に努めるとともに、質の高い医療人を地域へ供給し、地域における医療、保健、福祉の質を保証することが、地域社会への貢献の本質的な意義であり、本学の使命である。
 本学半世紀の歴史は、前述した建学の精神を拠り所として、先端医学の研究に邁進し、その果実をもって、北海道の地域医療に貢献する優秀な人材を育成し、地域に安定的に供給するための努力を重ねてきた歴史である。このことは、単に医療専門職業人を育成するのではなく、高度な知識、技能を備えた人材を育成、北海道の地域における医療、保健、福祉の現場に供給し、その質の向上に寄与してきたことを意味している。平成13(2001)年度までの本学に関わる全卒業生は、医学部とその前身である女子医専の総数4,230名、保健医療学部とその前身である衛生短期大学部の総数1,474名で、全卒業生数は5,604名であるが、その卒業生の約80%が北海道に定着し、地域の医療、保健、福祉の実践に参加している。本学卒業生の大きな特徴は、この地元定着率が他大学に比して、非常に高いことである。さらに、かなりの数の卒業生が卒業後も大学で先端医学・医療の研究、研修を受けたり、大学院で研究に従事したりすることによって、高度医療専門職業人として成長し、北海道の地域医療の質の向上に貢献している。このように、本学の実績は、その理念を具現化し、使命を遂行してきたことを示している。
 本学は今日までの半世紀に、教育、研究、地域貢献に着実な足跡を印している。教育成果の評価は難しいが、例えば、医師国家試験の合格率を客観的な教育成果の評価の一つの指標とすると、最近の約20年間における本学の平均順位は、全国医学部80校中7位で、2位が2回の好成績であり、これは本学の医学教育の成果と言えるかもしれない。また、最近3年間における文部科学省の科学研究費補助金の取得は総額4億円を超えており、研究活動が非常に活発であることを示している。このように本学では、教育および研究活動が積極的に展開されていると言える。
 一方で本学は、北海道における地域医療の充実のために、本学独自の取り組みを展開している。プライマリー・ケア医を地域医療の最前線へ供給する目的で、本学医学部に地域医療を志向する地域医療総合医学講座を設置した。また、行政と連携を強化して医療過疎地への医師派遣を行うために、地域医療支援センターを設置している。さらに、地域医療情報ネットワークを構築し、遠隔地の医療機関と本学をネットワークで結んで、地域の保健、医療へ貢献できる仕組みとか地域の医療従事者への学術情報のインターネットによる提供の仕組みなどの地域医療支援体制が除々に整えられつつある。
 かくして、大学創生期に確立した建学の精神、すなわち「進取の精神と自由闊達な気風」のもと、「地域医療への貢献と医学・医療研究の両立」は、今日も脈々と大学に息づき、着実に花開きつつある。近い将来、本学には独立行政法人化などの試練が待っているが、大学構成員の一人一人が、この大学の理念を更にしっかりとした果実に生育させて行き、それを心の拠り所として、この試練に立ち向かえば、新たな大学の展望が開けるだろう。

3 本報告書の構成

 本学は平成8(1996)年に、自己点検・評価報告書を作製し、これにより大学基準協会の加盟審査を受け、正会員として認可されている。このたび、平成15(2003)年に大学基準協会による「相互評価」を申請することを主たる目的として、全学および各学部の自己点検・評価委員会において検討された内容を報告書にまとめた。医学部、大学院医学研究科、保健医療学部、大学院保健医療学研究科については、大学基準協会から示されている「主要点検項目」にしたがって、現状と評価内容が記述されている。
 また、平成8(1996)年の報告書では、記載されなかった「附属病院の評価」については、本章に、本学独自の項目として「医学部附属病院」を設置し、「附属病院の教育、研究および地域連携」についての現状と評価を記述した。さらに、「附属病院の診療活動」については、大学基準協会の評価項目からはずれるが、本学附属病院全体の評価には不可欠な内容なので、【付録】にまとめて記述した。(※付録については、掲載していない。)
 今回の自己点検・評価報告書は、大学基準協会の相互評価を申請する目的で作製されたが、社会貢献、附属病院などに本学独自の項目を設定し、医系の公立大学である本学の特徴を多く含む内容となっている。

 札幌医科大学は、半世紀の歴史を踏まえ21世紀へ歩み出したが、これまで培ってきた本学の教育、研究、診療、社会貢献などの水準の適切性、妥当性を客観的に評価し、さらに改革、改善を図ることが極めて重要な時期になった。そして、大きな転換期にある我が国の社会や大学の構造改革などの外圧に対応できるように、自己点検・評価の体制を整備し、本学独自の自己点検・評価を行うとともに、大学基準協会の「相互評価」へ申請することにしたものである。