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山本和利教授
教 授
山本 和利

地域医療総合医学講座の役割

1.沿 革
 当講座は1997年の医学部講座化等ワーキング・グループ検討結果報告書を受けて検討が重ねられ、以下のようなコンセンサスが得られ開設となり、1999年2月に初代教授として山本和利が赴任した。
 設置の目的は、「地域医療への貢献」をより積極的に果たすため、1)系統的・総合的な卒前及び卒後教育を通じて地域医療のできる医師または研究者を育成する、2)地域医療、総合医療、包括医療等に関する研究を推進する、の2点である。さらに「地域医療への貢献」を具現化するために、医師派遣及びマルチメディア通信ネットワークによる遠隔医療支援等の可能な「地域医療支援室」の設置が将来構想として含まれている。

2.教 育
(1) 教育目標
 総合医、家庭医として人間性豊かな広い視野を持ち、患者及び地域住民に対して総合的かつ包括的な一般診療、救急医療、さらには予防、リハビリ医療活動ができる医師を育てる。さらには、これらの活動を通じ、実地医療を行う際に自分自身で学習する態度を身につけるように教育する。
 このような医療を将来に渡り有機的に行うために必要な臨床研究を行えるように臨床疫学を盛り込んだ教育(地域社会が抱えている医療上の種々の問題点を明確に分析し、地域における医療の社会的需要と必要性を正確に把握し、これらに対して的確な処置を行う能力の育成)を行う。

(2) 実施方法
A.学生講義
・医学史(1学年)
・地域医療合同セミナー:地域医療(1、3学年)
・臨床疫学(EBM):診断・治療・予防・身体診察(4学年)
・臨床決断科学・臨床推論(4学年)
・家庭医療学: 医療人類学・受療行動・解釈モデル・家族システム・医療家系図・患者中心の医療・Common diseases(4学年)
・地域医療(4学年)
・臨床入門:医療面接(4学年)
・Narrative-based Medicine:医療倫理・医療完全・医師患者関係(4学年)
・プロフェッショナリスム(4学年)
B.実習内容
 卒前教育において、臨床疫学を中心にした知識、技術の修得を図り、かつ社会人・医療人としての「模範となる態度」を修得させる。
 医療人類学の知識、技術を積極的に取り入れ、患者は社会的背景を持った人間であるとする視点を持つことを学生・研修医に強調している。  
 対応した患者の問題点を基にして、Evidence-based Medicine(EBM)の知識・技術を修得するよう指導している。道内道外の地域一般病院・診療所における実習を取り入れ、2週間の地域基盤型教育(community-based education)を必修としている(5学年)。また4週間にわたる選択による地域基盤型実習を採用し、年間数名の学生が参加している(6学年)。
C.卒後教育
 初期研修を受け入れ外来における診療研修を行っている。また生涯教育の一環としての後期研修総合医養成コースを用意している。さらに、教育・研究・診療における高度な知識と能力を有し、地域医療に指導的な役割を果たす人材の養成を目的とした大学院カリキュラムを設定している。
D.遠隔教育
 2003年から木曜早朝に、『プライマリ・ケアレクチャーシリーズ』と称して、プライマリ・ケアに関連するトピックを総合医や臓器専門医が約30分間でコンパクトにかつ実用的な内容で講義している。また水曜早朝の『プライマリ・ケアカンファレンス』では、症例中心のカンファレンスを持ち回りで行なっている。
 開かれたネットワークを作ろうと努力し、徐々に輪を拡げてきた結果、参加者は北海道内を中心に全国約100カ所に拡がり、その基盤も民間医療機関、公立医療機関、大学、個人、行政等様々である。

E.指導医養成
 札幌医科大学の指導医養成講習会の企画・運営に当たっている(2012年までに7回)。また北海道医師会や北海道プライマリケア・ネットワーク主催の指導医養成講習会にも年回1−2回の頻度で関わっている。

(3) 総合的教育到達目標
初期・後期の総合医養成研修を通じて、基本的な診療知識・技術を身につけ、個々の患者・住民に対して共感と責任を持って診察できるように教育する。このような診療知識・技術を修得したと認める者は、数年間、北海道内の地域一般病院または診療所において診療の実践を通じてより完成度の高い総合医、家庭医を目指して実践している。
このためには、以下のことに対する知識・技能・態度を身につける必要がある。
@ primary care medicine
・様々な臓器疾患、外科、内科等の既成の医療概念についての知識・技術に加えて、その枠を越えて有機的、多面的、総合的な思考と行動ができる。
・道案内役、調整役、聴き役、説明役、連絡役を担う思考と行動ができる。
A 研究方法の基礎としての臨床疫学、実践方法としてのEBM
・患者・住民についての診断、治療、予防、予後等に対する科学的な思考と行動ができる。
・患者・住民の抱える健康問題について、疑問の定式化、文献検索、文献の批判的吟味、判断の適用等のEBMが実践できる。
B 家庭医学・医療人類学
・「生きがい」の維持・向上を尺度とした思考と行動ができる。
・個人・家庭・地域の個別の事情に応じた思考と行動ができる。
・患者の自己決定を支援することができる。
・患者家族の背景を重視し、近接性、継続性、包括性、協調性を実現する思考と行動ができる。
・心理・社会的、倫理的観点から思考と行動ができる。
・家庭を一単位とした思考と行動ができる。
・地域を一単位とした思考と行動ができる。
・保健と・医療・福祉を包括した地域医療を実践することができる。

3.研 究
 当講座では、日常健康問題の研究、各種診断法における感度、特異度の検討、身体所見の妥当性の評価、費用効果分析、医療認知心理学の研究、健康と疾病に対する文化社会的反応や医療と社会文化的側面に関する研究、医師患者関係、受療行動、患者の解釈モデル、コンプライアンスに関する研究等を行ってきた。
 当教室赴任前の京都大学で行った研究を引き継いで、臨床疫学、統計学の知識を用いて、日常疾患の臨床研究を続けている(これまでは、糖尿病スクリーニングにおけるROCカーブやその検査法の優劣、NIDDMと過体重、インスリン抵抗性と血圧値の関係などの疫学研究をした。現在は身体診察、画像診断についての信頼性を検討する研究を行っている。 また、ベイズ推論における確認バイアスを補正した有病率の計算法、医療情報部と共同でオーダー入力インターフェースの開発を続けている。生活の質で調整した生存年数を指標にして、様々な疾患の決断分析学的研究をした。社会のもたらす健康への影響をみるため、NIDDM患者で血糖値への家族機能の影響、 医師患者関係と血糖コントロールの関係を研究した。また、一般内科入院患者にみられる倫理的問題の種類と頻度、内科臨床研修における剖検の有用性、入院患者での副作用の発生頻度、症例提示の仕方について検討した)。
 質的研究も重要視し、学生や患者の思いを汲み上げて論文にしている(臨床実習から得た学生の学び、Significant Event Analysisを用いた振り返り”の検討)。

4.出 版(著書・翻訳)
『医療における人間学の探求 』(ゆみる出版、 1999)
『図書館員のためのEBM入門 知っておきたい知識と技能』(日本医学図書館協会、2001)
『ナラチヴ・ベイスト・メディスン 臨床における物語りと対話』(金剛出版、2001)
『脱専門化医療』(診断と治療社、2001)
『患者中心の医療』(診断と治療社、2002) 
『EBMを飼いならす』(中外医学社、2002)
『患者中心の医療面接』(診断と治療社、2003)
『患者中心のケア』(診断と治療社、2004)
『医学生からみる医学史』(診断と治療社、2005)
『ナラティブ・ベイスト・プライマリケア』(診断と治療社、2005)
『あなたもできる外来教育』(診断と治療社、2006)
『ナラティブ・メディスン 物語能力が医療を変える』(医学書院、2011)等がある。


5.展 望
 当講座が学生教育、卒後研修に果たす役割は大きいと認識している。医療が細分化されたことで医療技術は飛躍的に進歩したが、それはともすれば患者を人間として診ないという弊害を生んでしまった。「患者本位の医療」を求める声があがり始めて久しいが、患者が真に求めている医師の育成が現在の教育現場でなされているとは言い難い。なぜなら、大部分は疾患の治療を主にしている教官が疾病への対応を中心に教えているからである。学生や研修医は臓器専門医から知識、技術を学ぶことはできるが、包括的に患者の病感にまで対応しようとするならば、模範となる態度(医療面接技法、患者とのふれ合い、患者と同じ目線の高さ、患者の「物語」を傾聴しようとする姿勢等)を、それとは別に総合医から学ぶ必要があろう。残念ながら今の教育現場では「患者が社会的背景を持った人間である」とする視点が教える側に不足している。あくまで患者の立場にたつことを中心に据えて臨床実践をすることが重要である。そして、何よりも教える者自体に“患者のための医療を実践するロール・モデル”でなければならないという信念が貫かれていることであろう。
 研究においては、論文にする上で臨床疫学・決断科学、統計学の知識は欠かせない。当講座では、社会のもたらす健康への影響も重要なテーマにしている。すなわち、受療行動や解釈モデルなど医療人類学の知識を研究に活かさなければならない。ベッドサイド倫理学や学生教育、研修医教育そのものを研究の対象として発表を続けてゆきたい。
 北海道の地域医療に貢献できる講座(総合診療科)として、学生、研修医の診療上のロール・モデルとなり、教育に情熱を持ってあたり、かつ臨床研究ができる人材が不可欠である。これに応えられる人材を集め、育てることを目標として今後も取り組んでゆきたい。

 
教授あいさつ
スタッフ紹介
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