北海道大学・大学院理学研究科・生物科学
cGMPはSutherlandらによってcAMPが発見された(1957〜1960年)直後の1963年にAshmanらによって尿中に発見された環状ヌクレオチドで、種々のホルモンや神経伝達物質の作用を受けてその細胞内濃度が増加することが知られていた。しかし、cAMPと異なり細胞内での役割が長い間不明であった。その理由として、cAMPを合成する酵素adenylyl cyclaseがすべて細胞膜結合型でリガンドの受容体への結合後に活性化され、続く情報伝達の連鎖反応系が比較的早く明らかにされたのと対照的に、cGMPを合成する酵素には可溶性型と膜結合型の2種類の異なるタンパク質があるのに加え、リガンド結合後の伝達系が不明であったことによるものと思われる。しかし、心房性ナトリウム利尿ホルモン(ANF)受容体が膜結合型guanylyl cyclaseであることが明らかにされて以来、cGMPの機能の解明が飛躍的に進展してきた。本講演は受容体guanylyl cyclase研究の歴史に視点をおいて行った。1981年、ウニ卵ゼリー層から精子に多様な作用(走化性誘起、呼吸促進、細胞内pH及びCa2+の上昇、細胞内cGMP濃度の増加)を示すオリゴペプチド(精子活性化ペプチド−Sperm-Activating Peptide−:SAP)が単離、構造決定され、その後、種々のウニ卵ゼリーから多くの同様な作用を示すペプチドが単離・構造決定された。その中の1種、SAP-IIA(CVTGAPGCVGG-GRL-NH2)、の結合タンパク質が膜結合型guanylyl cyclaseであることが明らかにされ、このcDNAをプローブとしてANF受容体がクローニングされた。以後、各種の受容体/guanylyl cyclase isoformsがクローニングされた。膜結合型guanylyl cyclaseは一つの膜貫通領域を持つタンパク質で、細胞内領域にはkinase-like domain、cyclase catalytic domainがあり、いずれの領域も種問で高度に保存されている。現在までに6種類以上のisoformsの存在が明らかにされており、isoformによって組織特異的局在を示すものがある。メダカの眼のcDNA libraryからクローニングされたisoformの1種類はmaternalで他の2種類はzygoticであり、興味ある発現パターンを示すなど、発生過程における発現様式の研究の進展が望まれる。