Entered: [1997.12.26] Updated: [1997.12.29] E-会報 No. 40(1997年 12月)
第8回 分子生物学交流会

日本生化学会北海道支部・北海道分子生物学研究会
合同シンポジウムの報告
北海道分子生物学研究会 集会幹事 石川 雅之(北海道大学農学部)


 日本生化学会北海道支部・北海道分子生物学研究会 合同シンポジウム・テクニカルセミナー『目で見る分子生物学・生化学』が 平成9年11月14日 午後 北海道大学 学術交流会館で開催された.講演の内容が充実していたことに加え,百名をゆうに越える聴衆にお集まりいただき,懇親会ともども盛会のうちに終了することができたことをまずはご報告申し上げる.

 シンポジウムは,題名通り「見る」ことを軸に展開された.分子生物学のひとつの最終到達点は生体物質が機能する様子を原子のレベルで見ることではないだろうか.そこで,最初の二題は機能する蛋白質を見る話.“ロ−タリ−シャドウィング-電子顕微鏡法による蛋白質分子構造の解析”(加藤剛志 先生,北海道大学大学院理学研究科,化学専攻)では,ロータリーシャドウイング法を用いた電子顕微鏡による蛋白質分子形態の観察技術のアウトラインと,得られる情報の特徴について細かな解説の後,ミオシン分子の構造変化に関する研究成果が披露された.次の演者Soll先生は,ちょうどこの会の前に御来日されていたところ,大塚先生のお招きに応じて札幌までわざわざ足をのばしてくださった."Glutaminyl-tRNA synthetase: from genetics to molecular recognition" (Prof. Dieter Soll, Department of Molecular Biophysics & Biochemistry, Yale University) では,様々な生化学的あるいは遺伝学的解析から,アミノアシルtRNA合成酵素による効率のよいアミノ酸の認識が,正しい組み合わせで酵素とtRNAが結合したときに限って起こるという仮説が示された.ミオシンにしてもアミノアシルtRNA合成酵素(大腸菌のGln- あるいはTrp-tRNA合成酵素)にしてもX線結晶解析による結晶における分子形態をもとに,液相中で条件により生き生きと形を変える蛋白質分子の様子が提示された.蛋白質は生きた分子であり,ダイナミックに形を変えながら機能する.X線結晶解析の描き出す蛋白質分子の形は確かに多くのことを語ってくれるが,そこで終わってはいけないことを再認識した.

 高次の生命現象における生体物質の機能を推定するうえで,その物質が存在する場所に関する情報は重要である.そこで,次の二題は生体物質のありかを見る話.“in situ hybridizationによる発現遺伝子の可視化”(渡辺雅彦 先生,北海道大学医学部,第1解剖)では,神経伝達物質グルタミン酸に対するレセプターあるいはグルタミン酸レセプターからのシグナル伝達に絡むと推測されるG-蛋白質に対応するmRNAの脳における蓄積パターンの比較から,どの細胞でレセプターとG-蛋白質のどのメンバーが機能しているかが論じられた.また,ノックアウトマウスの形質の解析から,それらの遺伝子の発生における働きも論じられた.“細胞内カルシウムイオンのレ―ザー共焦点顕微画像解析”(葉原芳昭 先生,北海道大学大学院獣医学研究科,生理学教室)では,シグナル伝達の2次メッセンジャーとして働く細胞質カルシウムイオンの濃度のin situリアルタイムのモニタリングの原理についての解説の後,膵臓腺房細胞あるいは肥満細胞の調節性分泌過程における細胞質カルシウムイオンの動態がビデオで示された.サイエンティフィックプログラムは以上だが,各先生ともご自身の研究成果とともに,そこで駆使されるテクニックについて詳細な説明をつけてくださり,今後そのテクニックを導入したいと考える方々にはよいイントロダクションとなったのではないだろうか.

 休憩を挟んで後半は,テクニカルセミナーということで,パーキンエルマージャパンの浅田真二 先生とアイシン・コスモス研究所の鍵山直人 先生にお話いただいた.まず,浅田先生から“Genetic Marker TechnologyとしてのAFLPの可能性”と題して,amplified fragment length polymorphisms (AFLP) の原理の解説の後,マッピングをはじめとした種々の遺伝解析あるいは遺伝子発現パターンの研究への応用例が示された.以前から使われてきたDNAマーカーとの比較から,AFLPの有用性が指摘された.最後に,鍵山先生から“蛋白質核酸の検出に用いる新規な蛍光色素の開発”と題して微量な核酸・蛋白質の高感度検出をケミルミネッセンスあるいはケミフルオレッセンスを用いて行う方法についてお話があった.今やラジオアイソトープに代わってケミルミネッセンスを使った核酸・蛋白質の検出が繁用されているが,さらにその次世代の検出ツールとしてケミフルオレッセンスが有力であるとのご意見など,これからの流れを考える上で大変勉強になった.

 懇親会では,ご馳走を囲みながらシンポジウムではうかがえなかった細かい話や裏話に花が咲いた.末筆になったが,素晴らしいご講演をしてくださった演者の先生方と,座長の先生方をはじめ舞台の表裏でサポートしてくださった皆様,講演をしていただく先生の選定にあたり有用なご助言をくださった方々,また,シンポジウムにお越しくださった皆様に心からお礼を申し上げる.

<以下,講演予稿の再録>


<カット>川野 裕美

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