Entered: [1998.10.10] Updated: [1998.11.19] E-会報 No. 42(1998年 10月)
第9回 分子生物学交流会

T細胞抗原認識の分子機構
北海道大学・免疫科学研究所・病理部門
小笠原 一誠


 T細胞が抗原を認識し反応するためには,抗原由来ペプチドの結合した主要組織適合抗原複合体(MHC)分子にT細胞抗原レセプター(TCR)がさらに結合する必要がある.すなわち,TCR,MHC分子,抗原ペプチドの三者間で3分子複合体が形成されてはじめて,T細胞が反応する.従って,抗原ペプチド上には機能の異なる2種類の部位が存在する.TCRと結合する部位とMHC分子と結合する部位である.マウスMHCクラスII分子であるH-2Ab分子とハトチトクロームcの43から58番残基よりなるペプチドp43-58(AEGFSYTDANKNKGIT)は結合し,置換ペプチドとH-2Ab分子との結合試験によりp43-58のMHC結合部位は46および54番残基であることが明らかとなった.また,p43-58の50および52番残基置換ペプチドでマウスを免疫すると,これらの置換ペプチドに特異的に反応するT細胞を活性化できた.この結果,T細胞はアミノ酸1コの差異を区別することができ,TCR結合部位は50および52番残基であることが判明した.

 TCR結合部位である50番残基を置換したペプチド50Vはp43-58と同様にH-2Ab分子に結合したが,50VのMHC結合部位である46および54番残基のアミノ酸を置換したペプチド46D50V54RはH-2Ak分子と結合するようになった.そこで,46および54番残基を種々のアミノ酸に置換して,各H-2A分子に結合するアミノ酸を決定した.その結果,46番残基にフェニルアラニン,54番残基にアラニンを持つペプチドはH-2Ab,d,s分子に結合することが判明した.さらに,46番残基にアスパラギン酸,54番残基にアラニンを持つペプチドはH-2Ak分子に結合し,46番残基にアルギニン,54番残基にアラニンを持つペプチドはH-2Au,v分子に結合することが明らかとなった.

 次に,46D50V54Rの46番残基と結合するH-2Ak分子上の部位を同定するために,MHCクラスII分子の一部を入れ替えた遺伝子導入細胞および変異遺伝子導入細胞を抗原提示細胞として使用し,46D50V54R特異的T細胞ハイブリドーマの反応性で46番残基に対応する部位を決定した.その結果,46D50V54Rの46番残基はH-2Akα鎖の56番残基と結合し,H-2Akα鎖の57番残基はTCRと結合することが判明した.

 p43-58のTCR結合部位である50番残基と結合するTCRの部位を決定するために,50番残基をリジンに置換し,反応するT細胞のTCRのアミノ酸をシークエンスした.50番残基のプラスの電荷を持つリジンに対応して,マイナスの電荷を持つアミノ酸がTCRβ鎖のcomplementarity determining region(CDR)3に出現した.その結果,p43-58の50番残基に結合するのはTCRβ鎖のCDR3であることが判明した.また,p43-58の53番残基はTCRβ鎖のCDR1/2と対応した.以上の結果から,我々の3分子複合体の位置関係は結晶解析された別の3分子複合体の位置関係と類似しており,TCR/MHCクラスII分子/ペプチドの多くは類似の構造をとることが推定された.


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