Entered: [1998.10.10] Updated: [1998.11.19] E-会報 No. 42(1998年 10月)
第9回 分子生物学交流会

リボソーム蛋白質の構造解析
北海道大学・大学院理学研究科
田中 勲


 リボソームはrRNAとタンパク質から構成される核酸タンパク質複合体である.最も研究の進んでいる大腸菌のリボソームでは,全体の粒子は3個のrRNAと55個のタンパク質から構成されており,その総分子量は270万にのぼる.この途方もない大きさの粒子の詳細な構造を知るために,さまざまな研究手段が駆使されてきた.それらは,電子顕微鏡法,中性子線回折法,X線解析法,化学的クロスリンク法,等々である.免疫電子顕微鏡法と中性子線回折法を使うことにより,55個のリボソームタンパク質の位置がすべて決定された.また,化学的クロスリンク法を使うことにより,リボソームタンパク質とrRNA間,あるいはrRNAのヘリックス間の相対的な位置が決定された.また,ごく最近,X線解析法により,9Åの分解能で,大サブユニットの構造が得られた.こうした,全体の構造を一度に見ようとする試みとは別に,リボソームを構成する個々の成分を単離精製し,一つ一つ構造決定しようとする試みも着実に実を結びつつある.現在までに55個のリボソームタンパク質の内の約3割にあたる15個のタンパク質の詳細な分子構造がX線結晶構造解析によって決定されている.

 私達は,リボソームの持つ2つの重要な機能センターである,遺伝暗号解読センター,ペプチジルトランスフェラーゼセンターを構成するタンパク質の構造解析を行なっている.遺伝暗号解読センター,ペプチジルトランスフェラーゼセンターは,それぞれ16S rRNAあるいは23S rRNAを中心として数種類のタンパク質によって構成されている.遺伝暗号解読センターを構成するタンパク質の中心はS7である.このタンパク質は,リボソームに結合したmRNAやtRNAのごく近傍にあることが化学的クロスリンク法で確かめられている.このタンパク質はまた,小サブユニットのヘッドの構造を形成するときの初期過程で重要な働きをしている.つまり,このタンパク質が16S rRNAに結合して,その立体構造を構築する.できた構造体に対して残りのリボソームタンパク質が結合していくことにより,小サブユニットが形成される.S7は5本のαらせんから成るコアーを持ち,これからβリボンが伸びた構造をとっている.αらせんでできたコアー構造がrRNAの構造構築の核となると考えられる.一方,ペプチジルトランスフェラーゼセンターでは,23S rRNAを中心に構成されており,そこに存在する最も重要なタンパク質はL2である.私達は,最近,L2の中心部分にあるRNA結合ドメインの構造を決定した.L2のRNA結合ドメインは,βストランドだけからできていて,中央に分子の裂け目を持っている.rRNAに結合する部位は,この中央の裂け目にあると考えられる.


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