Entered: [2000.03.13] Updated: [2000.05.16] E-会報 No. 46(1999年 11月)
第10回 分子生物学交流会

蛍光相関分光法による生体分子の単一分子検出
北海道大学・電子科学研究所
金城政孝


 蛍光相関分光法(Fluorescence Correlation Spectroscopy, FCS)の原理や理論的研究は1970年代に確立されたが,装置的な問題のために,広く利用されるには至らなかった.しかし近年発展してしてきた高感度検出系やレーザー技術,デジタル解析技術を用いることで,簡便な生体高分子の高感度微量検出・分析法として注目されるようになってきた(1―3).FCS測定の特徴は蛍光分子の数や濃度,形状や大きさ,また,分子間相互作用の強さなどを物理的な分離過程(B/F分離)を経ずにほぼリアルタイムに観察できる事である.また,試料測定部に高倍率の対物レンズを用いているため,その空間分解能を利用して,生きた細胞を対象とした測定にも利用可能である.

 蛍光相関分光法はレーザー光を光源とし,光学対物レンズを通して試料溶液へ照射し,蛍光発光を検出装置の前の共焦点位置に設置したピンホールを介して検出するよう構成されている.共焦点光学系を利用することでバックグラウンドの迷光を遮断し,観察される領域をサブフェムトリットル(<10ー15リットル)という極微小領域に限定することが可能である.通常のレーザー顕微鏡と構成は似ているように思われるかもしれないが,FCSは溶液中の微少な一点に注目するだけで,画像を観察することではない.このような微少領域で例えば10−6M程度以下の濃度になると,分子はこれまでのアボガドロ数で代表される莫大な集団ではなく,個々の分子の動きを際立たせ,これまで見えなかった事象が見えるようになる.そこでは溶液中の蛍光分子はブラウン運動よりこの微少領域に自由に出入りをし,「数ゆらぎ」を起こし,その結果,定常状態においても蛍光強度に「ゆらぎ」が観察される.この「ゆらぎ」を解析する事で分子の大きさや構造,また分子数を決定する事ができるようになる.FCSを用いることで観察視野内に1分子以下の蛍光分子が存在しても検出が可能であり溶液中での「単一分子検出法」としても優れている.

 今回,我々の研究室で行ってきたFCSを用いた核酸分子分解過程の解析(in vitro)から細胞内のGFP発現過程の観察(in vivo)などの測定を通して,広い研究フィールドにおける,その可能性を紹介したい.

  1. 西村吾朗,金城政孝 生物物理 39, 81-85 (1999)

  2. 金城政孝 精密工学会誌 65, 175-180 (1999)

  3. 金城政孝 蛋白核酸酵素 44, 1431-1438 (1999)


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