精巣特異的タンパク質AMY-1DJ-1の機能
                   平 敬宏(北海道大学大学院薬学研究科)

はじめに 
 21世紀を迎えた日本は、出生率の低下が確実に進行しています。この出生率の低下には、多くの理由が挙げれているが、その理由のひとつに男性側の生殖能力の低下が指摘されている。現に、精子数の減少、精子の運動性の低下が顕著化し、原因として、心因的な問題に加え、内分泌かく乱物質(環境ホルモン)の影響が危惧されている。
 我々は、c-Mycなどのガン遺伝子産物の細胞癌化、細胞周期に対する機能を研究してきたが、その過程で2種(AMY-1、 DJ-1)の新規タンパク質を得た。これらは精巣・精子で高発現し、精子形成に対する機能が明らかになった。そこで、この2種のタンパク質の機能を紹介し、広く様々な角度からのご意見、ご批判をいただきたい。

AMY-1
 AMY-1(Associate of c-MYC)は、c-Mycと結合する103アミノ酸からなるタンパク質で、発現は精巣特異的である。マウスでは生後4週齡から顕著に増加したことから、精子形成に対する機能が示唆された。AMY-1機能を解析するため、精巣での結合因子の探索を酵母two-hybrid法により行った。その結果、S-AKAP(A-Kinase AnchorProtein)84が得られた。S-AKAP84は精巣特異的に発現し、RII結合ドメインを持ち、A-kinaseのRIIドメインに結合し、A-kinaseをミトコンドリアに固定し、精子の運動に関与すると考えられている。また、AMY-1とS-AKAP84は両者ともに精子のネックのミトコンドリアに局在し、AMY-1はA-kinaseの活性を抑制することが明らかに。これらの結果から、AMY-1が、S-AKAP84と協調して精子運動性獲得に機能していると考えている。

DJ-1
 DJ-1 は、rasと協調して細胞のがん化を促進する189アミノ酸よりなる新規がん遺伝子である。ショウジョウバエ、線虫、Xenopus、マウス、ヒトにわたって高度に保存され、種を越えた不可欠な機能が推定されるていた。我々とは独立に海外の研究者らにより、DJ-1 は精巣及び精子で高発現し、Ornidazole等の内分泌かく乱物質投与により不妊化したオスラット精巣で減少するタンパク質であることが報告された。そこで、精巣(精子形成)での機能解析のため、AMY-1と同様にDJ-1結合因子を探索した。その結果、PIASxα(Protein Inhibitor of Activated Stat)が得られた。PIASxαは精巣特異的であり、AR(Androgen Receptor)へ結合することによって、AR依存的転写を負に抑制する因子である。DJ-1 はPIASxαと結合し、PIASxαのARへの結合を拮抗的に抑制し、転写を負から正に誘導する転写制御因子であることが明らかになった。この様にDJ-1はARと協調し、精子形成、精巣癌、前立腺癌などへの関与が示唆された。そこで、DJ-1結合タンパク質をさらに探索したところ、ARとも結合する新規タンパク質DJBP、p53BP3/TOPORS/LUN、HIPK1、Daxx、Ubc9などが単離された。これらの既知因子はSUMOylationに関与し、PMLと共にND10を構成するタンパク質である。PIASxαはDJ-1と結合するが最近未知であったSUMOylationのE3としてPIAS familyが相次いで同定された。この様にDJ-1の機能は、種々の因子と会合し機能多様性を獲得し、そこへSUMOylationよる制御が協調すると示唆され、実際、SUMO修飾を受けないDJ-1のリジン残基を置換した変異体ではAR依存的転写を誘導できず、癌化能、細胞増殖能が抑制された。これらのDJ-1の機能を理解することは、精子形成(異常)と男性不妊化、前立腺癌、精巣癌の発症機構の解明、ひいてはこれらの疾患治療薬の開発につながると期待している。